見出し画像

アフガニスタンからの救出に自衛隊を派遣できない理由

タリバンを逃れようと必死の人々の姿が報道される。でも現地の人どころか日本人であっても救出のために自衛隊を派遣することは難しい。

憲法9条の制約

憲法9条では、国権の発動たる戦争と武力による威嚇又は武力の行使を国際紛争を解決する手段としては放棄し、戦力を保持しないことが定められている。

自衛隊が武力の行使等に至らないよう、自衛隊法では、自衛隊が邦人を保護するにあたっては、以下の全ての要件を満たすよう求められている。

① 保護措置を行う場所において、当該外国の権限ある当局が現に公共の安全と秩序の維持に当たっており、かつ、戦闘行為が行われることがないと認められること。
② 自衛隊が当該保護措置を行うことについて当該外国等の同意があること。
③ 予想される危険に対応して当該保護措置をできる限り円滑かつ安全に行うための部隊等と当該外国の権限ある当局との間の連携及び協力が確保されると見込まれること。

http://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/pdf/gaiyou-heiwaanzenhousei.pdf

今回のカブールでは、大統領が脱出し秩序が維持されているとはいえない。空港付近では発砲が起こっており、アメリカも、救出には人命損失リスクが伴うと明言している。したがって戦闘行為が行われることがないという一つ目の要件をみたすと考えるのは難しい。

これらの要件からすれば、アメリカに協力を求められている自衛隊の派遣以前に、邦人救出のためにも派遣できないということになる。邦人保護のため自衛隊が他国内で撃った一発が誰かを傷つければ武力行使の連鎖を引き起こすおそれがある。

「8月23日追記 政府が自衛隊派遣を決めたが、これは、上記の邦人保護のための条項ではなく、輸送の条項によるもののようである。輸送は「安全に実施することができると認めるとき」に認められるもので、政府が安全に実施することができる状況と判断したということだろう。輸送の場合は、邦人警護・救出等のための保護措置を行うことはできない。

27日追記 邦人が空港に到着できず輸送できなかったとのことである。輸送のみなので空港まで各自が到着しなければ救出・警護はできない。なお、23日には空港ゲート付近の警備員への発砲を機に米軍、ドイツ軍を巻き込んだ銃撃戦に発展し死傷者が出たとのことである。自衛隊が救出・警護まで行う場合こういった事態が生じうる」

憲法9条の覚悟

海外に滞在する邦人にとっては怖い話だが、自衛隊は戦闘行為が生じうる場所には国民を救出に行けない(実際は他国に救ってもらうべく外交ラインが駆使されるのだろう)。

私達に必要なのは憲法9条を維持するリスクを知って維持する覚悟である。

以前は、実感がなかったが、中村哲医師の言葉を見てこれが覚悟かと感じた。中村医師は、アフガニスタンで、砂漠に水を引き、難民が武器を手に取るかわりに農業につけるよう支援を継続してきた団体の代表だった。

「向こうに行って、9条がバックボーンとして僕らの活動を支えていてくれる、これが我々を守ってきてくれたんだな、という実感がありますよ。体で感じた想いですよ。武器など絶対に使用しないで、平和を具現化する。それが具体的な形として存在しているのが日本という国の平和憲法、9条ですよ。それを、現地の人たちも分かってくれているんです。だから、政府側も反政府側も、タリバンだって我々には手を出さない。むしろ、守ってくれているんです。9条があるから、海外ではこれまで絶対に銃を撃たなかった日本。それが、ほんとうの日本の強味なんですよ。」https://web.archive.org/web/20190524095313/http://www.magazine9.jp/interv/tetsu/tetsu.php

中村医師は、政府に参考人として呼ばれたときに、自衛隊が派遣されると現地の人には日本が軍事的存在にしか映らなくなってしまい、これまで築きあげた現地との信頼関係が崩れるとして反対していたという。

30年以上の活動の後銃撃により亡くなられたが、そのことも覚悟の上で現地との信頼関係の構築を描かれていたに違いない。

利害を超え、忍耐を重ね、裏切られても裏切り返さない誠実さこそが、人々の心に触れる。それは武力以上に強固な安全を提供してくれ、人々を動かすことができる。http://www.tokinowasuremono.com/tenrankag/yahoo/pesya/001.html

日本国外で9条を維持するには中村医師と同じレベルの覚悟が必要だ。

たとえれば、事故を起こす外国車に反感を持ち、外国人が自動車に狙われるようになった国で、「日本人は運転免許を返納しているし事故をおこさずに現地に貢献してきてくれたから対象外」と現地の人に区別してもらえるだけの地位を作り上げられるかどうか。その地位が築けなければ、身を守るために、他の国の運転する車に同乗させてもらえる関係構築が必要になる(同乗関係になることで日本人が他の外国人と区別されなくなることもあるし、同乗させてもらえないこともあるだろう)将来的に誰も運転しなくなれば事故も攻撃もなくなるので、率先して免許を返納する主義は間違っていない。後はそれだけの覚悟があるかどうかだ。