マガジンのカバー画像

美術・アート系の本

367
美術に関する新刊・近刊を中心にしたブックレビューです。
運営しているクリエイター

#現代アート

【西村の勝手にベスト・アートブック・オブ・ザ・イヤー2022】

今年出版された美術系の書籍のなかから、西村が勝手にベスト1を決定します。月刊美術の新刊情報コーナーで今年紹介したおよそ130冊の候補から選びました。リンクはnoteに書いた私の紹介文です。 ■日本のアートブック部門ベスト1■ 『いい絵だな』伊野孝行、南伸坊著 (240ページ 四六判 2420円 集英社インターナショナル) なにより絵画が好きという気持ちが前面に出ている対談で、ときどき深い洞察があって読んでいて楽しかった一冊。 ■日本のアートブック部門 次点■ 『観音像とは

【美術ブックリスト】『ヴェネチア・ビエンナーレと日本』国際交流基金 (企画・原案), 三上 豊 ほか (編集)

ヴェネチア・ビエンナーレ美術展の日本公式参加70周年を記念して、過去の展示の記録を詳細にまとめたのが本書。現在開催中の2022年展のダムタイプの展示内容を冒頭に、年代を遡る形で1952年までを網羅する。 出品された作品画像、展示風景、出展作家の略歴とコメント、コミッショナーの報告、当時の展示評などで構成されている。 ここまでが概要。 ここからが感想。 試しに古い方から読んでみた。 日本初出展となった1952年の第26回展には、梅原龍三郎、安井曽太郎、鏑木清方、福沢一郎といっ

【美術ブックリスト】Brainard Carey『Making it in the Art World : Strategies for Exhibitions and Funding』

訳すと『美術界で成功する : 展覧会と資金集めのための戦略』となる。 著者は奥さんとアートユニット「Praxis」を結成してコンセプチュアルアートやパフォーマンスを展開するアーティスト。無名だったにもかかわらずさまざまな「戦略」によって美術館で個展を開催するようになるまでになった。そんなアーティストとして成功するまでに実際に試した方法を次々と解説するのが本書。 例えば、これからやろうとしているプロジェクトをDVDにまとめ、すでに有名になっているアーティストたちに送って資金

【美術ブックリスト】戸田裕介編著『ぺらぺらの彫刻』

まえがきでは、彫刻の実制作者と彫刻研究家が彫刻についての課題研究を目的に集まり、それぞれが論考を執筆したこと、そうしてできた本書が目指すのは彫刻への理解を深めることであると宣言される。 第1章「人体像の表面の向こうになにをみるか」は美術史家・田中修二氏が、ローマにあるパロック時代の彫刻や朝倉文夫、朝倉響子、最後にリカちゃん人形の例を出し、触覚の観点から彫刻の「表面」を論じる。どうやら近代的な彫刻観では彫刻表現の内面性が重視されてきたが、内面ではなく表面に着目する可能性につい

【美術ブックリスト】 エリーザ・マチェッラーリ著 、栗原俊秀訳『KUSAMA:愛、芸術、そして強迫観念』

イタリア人の著者による草間彌生のマンガ伝記。草間さんの自伝『無限の網』をそのままマンガにしたような本ですが、マンガというかイラストが味があっていい。 草間さんの輝かしい光の部分と、反面の悲哀の部分を的確に描いている。これから現代アーティストを目指す人にとっては必読の書。 現代アートを流行のカッコイイアートと思っている人が読むと、その深さと続けていく辛さがよくわかるはず。 ‎ 花伝社、‎ 144ページ、1980円、A5判 https://amzn.to/3dhU4P2

【美術・アート系のブックリスト】橋爪節也、宮久保圭祐編『EXPO'70 大阪万博の記憶とアート』

本書は2020年4月から7月に予定されたものの、コロナ禍によって6月から8月に延期開催された大阪大学総合学術博物館の「なんやこりゃEXPO'70 大阪バンバクの記憶とアート」展に基づいて執筆された論考とエッセイで構成されたもの。 「人類の進歩と調和」をテーマに開催された1970年大阪万博を豊富な写真と資料で振り返り、奇抜な建造物、あっとおどろく映像、斬新なデザインという記憶を辿りながら、蘇るアートに見えるもの、万博そのものや、開催地周辺にその後与えた影響などを掘り起こしてい

【美術・アート系のブックリスト】高島直之『イメージか モノか: 日本現代美術のアポリア』

戦後日本の現代アートを総括しようとする専門家の本が増えている。 本書は「反芸術」から「もの派」、ハイレッド・センターによる山手線事件、赤瀬川原平の模型千円札裁判など。1960年代から70年にかけての日本現代美術の潮流を、当時の批評家や作家の実践を通して読み解く。 その際、イメージとモノという二項対立あるいは相反する二軸で見ていく。現象するイメージの問題として美術を模索する方向と作品のモノとしての存在の問題として美術を考える方向は、哲学上の「観念と物質」のアレンジのようだが

【美術・アート系のブックリスト】中村宏著、嶋田美子編『応答せよ! 絵画者 中村宏インタビュー』

中村宏は、画家。正直私もよく知らなかったのだが、社会派というか、美術による反体制運動を展開していたらしい。本書は、戦後日本のモダンアートを研究する外国人研究者によるインタビュー集を、日本の読者のために通訳者であった編者がまとめたもの。 画家は略歴によると53年青年美術家連合に参加。読売アンデパンダン展、ニッポン展、日本アンデパンダン展などに出品。55年前衛美術会に入会、同年日本大学芸術学部美術研究室入所とある。 砂川での米軍基地拡張反対闘争などに参加して、それをテーマにし

【美術・アート系のブックリスト】 圀府寺司『ユダヤ人と近代美術』

広島市立大学の油絵専攻の学生を対象に、講義「絵画論」を依頼されました。そこで「絵画の意味論」と題して、絵画は描かれたイメージ以上の存在であり、さまざまな意味の担い手であるという内容を話すこととしました。 その中で、西洋ではカトリックとプロテスタント、東洋では儒教と道教の影響がそれぞれの時代の美術作品の前提になっていることを話しました。ユダヤ教も同様で、特に現代美術の世界では大きな意味をもっています。 講義では深く踏みいったことは話せなかったのですが、ユダヤ人が美術とどう向