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NHKワールドで受けた衝撃と「ペルシャ猫を誰も知らない」の話


今から約12年ほど前のある日、ペルシャ語の語学学校でクラスメイトだったRさんが逮捕されました。あまりにも衝撃を受けた出来事だったので、noteに書き残しておきます。

Rさんについてのこの記事は、以前「ペルシャ語の語学学校」の話の第2弾として少しの期間だけ投稿して公開していたのですが、一旦削除したんです。

読み返してみたら、どうにも分りにくく、簡単すぎる内容だったからです。
今回はもう少し細かくその時の状況を書いてみたので、お時間のある方は読んでみて下さい。

NHKワールドを見ていた時の話

ある日、いつものようにNHKワールドを見ていたら、英語でニュースが流れてきました。正直、英語はあまり理解できません。イランに住んでからは、外国語=ペルシャ語になっていたので、ますます英語からは遠ざかっていたんです。

本来、イランは衛星放送を禁止していましたが、どこの家庭でも屋上に大きな衛星放送用のアンテナを付けていたのが現状でした。

NHKワールドと言うのは、海外向けに制作されているNHKの番組で、ニュースなどを含めてほとんどが英語です。この頃私が好んでみていた番組は、当時 May J などが司会をしていた「J- MERO (ジェイ・メロ)」と言う音楽番組や、「猫のしっぽ カエルの手」という京都、大原でおしゃれなエコライフを楽しんでいるベニシアさんの番組などでした。

さて、ニュースを見ていた私は、突然テレビの画面に釘付けになりました。
なぜなら、ペルシャ語の語学学校でクラスメイトだった女性の顔がアップで映し出されていたから!!

「え!?」
「なんで映ってるの?」

英語なのでニュースの内容がいまいちよく理解できない私。
それでも全体的なニュースの流れや知っている英単語などを組み合わせて、大体の内容を理解しました。

クラスメイトだった女性は、「スパイ容疑」で逮捕されたんです。

クラスメイトだったRさん

イランでスパイ容疑で捕まってしまったのは、イラン人の父親と日本人の母親を両親に持つアメリカ人の女性でした。彼女の両親はアメリカに住んでおり永住権も取得しています。Rさんは生まれも育ちもアメリカでした。

年齢は私より10歳くらい年下だったと思います。

彼女と語学学校でおしゃべりした時、報道関係(ジャーナリスト)の仕事をしていると言っていました。彼女のお母さんが日本人だと聞いたので、「日本語は話せるの?」とペルシャ語で聞くと、「あまり話せない。お母さんが日本人なのに日本語が話せなくて恥ずかしい」と言っていたのを覚えています。

私は、自分の娘たちもイランと日本のハーフ(ミックス)なので、Rさんに対して勝手に親近感を抱いていました。

Rさんは、気さくで明るく、笑顔が素敵な女性でした。
仕事が忙しいのか、授業には来たり来なかったり、だったと思います。

スパイ容疑とは?

Rさんが「スパイ容疑」で捕まったなんて、とても信じられなかった私。
だって、何のためにスパイするの?
そもそも、どういう容疑で捕まってしまったのか分からなかったので、いろいろなところから情報を集めました。

その頃情報として入ってきていたのは、
彼女がイラン国内で禁止されているワインを購入したこと。
でも、これはスパイとは関係ない。

じゃあ、いったいなぜ捕まったのか?

また新たに入った情報では、イラン側の許可なしでジャーナリストとしての仕事をしていたとのこと。「報道許可証」が無かったのにも関わらず仕事をしていたらしい。

「もしかして、これが原因?」と思いましたが、逮捕されるような内容だったのか?いくら許可が無いにしても、「スパイ」になってしまうのだろうか?

当時のイランの背景

初めはワイン(アルコール)を購入した容疑で逮捕されたRさん。ところが後になって、「報道許可証」が無効になっているのにジャーナリストとして報道を続けていたという容疑に変更されている。

その後、どういうわけか「スパイ容疑」にまでなってしまっているのだから
訳が分からない。

これは、イラン当局が政治的理由によってRさんを拘束するために、様々な口実を探していたらしいのです。

イラン当局は、2007年にイラクでアメリカ政府が拘束したイラン人を釈放させるための交渉カードとして、Rさんを利用しようとしていたとのこと。

ある国際団体は、Rさんを「良心の囚人」として、釈放を求める署名を呼び掛けていました。(後になってこの団体を知りました)

政治的な理由によって捕まってしまったとしか言いようのないRさんを、私達は心配することしかできませんでした。

釈放されたRさん

当初、8年の刑が言い渡されていたのが、否定されて2年間の執行猶予付きで釈放されたRさん。
当時、このニュースを見て、また知人から連絡を受けて本当に心からホッとしたのを覚えています。

釈放されるまでには、一筋縄ではいかないような様々な事があったのだと思います。アメリカからは彼女の両親も面会に来ていたし、アメリカ政府もRさんの釈放を強く求めていました。

知人が言うには(知人はNHKの報道関係の家族で、語学学校で仲良くなったクラスメイト)、Rさんにはイラン人の彼氏(婚約者)がいるのだが、彼がとても心配して「自分がもっと気を付けてあげていれば」と言うようなことを言っていたらしいです。

昨日、分かった新事実

さて、昨日のことなのですが、Rさんの逮捕の件ってどんな風にニュースになっていたのだろう?と、ふと思いたって検索してみたんです。

そしたら、当時Rさんが付き合っていた婚約者についてが載っていたのですが、それを読んで私はびっくりしてしまいました!!!

Rさんの婚約者って、イランでは有名な映画監督のバフマン・ゴバディさんだったのです。

「ああ、当時Rさんを心配していた彼氏ってゴバディ監督だったのか!」
私は、もう12年も経ってからこの事実に気が付いたのでした。

そして、Rさんとゴバディ監督のある映画の接点を知ることになりました。

「ペルシャ猫を誰も知らない」

ゴバディ監督の作品で、「ペルシャ猫を誰も知らない」と言う映画があるのをご存知でしょうか?

実はこの映画の脚本を共同で執筆したのがRさんだったのです!
なので、映画の紹介(脚本)の欄には、Rさんの名前も紹介されています。

今まで知らなかった私は、昨日この事実を知って衝撃を受けました!!!

この映画は、カンヌ国際映画祭の「ある視点部門」で上映され、日本でも上映されたのですが、残念ながらイラン国内では公開されることはありませんでした。

ゴバディ監督本人が「この映画がイランで公開されることはないと100%確信します」と語っていました。

映画の内容が、イランの保守的な文化当局者と対立する、2人のイラン人ミュージシャンの話で、ゲリラ的な撮影をしている最中に、スタッフが2度も拘束されたから、らしいです。

この映画を最後に、ゴバディ監督はイランを離れて海外に移住しているとのこと。

ちなみに、Rさんが逮捕・釈放されたのと同じ年に、「ペルシャ猫を誰も知らない」がカンヌで上映されています。

実は、私はこの映画をまだ見たことがないんです!
レンタル、、、、、いや、置いてないかな。

Rさんが脚本に一緒に携わっていた映画「ペルシャ猫を誰も知らない」、近いうちに何とかして観てみようとおもいます!!

それにしても、イラン在住時には本当にいろいろなことがあったなぁと、改めて思う今日この頃。

長い文章になってしまいましたが、ここまで読んでいただきありがとうございました!!



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