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三洋最後のデジカメ・DSC-X1260に10年前を懐かしむ

 デジカメは三洋電機の登録商標です。

 三洋のデジカメというと、まあ市場的に存在感はあまりなかった。
 200万画素くらいの頃には、かなりマニアックな機種を出してるメーカーだったんですけどね。200万画素時代にHDR合成やってたくらい先進的で、動画性能も抜群。

 しかし実は、他社のOEMでいろんなカメラを製造していたもんで、世界の3割もの製造シェアを持ってたそうです。
 それもデジカメ市場自体がピークを過ぎ、三洋電機自体がPanasonicに買収され、デジカメ部門は株式会社ザクティとしてパージされるなど紆余曲折を経て、家電屋に売ってる製品としての三洋デジカメは消滅しました。


 三洋独自ブランドのデジカメは、90年代末くらいにMulti:z(まるちーず)、その後Xactiという名前で展開して、2005年にリリースしたDSC-E6 / S6をもって一旦打ち切られ、ムービーカメラだけ残ります。
 その後も一応販売していた機種はあるらしいんですが、どうも販路限定だったり海外専売だったりしたようです。

 それが2009年末になって、「デフレ進んでるから低価格機で巻き返せる」と言い出して、日本国内市場に再参入。
 それで発売したのが、DSC-X1250。新品1万円以下の超低価格帯という、スマホカメラがまだ弱かったからかろうじて残るニッチを狙う。
 でもって、1年半後の2011年夏ごろに後継機としてリリースされたのが、今回のDSC-X1260でした。
 X1250との差は……なんだろう、ほとんど同じに見えるけど、どうやらAFロックした被写体を追尾するシーカーAFがついたようです。

スペック

 さすがに格安機種なので、スペックはさすがに最低限な感じ。
 同時期の機種だと、ソニーDSC-W320、オリンパスFE-5050、フジフイルムFinePix AX250、キヤノンPowerShot A495、ニコンCOOLPIX L22、PENTAX Optio E90、Panasonic LUMIX DMC-S1あたり。
 2010年、もうガラケーの写メは当たり前、スマホも登場して、一般人が専用のカメラをわざわざ持たなくなる時代が始まってます。
 コンデジ市場も縮んでいってると思いますが、まだまだ各社が低価格機までラインナップしてましたね。

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 ちょっと比較対象がない写真ですけど、サイズは非常に小さい。93x55mm程度です。
 超低価格ながらバッテリーが単3電池ではなくリチウムイオンで、フラットな形状で厚さ17mm。胸ポケットも楽々です。
 外装もプラではありますが、意外にチープ感出ないように仕上げてますね。手に取るまで金属外装かと勘違いしてたくらいで。

 レンズは換算35-105mm F3.1-5.9の3倍ズーム。5群6枚だそうです。
 普通っちゃ普通ですが、他所だと最低価格機でも4倍ズームくらいになってることが多いので、ちょい見劣るか。
 光学手ブレ補正などはありません。電子手ブレ補正はありますが、なんか効き目がわからん……。
 最短撮影距離は、広角端10cm・テレ端60cmのようです。最短は5cmで、広角端からちょいズームした、焦点距離が換算41mmのところで使えます。

 センサーは、1/2.3型と思われる1200万画素CCD。
 これもごく普通。普通以外いうことがないくらい。
 ISO感度は64~6400。ただし1200万画素で撮れるのはISO1600までで、それ以上は400万画素に制限されます。

 液晶モニターは2.7型23万画素。これも普通。

地味に優秀なパンフォーカスモード

 スペックシートにはあまり出ないところですが、パンフォーカスモードがありますね。
 私は小さなセンサーのカメラなら、広角で使うときはパンフォーカスモードのほうがいいと思ってるので、これは嬉しい。

 PFモードでは、2m~無限遠までがピント範囲になるというので、多分3mくらいにピントを置いてるかな。
 で、PFモードでは光学ズームは広角端に固定され、ズームするとデジタルズームになります。一瞬戸惑いますけど、そうしないとパンフォーカスじゃなくなりますからね。これは正しい仕様と言えます。
 PENTAXとかリコーのコンパクトデジカメにもPFモードはあるんですけど、光学ズームが動いちゃいます。カメラの老舗二者よりも好ましい仕様を入れてくる三洋、侮りがたい。

操作性など

 操作性で不思議なのは、一切キーリピートしない仕様。時計設定だろうがなんだろうが、キーを押しっぱなしても連続で入力されない。
 まあ、リピートしないと困るようなところって、時計の設定以外にあんまりないような気もします。

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 電源ボタンは上面にあるんですが、誤操作しないように奥まっていて、爪を後ろからまっすぐ入れないと押せない感じ。横から行くと押せない。あんまりよくないな。

 メニューに入らず操作できるのは、ストロボモード、フォーカスモード、連写・セルフタイマーモード。
 十字キー左は、機能解説On/Offにあてられてます。画面に文章であれこれ事細かに解説が出る。初心者ならいるのかなあ……。

 露出補正はメニューの中で、しかも奥深くなのであまり使う気になれない。これは初心者向けっつってもよくないなー……。
 メニューの中は必要最低限で、彩度・コントラストなどの画質設定もなし。代わりにシーンモードの中にハイコントラストモードやビビッドモードがあったので、これを使えってことかな。

 それから三洋の謎伝統・しゃべるデジカメなのは未だに続いてました。ところどころ日本語音声で解説が入ります。
 もちろん私は音全部切るから使うことないですが。

実写

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 これはうっかりホワイトバランスを曇りにしちゃってたので、色が変なのは置いといてもらって。
 このカメラ、時期的に歪曲収差を後補正する前提で作られたレンズを使ってます。が、そういうカメラには珍しいことに、歪曲収差補正をオフにできちゃう。そうするとこんなひん曲がりぶり。

 で、ひん曲がってるにしても曲がり方が偏ってますが、どうやら少しレンズがずれちゃってるみたい。ピントも画面右側の方でずれがあるようで、画面右端はどう撮ってもボケてしまってました。

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 歪曲収差補正を入れると、この通りかなり真っ直ぐになる。レンズの狂いで歪曲がずれてるから、微妙に変な補正になっちゃってますが。

 ただ、CPUパワーがないみたいで、歪曲補正を入れると顕著に撮影後の処理が長くなる。撮影後にポストビューが出るまで1秒くらいかかる。
 電子手ブレ補正を入れるとさらに遅くなって、非常に撮影テンポが悪化しちゃいますね。

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 シーンモードはAUTOのままで使ってたんですが、これもしかしてオートシーンなのかな。妙に派手な色になることがあって、シーンモードの中にビビッドモードがあるから、それを選ばれちゃってるとか……?

 もちろん1200万画素CCDとなると、ダイナミックレンジも広くはないですね。コントラストが高くなっちゃう。

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 ワイドは樽型、テレは糸巻き型に歪みます。

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 コントラスト高いなあ。このカットでは見栄えはするけど。

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 格好いい古いビル。
 かなり樽型歪曲は見えますが、こういう素直な歪曲は、私はあんまり嫌いじゃないな。別に補正なくてもいい気がしてくる……いや、気にしないには大きすぎるか……。

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 晴れた昼間に使う分には、まあマトモに写りはするカメラですね。歪曲はまあ遅いの我慢して補正すればいいんですし。

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 ただ、歪曲補正をオンにするとしても、ファインダーでは映像がひん曲がっているので、そこはちょっと扱いづらい。

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 ちょっとレンズの状態が悪いのがあるとは思いますが、広角端だと遠景は少々ふんわりしてる感じかなあ。

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 むしろテレ端の方が、中央部だとキリっと写ってる感じでした。
 ちょっと気になる動作なのは、光学ズームがテレ端まで行ったら、まったくシームレスにデジタルズームに移行しちゃう。デジタルズーム無効にもできません。

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 日陰になるとどうも写りがだいぶ落ちちゃう。
 絞りは入ってないと思うんで、レンズの収差が絞り開放で増えてるとかじゃなくて、単にセンサーが頼りないだけかなあ。高画素小型CCDってだいたいちょっと暗いと駄目だし。

まとめ

 なにせ激安で、そのくせ意外とチープさは上手く隠してあって、超小型軽量で、当時スマホに対するアドバンテージだったズームもあり、使いづらいような変なところもない。ファミリーカメラとして使う分には特に文句もなかったんじゃないかな。
 そして、スマホのカメラが良くなったら、ニッチがどんどん狭くなっていく分野の商品でした。

 思えばPENTAXがして珍奇なカメラ次々とリリースしてたのも2010年頃だったな。
 フジフイルムの裸眼3DデジカメFinePix Real 3D W1もその頃。
 ソニーはWiFiとブラウザ内蔵で直接ネットに写真を上げられるDSC-G3をやってた。
 ニコンはプロジェクター内蔵のCOOLPIX S1000pjがある。
 あのカメラおじさんだけ相手に商売してるようなリコーも、PXなんて小洒落たものを突然出した。
 あれだけ後追い商法に徹してたキヤノンでさえ、PowerShot D10なんて、当時防水耐衝撃が流行り始めてたとはいえ、この潜水艇みたいな異様な形のを出してきて。今見るとかわいいけど当時笑ってもうた。

 家電の一ジャンルが衰退していく時って、メーカーが最後の花火みたいな変なものをリリースしまくったりする時期があるんですよね。
 ガラケーの末期にもこういう時期があって、Windowsパソコン一体型ケータイとか、プロジェクター内蔵とか、無茶苦茶なもんが出たもんです。

 そんなコンパクトデジカメが終わり始める時代に、三洋は自社デジカメ復活自体がひとつの花火だったんでしょう。
 というか、三洋以外はもう消えるニッチだからあれこれ色物を飛ばして頑張ってたのに、なぜか消えるニッチのど真ん中にまっすぐ突撃するのが三洋らしい商売ベタって気もします。
(と、こんなこと言ってるけど、私はちょうどこの頃に三洋に給料もらって生きてたから、あの会社に愛着があるんです)

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