見出し画像

【随想】隠された広島と長崎/NHK『消えた原爆ニュース』を観て思うこと

進駐軍が接収した第一生命館(丸の内)から日比谷公園、国会議事堂を望む(1945/08/30)
(画像:ジャパンアーカイブズ1850-2100より借用)

  広島と長崎に原子爆弾が投下され、その悲惨な現実が日本国内だけでなく世界各国に隠されていたことに触れた番組をアーカイブで観る機会がございました。(令和5年(2023年)08月09日(水)NHK『歴史探偵』「消えた原爆ニュース 報じられなかった広島 長崎」)
 毎年この時期になると、NHKがNHKでなければ作れないであろう番組を放送しております。必ずしも主題、構成がしっかり出来ていると言えるものばかりではございませぬが、制作関係者の訴えようとする誠実なる趣旨は十分伝わってまいります。

 政治は、国家安全、国家秩序を名目として国民に適切な情報を隠すことがよくございます。ましてや、戦争で相手国を占領した場合には、自国に都合の悪いことは一切隠蔽されるものでございます。

  日本は敗戦後、アメリカ戦艦ミズーリ艦上の降伏文書調印(昭和20年(1945年)9月2日)からサンフランシスコ条約(Treaty of Peace with Japan)の発効(昭和27年(1952年)4月28日)までの7年間、連合国による占領下におかれました。その中心にGHQ(General Headquarters, the Supreme Commander for the Allied Powers、連合国軍最高司令官総司令部)があり、占領軍の大半はアメリカ軍、次に英国軍でしたので、実質的にアメリカ軍の敗戦国日本占領本部ということになります。

 この占領下で、昭和20年(1945年)9月15日の新聞記事に鳩山一郎氏の「新黨結成の構想」に関する発言が載りました。
 「原子原爆の使用や無辜の国民殺傷が病院船攻撃や毒ガス使用以上の国際法違反、戦争犯罪であることを否むことは出来ぬであろう」と。
 この記事を切っ掛けに、GHQはあらゆる報道機関の事前検閲を行い始めました。

 原子爆弾の爆発によって生じた高温高熱、及び放射線による地獄絵図の被害を詳しく報じられると、原子爆弾が反人道的なものであると国際世論の批判を浴びることになるのは必然で、それは、アメリカが核開発を進める上で大きな障害になることも目に見えていました。

 この時代、アメリカは自国民向けに、原子爆弾の攻撃を受けた場合には身を低く伏せ、布またはレジャーシートをかぶって身をまもるという映画を制作、上映していました。
 (この番組では触れてないが、原子爆弾の使用は戦争を早期に終わらせ、その後の戦死者の増大を防いだという正当性を自国内で宣伝したのもこの時期)

 日本国憲法の下、民主化政策を進める矛盾を米国本土から指摘されることもあり、GHQの事前検閲は3年間で中止されましたが、その後も日本人特有の権力者への忖度により、日本の報道機関は自主検閲を進め、昭和26年(1951年)京都大学の病理学の特別講義で実態を知った学生たちが、原爆被害の展示会を開催するまで、合わせて6年もの間、原子爆弾の悲惨な実態は政府、報道機関によって隠されたままでした。

 京都大学の学生であった人はその時の思いをこう語っています。
 「日本の人々は原爆の被害を受けたんだけれども こんなになってるんやということは知らなかったわけですよ やっぱり知ってしまおうた以上は知らせなあかんやろ 知らんかったら知りませんで済むかもしれんけど 知ってしもうた以上は未来に知らせるのがわれわれの責任ではないか」

 民主社会であるのならば、事実は、都合の悪い部分も含めて(個人情報は除いて)、個人に手渡されるべきでございます。それが「知る権利」でございましょう。それではなく、事実が隠されて行われる選挙など、どこそこかの国と同じで意味がございませぬ。
 京都大学の学生であった方のおっしゃられるように、事実を知ることはその取扱いに「責任」を負うことでもあり、「民主主義」を支える「責任」でもあると思い知らされたところでございます。

  以上、本題はここまででございます。
 ただ、事実は意外に身近にあるという例を挙げておきたく、以下に記述いたします。ただし、これも個人情報という枠に嵌められたら、近親者以外に知られることはないでしょう。

 親戚の或る方は、大東亜共栄圏のための戦争(大東亜戦争)ということで中国戦線を連戦して南下して行きました。
 その方の話では、日本軍は進軍途中で中国の民間人を銃剣で突き刺し殺しました。鉄砲の弾が飛んで来れば、たとえ汚物の中であろうとも、潜り込んで身を伏せなければ、頭を撃ち抜かれ脳みそを吹き飛ばされてしまうのです。長い戦闘が一段落すると、死体がごろごろ転がっている横にドラム缶を置き、水を集めて火を焚いて風呂にしました。中国人の女は死んでいても裸にされ、自ら勃起させた兵士に順番に挿入されて「用足し」にされていました。
 その方の奥さまの話では、優秀なやまと民族が亜細亜民族のために戦っていると教育され、息子が徴兵されたとき、玄関前に近所の人が集まり、その前で「お国のために死ぬのは名誉なことです」と言わされました。大本営から連戦連勝の発表があるたびに「天皇陛下万歳」「米英鬼畜殲滅」と叫んでちょうちん行列をしていました。国に忠誠を示す態度をしないと、隣組の口うるさいオバサンから「皇民にあるまじき態度」とののしられ、玄関に「国賊」「非国民」という張り紙をされてしまいます。息子は戦死、小さな箱として戻ってきました。箱の中は空っぽでした。         <了>


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?