【随想】戦争は国民がする/NHKスペシャル<戦争特集>を観て思うこと
NHKは、毎年この時期になると大東亜戦争を題材にしたドラマ、ドキュメンタリーを放送いたしますね。
発掘された資料、生き残った人物への取材、必要な数値データを抽出しての解析、それを基に作られた番組は、残念ながら民間の放送局では作れないものでございましょう。
アーカイブにて戦争に関する5編の「NHKスペシャル」を観ました。
全編を一言で感想を申し上げれば、大東亜戦争とは、冷静な分析がないがしろにされ一部の指導者の実に曖昧な意思決定で戦争が始められ、何度失敗があってもその原因を検証することなく修正することなく誰も責任を負うことなく、自分と自分の所属する組織だけの体裁を護ろうとし続けて国家を破滅に導いた愚かな過程であった、ということになりましょうか。
NHKスペシャル選「戦慄の記録 インパール」(2017年8月放送)
ミャンマーから2000m級の山を越え、川幅600mにもなる大河を越えて英国軍が陣取るインド北東部インパールへ470kmの行軍を決定する。
「兵站(物資補給)が不可能」と反対する意見を出せば「臆病者、大和魂はあるのか」と怒鳴られる。企画された作戦らしいものは何もなく、ここを取れば戦争全体が有利に展開するという程度の根拠のない認識だけで作戦を強行。結局多くの犠牲を出しながら目的地に辿り着けず、事後処理の判断を先延ばしにして4か月後に撤退。
兵士30000人が死亡(戦死12000人、撤退中に病死(マラリア、赤痢)・餓死18000人)、司令官たちは反省も検証も責任の追及もなく戦後も生き延びる。
NHKスペシャル選「激闘ガダルカナル 悲劇の指揮官」(2019年8月放送)
ガダルカナル島に日本軍が建設中の800mの空港を上陸してきたアメリカ軍に占領される。
空港奪還の陸海軍共同作戦が実行されるが、正確な状況把握・分析はなされず、陸海軍両方で島を攻撃すれば、アメリカの空母艦隊が島の援軍に駆けつけるであろうから、そこを叩けばいい程度のこれまた根拠のない認識。
陸軍の一木部隊という精鋭部隊916人が先行して上陸、司令部との通信は距離が遠いため海軍の潜水艦が中継、海軍は陸軍の支援よりアメリカの空母艦隊との戦闘を優先、潜水艦は海軍の作戦に参加、現場を離脱、司令部との連絡が取れなくなり孤立し状況不明のまま一木部隊は空港奪還を開始。しかし、アメリカ軍の待ち伏せに遭い777人が無惨な戦死、
日本軍はその後も小出しに兵士を派遣、延べ30000人がガダルカナル島に進軍、20000人以上が死亡(病死・餓死15000人)。
NHKスペシャル選「沖縄戦 全記録」(2015年6月放送)
沖縄戦で死亡した人20万人、沖縄県民だけで12万人といわれる。
兵力不足であった沖縄守備隊は沖縄県民を組み込んだ体制を取る。天皇を中心とした国体を護るため軍人だけでなく一般国民も己の命を顧みないという「一億玉砕」の下「軍官民共生一死ノ一体化」とされる。県民は軍人のように扱われる。
1945年5月31日アメリカ軍の侵攻で首里の日本軍司令部が陥落、戦闘の事実上の決着がつく。
死者のデータ分析に拠れば、その後の死者が全体の6割にも及ぶ。
南部に逃れた司令部と共に県民も南部に逃れ、1945年6月23日守備隊の司令官が自決して日本軍の組織的抵抗が終わるまでの間にアメリカ軍の攻撃、断崖からの飛び降り自殺などで兵士だけでなく県民の多くが死亡。
NHKスペシャル「新・ドキュメント太平洋戦争1942 大日本帝国の分岐点(前編)」(2022年8月放送)
ミッドウェイ海戦では、日本海軍はアメリカ海軍から大敗を喫し空母4隻、将兵3057人を失ったが、大本営は戦果を倍にして、損害を半分にして発表。
一部には国民に真実を知らせるべきとの意見もあったが大本営の作戦課がつぎのように述べた。
「これは当然発表すべきではありません。これだけの大損害を大本営発表をもって確認することは敵に一層傍若無人な積極作戦をとらせるだけであります。抗戦持続不可能になる恐れありとすら言えます。戦争中の報道は当然作戦の目的にそわしめることが第一義であります。そのため同胞が欺かれる結果となっても戦争のことゆえ真にやむをえないと考えます。」
NHKスペシャル「新・ドキュメント太平洋戦争1942 大日本帝国の分岐点(後編)」(2022年8月放送)
欧米に支配されたアジアを開放し共に繁栄を図ると宣伝された「大東亜共栄圏」、しかし実態は大日本帝国が支配することであり日本化を進めることであった。現地の住民にも日本国民にも嘘が真実であるかのように報道された。
オーストラリアを孤立させるための要となったのがガダルカナル島。ここでの敗退が大日本帝国崩壊への分岐点となる。勝てもしない事実の前で撤退を先延ばし。
「火力を過大視してはいけない。火力は稼働しないときにはゼロである。それに対して精神力は断絶することはない。」
無責任な命令の下、兵士は、敵が機関銃掃射をする中を銃剣で突撃して皆無惨な死。
制空権、制海権共にアメリカ軍に奪われ補給船はことごとく撃沈され、孤立した日本兵に弾丸も、食糧、飲料水、薬品もなく悲惨な運命が強いられる。
開戦してすぐ1942年から1943年2月に撤退するまで1年ほどの間にガダルカナルに上陸した日本兵31400人、死者21000人(戦死6000、餓死・病死15000)。
戦争に関連付けして、続けて三つの記事を挙げました。
一般市民の体験として、そもそも自由がなかった、食べ物がなかった、爆撃を受けた、銃撃を受けたといわれることの一つ一つは紛れもなく事実であり、今後も事実として伝えられるべきものでございましょう。
フィルムに残された戦地の実態も、生き残った兵士の語る体験も、また紛れもない事実として伝えられるべきものでございましょう。
さらに、戦争を語るとき、不利なことを隠すのが人の情というものでございますが、旧日本軍が他国民に対して加害者であった側面があったことも否定できない事実がございます。この部分を伏せられてしまうと、加害者意識だけが先行し、事実の信憑性を問われることになってしまいます。
最近、都合よく歴史を改竄(かいざん)して講演する者、都合よく工業製品、建築物の基礎データを改竄する者、都合よく改竄した情報をインターネットに流す者など、普通に多く存在していることに平和であることの危機感を覚えるのでございますよ。
戦争で多くの方々が悲惨な死に方をされた中、辛うじて生き伸びた方(俳優)が生前「今の平和に腹が立つ」と語られていたことを思い出さざるを得ぬのでございます・・・
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