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池田理代子 『おにいさまへ...』

池田理代子『おにいさまへ...』全39話をぶっ続けで鑑賞しました。気付くと日付が変わっていたのでやることが溜まってますが、熱が覚めぬうちに感想を。

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序盤はわりと幼少期にありがちな自分の友達がほかの子と仲良くしているのを見て、嫉妬したり、それゆえ妨害したりするという、なんともめんどうな独占欲によるいざこざなんかが起こります。学生時代を彷彿とさせるな...と思いつつ。

それから『ソロリティー』という簡単にいうとイケてる人たちが入る会員制クラブのようなものを巡って争いが起きるのですが、やっぱり階級制度のようなものを作ると、必要以上の争いやいざこざが起きるんだな...と思いました。

このソロリティーは、お金持ちで、容姿端麗、成績優秀、つまり周りの人から憧れられるような人たち・学校のカーストで言うとまさにトップに君臨する人たちが属すると言う事で、みんなの羨望の的になっていました。

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ここになぜか平凡な主人公が加入することに。そのせいで周りから反感を買って、最初の方はクラスメイトからいじめや嫌がらせを受けることとなります。そのクラスメイトがなんともいやな感じなもんで、ひたすらモヤモヤが止まりませんでした。

しばらくしていじめは落ち着きますが、その後もカースト上位者たちの優越感・そうじゃない人間の劣等感、陰口や陰謀、家庭内不和、親の不倫と離婚、ドラッグに自殺未遂・心中と問題が続々と起こるので目まぐるしいです。

他人の気持ちが見えずに、邪推してしまったり、勘違いしてしまったり、すれ違ったり...の繰り返しで、予想外のドロドロっぷりに惹きこまれていきました。

登場人物で個人的に好きなのが圧倒的にサン・ジュスト様でした。儚げで美しく、中性的な容姿をしていて、どこか掴みどころがなく、手の間をスルリスルリとすり抜けていく、風のような、水のような不思議な空気を纏った人物。

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声も透き通っていてイメージにぴったりで素敵でした。だけど、たいてい薬をぽりぽりしていて情緒不安定。ドラッグ漬けで高校生のくせにタバコ吸ってるので子供に悪影響とかで、フランスでは放映禁止になったそう。(もっとやばい映画なんかいくらでもあるけどね)

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そんなサン・ジュスト様ですが、モデルは実際にフランスにいた18世紀の革命家・政治家とのこと。本名はルイ・アントワーヌ・ド・サン=ジュスト。その美貌と冷厳な革命活動ゆえに「革命の大天使」または「死の天使長」との異名をとった、とのこと。


印象的だったのが、ふきこさまに「私を憎んでいますか?はいか、いいえで答えなさい」と言われて、サン・ジュスト様は最初「はい」っていうんだけど、そのあと大きな声で「いいえ!」と叫んで、また「はい」と答えて、やっぱり「いいえ...」というところ。色んな感情が葛藤して、それが漏れ出てしまっているところに何とも言えない気持ちになりました。

家族内の問題もよく描かれていました。実際のところ、離婚した親にとって前の家庭の子供と今の家庭の子供との間に愛情の差、というのはあるのだろうか。

前の家庭の子供のことは、どう思っているのだろう。どうせ普段は忘れてたとしても「きみのことは、もうすっかり忘れてたよ!」なんてさすがに言えないし、それよりは、「いちども忘れたことはない」と言った方が、自分がかっこつくんだろうなという捻くれた考え方をしてしまいます。

たまに簡単に断言出来てしまうのって、なんて安っぽいんだろうと感じまさす。それは、相手を思う気持ちや環境が複雑な人ほど人の答えは、はいもいいえも簡単に出ないんじゃないかと思うからです。

だから、サン・ジュスト様が「はい」と答えたあと、ほぼ反射的に「いいえ」と言って、だけどまた少し考えて「はい」と言って、やっぱり「いいえ...」それからあとは、もうなんにも言えなくなってしまったあの姿にはグッときました...

それと、ところどころ、"鳥"がサンジュスト様のメタファーになっていて演出が素敵だと思いました。ななこが勢い余って告白して、返事がもらえずもやもやしてだめだったんだと落ち込んでるのに気付いた薫が慰める時に、ジョークのネタに使ったのが鳥でした。ソロリティーを解散させる動きにするかどうかという件で、どうしようか悩んで学校から姿を消したサンジュストと同じように学園からすっかりいなくなったのも鳥。これに勘づいているのは、ななこだけ。そして、同じくしてどちらも戻ってきますね。まるで何か決心を固めたかのように。きわめつけに最期は、鳥のように高く飛んで...


まあ、何はともあれ、最終的にはハッピーエンド(なのか?)で、見終わった後、わたし的には前向きになれる作品でした。あれだけ色んなことがあって、ここまで乗り越えて来たのだから、このあともこともきっと何度も乗り越えていけるし、いかねばならんという気持ちに近いですが...

だけど、世界観はすこしツッコミどころが多かったな。ななこの母親とかは着物を着ていて、ザ・日本人という感じなのに、クラスメイトは金髪縦ロールでドレス着てるし、日本とヨーロッパ調が混ざりまくってて面白かった。この時代ってドラマなんかもそんな感じで、アーティストとかもどこかそんな雰囲気です。生まれる前のこの時代観。なかなかの不思議な世界観...だなぁと。途中からつっこむのはやめましたが、やたら電車のシーンとかは今と変わらない日本っぽいんですよね。まあいいや。

ともかく、中毒性のある作品でした。


おにいさまへ についてYouTubeでお話ししてます。



Fin

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