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『野球アニメがつくりたい』

ことあるごとに野球アニメをやりたいと言っているボクですが、どうしてそこまでこだわるのかというお話です。アニメの仕事と野球の共通点をあげるなら、野球もアニメも『団体競技』であること。 アニメと言っても一人で全て作ってしまう『みんなの歌』などのアニメーションやプライベートアニメなど少人数で造り上げるものも沢山ありますが、劇場やテレビシリーズなどボクたちが作るいわゆる商業アニメーションというのは本当に大勢の人が関わって力を結集して造り上げるモノです。そこが野球やサッカー、駅伝などの『団体競技』と共通するところだと思います。

今でこそ野球観戦が大好きで、アニメリーグでは若者に混じって白球を追いかけているボクですが、小学校二年生くらいまでは『ゲゲゲの鬼太郎』が大好きで、登場する主人公の鬼太郎や目玉のおやじ、ねずみ男などを主人公にした手作り豆本を友人と作ってはお菓子の缶にためて喜ぶことだけが唯一の趣味な文化系の子供でした。そんなボクが野球に目覚めたのは小学三年生。
時は『無敵艦隊読売ジャイアンツ』がV9真っ只中で野球人気も現在とは比べものにならないくらい高い時代でした。そんなある日友達が誘ってくれた試合でピンチヒッターに出されました。もちろん野球のルールも知りません。キャプテンから送りバントの指示を受けて初めての打席へ。結果はバットに一度もかすりもしない三振でした。その後守備についたライトでは、白線を越えたファール部分でグローブを構えて仲間の失笑をかうおまけ付きです。そんな散々な初めての野球体験でしたが、みんなでボールを追う楽しさは格別で、いつの間にか毎日暗くなるまで野球ばかりするようになりました。時間には制約がありますから、ボクはそれまで唯一の趣味だった『ゲゲゲの鬼太郎同人誌』を書くことをやめ、あれほど仲の良かった漫画友だちとも疎遠になってしまいました。

   
野球の楽しさはキャッチボールから始まります。向かい合った『相手が捕球しやすい場所』右利きならグローブをはめた左の胸、左利きなら逆の胸。声を掛けて投げ、ボールが逸れれば受ける側は手を伸ばすなりしてフォローして捕球。「こっち、こっち」と投げるべき正しい場所を教えてボールを投げ返します、もちろん『相手の取りやすい場所』に。キャッチボールは人の繋がりの基本に通じるものだと思います。試合ではたった一個の小さなボールを守備側と攻撃側だけでなく、審判や応援の人たちも含めた大勢の人が追いかけます。チームはレギュラーだけでなく控えの選手も含めて同じ目標に向かって毎日暗くなるまでボールを追い、それぞれの自宅に帰ってからも手のひらが豆だらけになるまでバットを振る。それはレギュラーになることや試合で良いプレイをするためで、その先には勝利という共通の目標があります。若いアニメーターが毎日デッサンをすることや、勉強になる映画を見るのと同じです。日々鍛錬して信頼されるアニメーターに育って大切なシーンを任される。アニメーターだけでなく演出や制作、仕上げなど全てのアニメに関わる者が素敵な作品を作るために最善を尽くす。『甲子園を目指す』『素晴らしいアニメを作る』同じですよね。さて野球とアニメ作りの共通点を書いてきましたが、ここまで読んでくれた方は気づいたと思います。だったらサッカーやバレーボールそれこそカーリングだって、とにかく『団体競技』のアニメなら良いはずだと。 本音を言うと『団体競技スポーツのアニメ』なら何でもやってみたいです。『燃えるスポコンアニメ!』聞いただけで燃えます。その中でも大好きな野球のアニメが作れるならこんなに幸せなことはないです。『燃える野球アニメ!』気合いが入ります。野球を良く知っている分ルールなどを知ることから始める必要がないので、キャラクターの感情の動きやアクションなど、フィルム作りに力を注げると思います。個人的にはファンタジーモノをやるよりずっと向いていると思うのですが(笑)


ずいぶん昔の話です、あるオリジナル野球アニメをお手伝いすることになって打ち合わせの席の事でした。「実は私野球好きじゃないんですよ」淡々と語る監督さん。「えーと、野球が得意じゃないとかよく知らないとかじゃなくて『好きじゃない』って聞こえたけど空耳?」言葉を失ってしまい、その後その方がどんなに熱心に気持ちを込めて内容の説明をしてもまったく頭に入ってきませんでした。依頼を受けた仕事は断らない主義なのか?嫌いでも自分のキャリアと実力なら何でもこなせると思っているのか? どういうスタンスなのかは解りませんが残念で釈然としない気持ちが残りました。そんなこともあって、自分は出来るだけ好きな仕事を選ぼうと決めました。もちろん仕事なので時には自分に合わないと思う作品も受けなければならない時もあります。そんな時には、どんなに些細な事でも良いので好きになれる所を探すようにします。『スタッフが良い』『このキャラが好き』『美術が最高』『音楽が素敵』一つでも好きなところが見つかれば頑張れます。アニメに限らずみんなそうやって仕事をしているのだと思います。それでも時には本当に好きと思える仕事がしたいですよね? それがボクにとっては『野球アニメ』なんですね。「コンテが描きたい、演出になりたい」と言い続けていたことが安彦良和さんに伝わって『ヴィナス戦記』で助監督になれたように、いつも言っているといつかきっと夢が叶う気がします。だからこれからもずっと『燃える野球アニメが作りたい!』そう言い続けようと思っています。

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