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美術・アート系の本

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美術に関する新刊・近刊を中心にしたブックレビューです。
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2021年5月の記事一覧

【美術・アート系のブックリスト】酒井忠康著『芸術の補助線』みすず書房

世田谷美術館館長による美術にまつわるエッセイ集。 旅先の列車内で想いを馳せたこと、美術館での出会い、展覧会にまつわる思い出など、いわば美術を仕事としている人の日常が表れた日記のようなものです。 社会的には高い立場にある方ですが、文章は啓蒙的でなく、むしろ学生のような向学心が見えます。 文体は昭和の人という感じなので、若い人には読めないあるいは古色すぎてニュアンスが伝わらないと思われる箇所もあります。その意味では現代人の文というより、近代の文学者に多く見られる身辺雑記の範疇

【美術・アート系のブックリスト】 Magnus Resch著『How To Become A Successful Artist』 PHAIDON

著者はドイツ人研究者のマグナス・レッシュ。いくつかの大学でマーケティングに則ったアートマネージメントの講座をもつ一方、『Management of Art Galleries』いう、ギャラリストのための営業指南本で一躍有名なりました。Larry's Listというアートディーラー向けに大口コレクターを紹介するサイトの創立者の一人でもあります。 さてこの本は訳すと『アーティストとして成功する方法』でして、主にビジネススキルという観点から、アーティストになる方法を語っています。

【美術・アート系のブックリスト】 ジェイムズ・ホール著、高階秀爾監修『西洋美術解読事典: 絵画・彫刻における主題と象徴』河出書房新社(新装版)

1988年初版の事典の新装版。 聖書、神話、歴史的事実など、西洋の絵画と彫刻に登場する主題や象徴を調べるための事典。意味だけでなく、実際の作例の索引機能をもたせていて便利。 例えば、「指輪」の項目には、「権威の象徴」「結合の象徴」「聖職者の位」「三位一体」など作品の中でも様々な意味が列挙され、関連事項へ飛ぶように指示されます。 作品を見ながら、モチーフの一つ一つを読み解いていくこともできるし、象徴事典としてつ使うこともできます。プロメテウス、ヘラクレスなど神話の登場人物

【美術・アート系のブックリスト】ミニマル著『いちばんやさしい 西洋美術の本』彩図社

西洋美術の基本をコンパクトにまとめた入門書であり、最近必要とされる「教養」をミニマムな形で学ぶことができます。 絵画の種類と題して、主題によって宗教画、神話画、歴史画、風俗画などに分かれることが冒頭に示されているのは、親切です。後半はギリシア以来の歴史を時代様式に従って説明し、レオナルド、ラファエロ、ルノアールなど著名画家一人一人の業績を解説します。 図版はモノクロなので、絵を眺めて楽しむというより、イラストを楽しみながら美術の歴史をざっくり知るのにちょうどいいです。

【美術・アート系ブックリスト】島田真琴著『アート・ロー入門』慶應義塾大学出版会

美術品に関わる法律の知識を大変わかりやすく説明しています。 アートにまつわる法律の話というと、近年は著作権にまつわる権利の侵害の問題が多く、その方面の本もいくつか出ています。しかしたいてい著者は法律の専門家ではあっても、アートについて特に詳しいわけではなく、一点限りの絵画、その場限りの展覧会や舞台といったアートの特性が法的解決にどう影響するかは触れられない場合があります。 本書は、実際の売買、盗難、詐取、画家と画商の契約、オークションの責任、美術館の活動、表現の自由、国際

【美術・アート系のブックリスト】 宮下規久朗、佐藤優著『美術は宗教を超えるか』PHP研究所

期待以上の中身の充実ぶりに驚きました。 西洋美術の多くが宗教すなわち実質的にはキリスト教を背景に描かれていることは、なんとなくは分かっています。そのため美術や美術史を学ぶときには、同時に聖書やキリスト教の歴史の知識と照らし合わせて理解する必要があります。 それは例えば、アトリビュートといってマリア様には純潔の象徴として百合や薔薇が一緒に描かれていると説明されたりして、分かったつもりにもなったりします。 しかしキリスト教といっても様々でして、ルネサンス期のキリスト教と近代

【美術・アート系のブックリスト】京都国立博物館監修『トラりんと学ぶ日本の美術4 異国への憧れ』淡交社

トラりんは尾形光琳の「竹虎図」から飛び出した京都国立博物館PR大使。トラりんが生徒、京博の学芸員が先生になって、さまざまなジャンルの日本美術に歴史と魅力に迫る4巻シリーズの最終巻が本書。テーマは「異国への憧れ」。 対談の面白さは、異なった視点の交錯なので、話者はジャンルや年代、国籍や立場ができるだけかけ離れていた方が面白い。その点、この対談形式の解説は絶妙にいいです。 中国由来の水墨画、陶磁器、ヨーロッパに輸出された南蛮漆器など、海外文化の影響を受けた日本の美術を学んでい

【美術・アート系のブックリスト】 小池寿子、三浦篤ほか著『NHK 8K ルーブル美術館: 美の殿堂の500年』 NHK出版

帯に「現地で見るよりよくわかる」のキャッチコピー。 NHKの8K番組の高精細な画像をもとに、フランス・ルーブル美術館の所蔵作品と内観を大きな判型で見せていきます。42点の名品をじっくり見ることができ、映像をもとにしているからか一般の画集より臨場感を感じます。 文は番組の監修者であり、美術史家である著者二人の解説文とコラム。なぜかその後に、番組を見ながら語った二人の対談を掲載しています。しかし文の執筆者が再び登場する必要性があまり感じられないのが残念。別の視点で語るのならば

【美術・アート系のブックリスト】レイチェル・イグノトフスキー著、野中モモ訳『社会を変えた50人の女性アーティストたち』創元社

これまで『世界を変えた50人の女性科学者たち』『歴史を変えた50人の女性アスリートたち』などを刊行してきたアメリカ人イラストレーターが著者。 画家、建築家、詩人、写真家、陶芸家、デザイナーなど広い意味でのアーティストの生涯と功績をイラストと文で解説しています。作品画像はありません。ある程度、事前に知っていないと理解が難しい面があります。むしろ興味のあるアーティストを掘りさげて調べる導入として利用するといいかもしれません。 日本語訳がややこなれていないのが残念。イラストブッ

【美術・アート系のブックリスト】田中久美子著『理由がわかればもっと面白い! 西洋絵画の教科書』ナツメ社

《ヴィーナスの誕生》《最後の審判》《モナ・リザ》《叫び》など誰もが知ってる名画281点を掲載。なぜ名画なのか、美術史上どんな意義があるのかをとてもわかりやすく解説しています。 例えばボッティチェリ《ヴィーナスの誕生》がすごいのは、「タブーとされた裸身を復活させたから」。この一言で解説しているところがミソです。 作品写真以外はすべてイラストで図解しているため、ビギナーにもとっつきやすくて楽しい本です。有名どころはほぼ網羅しているので、教養として美術を学ぶ第一歩としていいでし

【美術・アート系のブックリスト】Magnus Resch 著『How To Become A Successful Artist』、Phaidon刊

5月26日発行予定の本ですが、予約しておいたら一足早く届きました。 マグナス・レッシュの最新刊。訳すと「アーティストが成功する方法」。アーティストの成功を芸術的成功、経済的成功、社会的成功の3つであるとし、そのすべてにおいて成功するための方法を述べています。 冒頭で、アーティストには起業家精神が必要であり、起業するビジネスマンと同じマインドセットを要求しています。そして「ミッション(使命)」「VISION(見通し)」「GOALS(目標)」を設定することから始めるべきと説い

【美術・アート系のブックリスト】舟越直木著『舟越直木』求龍堂

彫刻家の父・舟越保武、兄・舟越桂につづき創作の世界に入った舟越直木は、彫刻と絵画の分野で形式にとらわれない、みずみずしさと神話性に満ちた多様な作品を生み出した。2017年5月、肺癌のため64歳で逝去した舟越直木の創作世界を厳選した95点で振り返る初めての作品集。友人で画家のO JUN、舟越桂、美術評論家の峯村敏明によるテキスト、舟越直木自身による言葉を掲載。銀座ギャラリーせいほうでは3期に分けて刊行記念展を開催中(6月3日まで)。 2021年5月6日