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美術・アート系の本

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美術に関する新刊・近刊を中心にしたブックレビューです。
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2023年5月の記事一覧

【美術ブックリスト】『イラストで読む 奇想の画家たち』 杉全美帆子著

「イラストで読む」シリーズの一冊として2014年に刊行された本の新装版。ボス、デューラー、カラヴァッジォ、ゴヤ、ブレイク、ルドン、ルソーといった美術史の鬼才たちの作品と生涯をイラストで解説する。 時代時代の主流とは離れた形で彼らが制作した作品の意義や、画家自身の数奇な人生や個人的トピックを解説している。 ここまでが概要。 ここからが感想。 いまでは類書がたくさんでているけども、画家たちについてちょこっと知るにはちょうどいいかも。 カラヴァッジォが通称で、本名はミケランジェ

【美術ブックリスト】『アート・ローの事件簿 美術品取引と権利のドラマ篇』島田真琴著

前回紹介した『アート・ローの事件簿 盗品・贋作と「芸術の本質」篇』と同時に刊行された続編。こちらは売買など取引にまつわる訴訟や著作権問題、略奪品の所有権に関する裁判、表現の自由をめぐる問題、工事などの際の美術品や文化財の保全に関する訴訟などが扱われる。 古くはレオナルド(本書ではダ・ヴィンチと呼称される)が祭壇画《巌窟の聖母》の報酬について、依頼した修道院と争った事件、新しいところではあいちトリエンナーレの「表現の不自由、その後」展をめぐる騒動と補助金支払いについての訴訟が

【美術ブックリスト】『アート・ローの事件簿 盗品・贋作と「芸術の本質」篇』島田真琴 著

著者は弁護士。日本とイギリスで学び、両国で実務を経験したほか、大学でも教え、さらに新司法試験考査委員も務めた経歴もある。 前著『アート・ロー入門―美術品にかかわる法律の知識』(慶應義塾大学出版会、2021年)が、美術に関わる法律の理論篇であったのに対して、本書は盗品、略奪美術品、贋作といった美術品に関する実際の事件の経緯と裁判の推移と判決までをまとめた判例篇ともいえる。 ここに登場するのは、フェルメール、ゴヤ、モネ、ホイッスラーなどいずれも著名な作品に関する、19世紀後半

【美術ブックリスト】 『奈良美智 終わらないものがたり』 イェワン・クーン著、河野晴子訳

イギリスのPhaidonから2020年に刊行された「Yoshitomo Nara」は、B4判という大判で約2キロ、価格も13000円ほどの高級書籍だが、本書はその日本語版でサイズ的にも価格的にも手軽になっている。 著者は香港大学芸術学部人文学科芸術学系准教授。中国や日本の美術および建築を専門とするかたわら、コンテンポラリーアート分野の評論家やキュレーターとしても活動するらしい。 奈良の初期から現在までの制作の歴史を、取材と証言、資料、写真などとともに解説する奈良美智論。絵

【美術ブックリスト】『原田マハ、アートの達人に会いにいく』原田マハ著

「芸術新潮」の連載をまとめたもの。 美術館館長、文学者、建築家、映画監督、詩人、ピアニスト、漫画家、コレクターなどが登場する。 対談のなかでは、アートに関心をもったきっかけや初めて買った作品など、アートへの入り口から現在の活動までを聞いていく。 ここまでが概要。 ここからが感想。 画家、美術家が登場しないのには何か理由があるのだろうか? それはともかく対談というよりは、原田が聴き手になったインタビュー集になっている。原田は自身が小説家だが、本書のなかでは素人に近い立場を貫い

【美術ブックリスト】『江戸の衣装と暮らし 解剖図鑑』菊地ひと美著

‎ 著者は衣装デザイナーを経て、現在は江戸の衣装と暮らし研究家として日本橋再開発にイラストが起用されるなど活躍している。 江戸時代は衣服や髪形を見れば、その人の身分や職業がわかったビジュアル重視の社会だった。本書は、江戸時代初期から後期までの、武家、町人、商人、職人、自由人、花魁といった江戸時代に暮らすあらゆる身分の老若男女の衣装をイラストと文で解説。季節ごとや場面ごとの着こなしをオールカラーのイラストで図解する。 ここまでが概要。 ここからが感想。 歌舞伎や時代劇を見る

【美術ブックリスト】『わからない彫刻 つくる編 (彫刻の教科書 1) 』 冨井大裕、藤井匡、山本一弥編

武蔵野美術大学がおくる『彫刻の教科書』第1弾。(第2弾「みる編」が予定されている) 素材も技法も多様となり、他のジヤンルとも重なるため「彫刻とは何か」は特定できず、その概念は人の数だけ存在するという理由で、「わからないもの」とされる彫刻を、多様な理解のままで提示する。 各項目に論者が二人立てられる。 例えばモデリング=塑造の章は、粘土、型取り、樹脂といった素材と技法それぞれに対して、二人が別々の文を寄せる。制作方法の解説と体験的エッセイだったり、制作の段取りと歴史解説だった

【美術ブックリスト】 『戦前期日本のポスター: 広告宣伝と美術の間で揺れた50年』田島奈都子著

シリーズ近代美術のゆくえの一冊。 著者は青梅市立美術館学芸員。近代日本のポスターを中心とするデザイン史が専門。2007年姫路市美術館勤務時代に企画した「大正レトロ・昭和モダンポスター展 印刷と広告の文化史」の成功をきっかけに15年越しで刊行されたのが本書。 19世紀末に西洋式印刷術を取り入れて登場した日本のポスターの明治、大正、昭和、敗戦までの変遷を辿る。 圧倒的に数の多い美人画ポスター、戦時期のプロパガンダ用ポスター。積極的にポスター制作に参加した画家たちなど、時代を見据え

【美術ブックリスト】『おとなのスケッチ塗り絵 絢爛たる花鳥図譜 ~静と動を描写する伝統様式~』田口由花・絵 

「おとなのスケッチ塗り絵」シリーズの23作目。(ほかに万葉の花、ボタニカルアート、草花写生図譜、浮世絵などがある) 『絢爛たる花鳥図譜』は、日本画の花鳥画がテーマで、担当したのは日本画家の田口由花。 花鳥画とは、もともとは花と鳥を題材にした日本画のこと。そこから広がって昆虫、動物、魚といった生物と、植物全般を組み合わせたものをいう。静と動の自然を謳うとともに、組み合わせによって「子孫繁栄」や「出世」の意味をもつ場合もある。 冒頭にお手本を掲載。そのあと、簡単な解説ととも

【美術ブックリスト】『ゴッホのプロヴァンス便り 手紙とスケッチで出会う、あたらしいゴッホ』 マーティン・ベイリー著、岡本由香子訳

ゴッホが南フランス滞在中に残した260通の手紙の約半数を収録しつつ、それとは別に解説が付されていく。 制作中の作品について、色について、構図についてなど、いま目にすることのできる作品が出来上がるまでの過程が分かるものや、画家の仕事について、病院など生活についてなど、「ゴッホ自身が語るゴッホ」を読むことができる。ほとんどは弟のテオに当てたものだが、その妻ヨーや、ゴーギャンに綴った手紙もある。 著者はアートニュースペーパーの記者で、ゴッホ研究の第一人者とのこと。 図版多数。巻末に

【美術ブックリスト】 『サイエンスコミュニケーションとアートを融合する』奥本素子 編

サイエンスコミュニケーションとは、科学についての対話や合意形成を成り立たせるコミュニケーションのこと。例えば原発について、ワクチンについて、ヒトゲノムについてなどは、専門家だけでなく広く一般の合意にもとづいて決定されるべき事案であり、それには専門的な知識を多くの人びとに理解してもらうための告知や説明が前提として求められる。 本書はそうしたサイエンスコミュニケーションに、アートを活かす方法を、実例を豊富に挙げて探っていく。 冒頭でアートとは現代アートを主に取り扱うことが宣言さ

【美術ブックリスト】「新版 ハマトンの知的生活」P.G.ハマトン著、渡部昇一・下谷和幸訳

著者は19世紀イギリスで活躍した、いわゆる知識人。美術雑誌「The Portfolio」の編集責任者として成功した人物。 本書は自己啓発本の元祖のようで、いかにして知力を高め、精神力を鍛え、充実した毎日を送るかについて、食事について、時間の使い方、お金のことなど思いつくままに、おすすめの身の処し方を記述していく。 ゲーテ、シラー、カント、モンテーニュ、レオナルドなどヨーロッパの著名な文豪や芸術家や学者を例に挙げながら、彼らが実践した健康法や読書法、食事の取り方や時間の過ごし方