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美術・アート系の本

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美術に関する新刊・近刊を中心にしたブックレビューです。
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#美術館

【美術ブックリスト】 『モダン・タイムス・イン・パリ 1925 機械時代のアートとデザイン』ポーラ美術館編著

【概要】 ポーラ美術館で開催中(5月19日まで)の同名展の図録兼書籍。1920~30年代のパリを中心に、欧米と日本における機械と人間との関係を振り返る。機械に託したユートピア、工業と調和したアール・デコ、機械への反発としてのダダとシュールなど豊富な作品と資料で問い直す。 【感想】 シュールレアリスム展もそうだけど、20世紀美術を問い直す展覧会が増えている。箱根のポーラ美術館まではなかなかいけないけども、こうして図録で楽しめるのはいい時代になったと思った次第。 青幻舎 B5

【美術ブックリスト】『学芸員しか知らない 美術館が楽しくなる話』ちいさな美術館の学芸員 著

【概要】 匿名の著者は、都内の美術館に勤務する現役の学芸員。一般には知られていない美術館学芸員の日常業務をひとつひとつ丁寧に記している。展覧会ができるまでの苦労や葛藤、図録製作に必要なデザイナーや作品の搬出搬入業者、修復家といった仲間との連携まで、細かく説明。雑芸員と揶揄されるその仕事について、誇りをもちつつも、功罪を意識して語っていたりする。 【感想】 もともとこのサイト「note」の記事だったものを、出版社からの声かけで書籍にまとめたものらしい。もとのウェブの記事にいく

【美術ブックリスト】『展示の美学』水嶋英治編

イタリア・ゴッピオン社は、美術館などの展示空間、照明デザイン、展示ケース、保存設備などのメーカー。2004 年にはルーブル美術館のモナ・リザのケースも担当した世界的メーカー。過去に手がけた10ヵ国36都市60の博物館・美術館から、展示写真260点余を収録したのが本書。 文字通り世界中の美術館と博物館の実際の展示を撮影した写真を1ページ1点の体裁で掲載。その上に「筆者の詩的感覚名付けた」キーワード、下には『博物館・美術館学用語辞典』(François MAIRESSE編 Dic

【美術ブックリスト】『常設展示室』原田マハ

美術にまつわる史実をもとにしたフィクション小説を得意とする原田の短編集。モチーフとして一方に美術館の常設作品があり、もう一方にすべて女性の主人公の生き方がある。両者が交錯するところに物語が紡がれる。 その交錯する場所が、作品が収蔵・展示されている美術館の常設展示室といった具合。 列挙すると ・ピカソ「盲人の食事」 NY・メトロポリタン美術館 同館のスタッフ ・フェルメール「デルフトの眺望」 オランダ・マウリッツハイス王立美術館 現代系ギャラリーの営業職 ・ラファエロ「大公の

【美術ブックリスト】『妄想美術館』 原田マハ,ヤマザキマリ

今年の一月に出版された本。 美術にまつわる物語で知られる小説家の原田マハと、イタリア在住の漫画家のヤマザキマリによるアートにまつわる対談。それぞれが好きな美術館、美術家、作品を自由に語り合う。レオナルドの《モナリザ》への見解を話の糸口に、徐々に原田は主に19世紀から20世紀の印象派、ヤマザキは15世紀イタリア・ルネサンスに偏愛ぶりを披露。最後は、もしも自分が美術館の館長になったらどんな美術館、どんな展覧会を開くかという妄想で終わる。 ここまでが概要。 ここからが感想。 原田

【美術ブックリスト】 稲庭彩和子編著『こどもと大人のためのミュージアム思考』

「Museum Start あいうえの」は、美術館、博物館、動物園、音楽ホール、図書館が密集する上野公園で、9つの文化施設が合同で行うプロジェクトの名称のこと。こどもたちにミュージアムでの体験をスタートしてほしいという思いで始まった体験プログラム。 本書は企画・運営した学芸員やスタッフといった当事者による2013年度から2021年度までを振り返った記録であるとともに、ミュージアムでモノを見て思考する体験を創造的な新しい学びとして「ミュージアム思考」の名の下に理論と実践の両面

【美術ブックリスト】水藤龍彦『知られざる日本工芸コレクション: ハンブルク美術工芸博物館とユストゥス・ブリンクマン』

ハンブルク美術工芸博物館の提唱者で、初代館長のユストゥス・ブリンクマンは、1873年のウィーン万博で日本の美術工芸作品に衝撃を受け、その後の人生をかけてドイツ、そしてヨーロッパにその素晴らしさを伝えようと尽力した。 残された文献、講演原稿などをもとに、一人の博物館館長が日本美術から何を受け取り、ドイツの美術界に何をもたらそうとしたかを明らかにする。 ここまでが概要。 ここからが感想。 ヨーロッパにおける日本美術の受容といえば、1867年のパリ万博を皮切りにまきおこり、さら

【美術ブックリスト】藤木晶子『竹内栖鳳 水墨風景画にみる画境』

東の大観、西の栖鳳と呼ばれた近代日本画壇の巨匠・竹内栖鳳(一八六四~一九四二)。これまで竹内の評価と研究は前半生に集中していたという。本書は、後半生に進展を見せた水墨風景画について論じる。水墨の技法、題材、取材、表現、当時の画壇の動向など、多角的な観点から分析し、栖鳳晩年の水墨風景画を近代日本美術史に位置付ける。ここまでが概要。 ここからが感想。 非常に綿密な研究書というのが率直な感想。特に水墨風景画の一つの典型として茨城県の水郷潮来に取材した作品を取り上げた第三章が出色。

【美術ブックリスト】 一般財団法人長野県文化振興事業団『シンビズムの軌跡 信州ミュージアム・ネットワークが生んだアートプロジェクト』

2015年に長野県が文化振興元年を宣言し、翌年長野県芸術監督団事業がはじまった。芸術監督に就いた本江邦夫氏の提唱で、長野県内の公立、市立の美術館施設、フリーの学芸員の共同企画によって展覧会を開催することとなり、その展覧会シリーズが「シンビズム」と呼称されることとなった。 2018年から4回の展覧会が県内14会場で開かれ、若手の現代作家から戦後美術史を語る作家まで、総勢65名の県ゆかりの作家を紹介。学芸員自身が作家を選び、所属を超えて切磋琢磨しながら企画、開催された。 足掛

【美術ブックリスト】中之島芸術文化協議会編『待ってたぞ! 美術館 大阪中之島美術館開館に寄せて』

構想から40年でようやくできた大阪中之島美術館の開館を記念して、関係者と識者のお祝いの言葉を集める。ずっと期待されながらなかなか建設が進まず、諦める声もあったので、完成、開館したというただそれだけで多くの人が祝辞を述べたことがわかる。ここまでが概要。 ここからが感想。基本的にはお祝い事なので楽しく読めるはずなのだが、やや編集の弱さが目立つのが残念。 第一部の対談と第三部の座談会は、いずれも関係者によるもの。美術館ができるまでの困難とこれからの期待が語られる。しかし本文を読ま

【美術ブックリスト】東京造形大学附属美術館監修『美術館を語る』

全国各地で活躍する学芸員が、これから同職を目指す学生に向けて現場の状況や担当者の生の声を届ける。 東京造形大学の学芸員課程で、コロナ禍によってままならなくなった博物館実習の代替プログラムとして企画されたゲストレクチャーを文章化、さらに書籍化したもの。全国の特に地域の美術館学芸員が登壇者で、しかも全員が東京造形大学の卒業生。つまり学生から見れば先輩の活躍を通して、いまの美術館の状況や問題点、解決方法を聞ける。 美大の授業、学芸員養成の授業を垣間見られる書籍はあまりないので貴