やめない…って決めた。
それは突然の電話だった。
2017年4月のこと。
「みかちゃん、ばあちゃんいつどうなるか分からんくなったよ… 会える人に会わせてあげてくださいとお医者さんに言われたんよ。帰っておいで」と 母。
幼稚園・小学生の娘たちは社宅の友人にお願いし、1人で帰省することにした、カメラを持って。
・・・・・・・・・・・・・
5年前、祖父が他界したとき、夫は海外出張中。
下は1歳、小さな子ども達3人を連れ、新幹線に飛び乗った。
病室に入る。
あぁ…
じいちゃん
細くなった腕、小さくなったからだ、
今にも命を終えようとしている。
これがじいちゃんなのか・・・じいちゃんの最期・・・
残さなけば・・・
でも持っていたカメラで撮影することをためらってしまった。
そのときの病室のシーン、そして自分の頭で考えたことを今でもはっきりと覚えている。
翌日、じいちゃんは人生を終えた。
病院から家に戻り、仏間に安置されていたじいちゃん。
私たち家族が何度もそばに行き、「じいちゃ~ん」と声をかけたり、横にひ孫が寝てみたり・・・まるでじいちゃんが生きているみたいだった。
数日一緒に過ごしたのに写真は一枚も撮らなかった。
結局何も残せなかった・・・
そしてずっと心に何かがひっかかったまま、5年が経過した。
・・・・・・・・・・・・・
祖母の病院に着く。
カメラを持って入っていいのだろうか
どうしよう・・・
撮っていいかどうかはその場が決めてくれるかもしれない、
とりあえず持って入ることにした。
父がばあちゃんの手を握り、話しかける。
息子の呼びかけは聞こえるようで、小さな反応をしている。
「ミカが東京からきたよ」
・・・
ばあちゃんに聞こえるように、大きな声で雑談をしてみた。
きっと聞いてくれているはず。
ばあちゃんに近寄り手を握る。
「みかちゃん…
ありがとうねぇ… ありがとうねぇ」
ばあちゃんが か細い声で言った。
聞こえるか聞こえないかの声、
でも間違いなくばあちゃんの 懐かしい やさしい声だった。
「ばあちゃん…
ありがとう。
ありがとうね… ありがとう…」
他に言葉が出てこない。
最期だと思いたくない、でも最期なのだと分かる。
泣かないと決めてきたのに、涙が溢れ出た…
この日、少しだけシャッターを切らせてくれたのは、きっとばあちゃんだったんだろう。
それから1週間後、ばあちゃんは息をひきとった。
・・・・・・・・・・・・・
葬儀の日。
ばあちゃんの最期を
撮ってもいいものだろうか…
田舎の葬儀は親戚はもちろん、地域の人たちもたくさん集まる。
「東京から戻ったミカちゃんだわ。あら葬式の写真を撮りよるわぁ、どうしたんかね・・・」と噂になることが想像できる。
そんなとき両親が「撮っていいよ、撮りなさい」と背中を押してくれた。
私は葬儀の間、お別れしながら、泣きながら撮り続けた…
今回は後悔しないよう、全力で。
お別れとはこういうことなんだ。
悲しくて、苦しくて、つらい・・・
骨上げまでの時間、
いつも通りの元気な姿に戻り斎場の外で飛び回る子どもたち、
葬儀後、遺骨を抱いた父のすがすがしい表情、
そして家に戻り、仏間で撮った笑顔の家族の集合写真。
撮ってよかった。
撮って残せてよかった。
祖母の葬儀を撮影し、その瞬間の家族の様子や表情を見返すことで、亡くなった人をきちんと見送ることの大切さを知った。
それは残された私たち家族にとっても とても大切なことなんだと。
…初めて知った。
2020年からコロナで亡くなる人も日も多い中、大切な人の葬儀に立ち会えず悲しい思いをされている人もたくさんいるだろう。
こんなときにこの文章を書くのもどうかと思った。
当たり前だが、人はそれぞれ環境や立場、考えが異なる。だから物事の捉え方も、感情の持ち方も違って当たりまえ。
だけれども、自分とは違う立場の人の気持ちになったらどうだろうか…どう感じるだろうか、傷つけないだろうか…
色々と考えてしまうが、
表現することをやめるわけにはいかないと思った。
じいちゃんばあちゃんがこの9年で教えてくれたこと、またFBの過去の投稿が思い出させてくれた大切なことだから(ちょうど2017年の今頃、写真展「つなぐ 2」として、祖母の葬儀の写真を展示していた)。
そして同じ日の朝、ある方の写真と文章の投稿を拝見し
‟表現することをやめない”と決めた。
動き出そう。
もっともっと表現しようと思った。
人生は有限。
自分の持ち時間は限られている。
ならば私の持ち時間の中で、私にやれることがある。
それがたとえ少しの時間であっても、自分が自分の時間を生きていくうえでやれること、意識していくべきことがあるはず…
そんなことを考えた6月2日。
私にとっては節目の6月。
新たな気持ちでスタートを切ることにした。
じいちゃんばあちゃん、ありがとう。
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