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【美術ブックリスト】 一般財団法人長野県文化振興事業団『シンビズムの軌跡 信州ミュージアム・ネットワークが生んだアートプロジェクト』

2015年に長野県が文化振興元年を宣言し、翌年長野県芸術監督団事業がはじまった。芸術監督に就いた本江邦夫氏の提唱で、長野県内の公立、市立の美術館施設、フリーの学芸員の共同企画によって展覧会を開催することとなり、その展覧会シリーズが「シンビズム」と呼称されることとなった。

2018年から4回の展覧会が県内14会場で開かれ、若手の現代作家から戦後美術史を語る作家まで、総勢65名の県ゆかりの作家を紹介。学芸員自身が作家を選び、所属を超えて切磋琢磨しながら企画、開催された。

足掛け6年、4回の「シンビズム」展を経て生まれた「信州の新たな美術の波」の軌跡を振り返り、学芸員の意識の共有や資質の向上、県民と作家をつなぐネットワークの構築という成果を記録する。ここまでが概要。

ここからが感想。
もともと長野県は面積が広いうえに山と谷で隔てられているためか、美術館はたくさんあっても横の連携がなかったらしい。それを結びつけることで新しい展開を図ろうとしたことはわかる。ただ、4回開催されたという肝心の展覧会が全国的に知られ、何かのムーブメントとなったかというと心もとない。

このネットワークを統一するのは、ネットワークによって地域の美術を振興しようという意志やコンセブトというより、むしろ芸術監督の本江邦夫さんが2019年に逝去(キリスト者なので帰天といったほうがよい)されたことによる本江さんへのオマージュではないかと思う。

参加者は口々に「参加してよかった」とはいうけども、それが画業の中でどのような意味があったのかは曖昧なままだ。

そんななか「展示規模に対して準備期間が短い」「趣旨がわからない」「作家がメインなのか学芸員がメインなのか美術館がメインなのか不明だった」「企画側は作り手の状況を理解していないと感じた」とする平林孝央の忌憚ない言葉は、学芸員を飛び越して、そもそもこれを企画した長野県あるいは行政主導の文化事業への不信を明確に表明している。もし本江さんが生きていたら、どう答えただろう。きっと運営の不備を謝っていただろうと思う。

160ページ 菊判 1980円 信濃毎日新聞社


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