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【美術ブックリスト】『げいさい』会田誠

現代美術家の著者が、2020年に「文学界」に3回に渡って短期集中連載し、同年出版された小説。佐渡から上京して美大受験を目指していた2浪目の年、予備校の友達を訪ねた多摩美術大学の芸術祭「芸祭」の一晩の出来事を中心に、そこからさかのぼるかたちで現役の年の東京芸大の受験、浪人1年目の日々を経て二度目の東京芸大受験が描かれる。私小説のようだが、それが体裁だけなのかフィクションなのかは判然としない。
ここまでが概要。

ここからが感想。
美大受験も、予備校の授業も、美術大学の実際も私自身は体験したことがない。ときどき絵描きさんたちとの飲み会の席で昔を懐かしんで語られるのを聞くことがあるのだけど、一般大学の卒業生からするとほとんど忘れてしまった受験や大学生活と比べて、彼らの青春はよほど熱かったんだろうなと想像するしかない。それを「ブルーピリオド」や「かくかくしかじか」といったマンガで覗くように見たり、こうした小説で間接的に理解している。

さて本書の感想。私はノンフィクションとして読んだ。後に物議をかもす作品や行動で有名になるアーティストが、若い時には普通に受験に苦しみ、しかし真面目に取り組んでいたことは、想像していた通り。私は著者に会ったことはないのだけど、いくつか断片的に書いたコメントなどをみては、なんか真面目な人だなあと思っていたからかもしれない。
冷静に考えると20歳前後の時期のことだし、祭りの熱狂の中ではここに書いてある無謀な行動は割とよくあるかもしれないけども、それを文にしようと思い立ち、実際に書いて発表するところが芸術家なのだと改めて思った。
読後感がいいわけでも、なにか教訓が得られるわけでもないし、この人の青春を羨ましいとも思わないのだけど、それはそれでいいように思う。


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