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『怪盗フレンズと綺麗な原画』


    せっかくなので平田智浩さんの思い出をお話しします。あれは二十代後半、フリーの原画マンとしてタツノコプロの大先輩である真下耕一監督作品『劇場ダーティペア』に参加した時のこと。
数ヶ月に及ぶ作画期間も峠を越えて、担当カットを終えた者から順にスタジオを去って行きました。
スタジオで机を並べていた友人たちも、それぞれ別の作品で違うスタジオに散らばってしばらくして、お酒を飲んだ勢いもあって「よし、自分の原画を回収しに行こう!」ということになりました。
スタジオ常駐の原画マンは、下駄箱に隠してある鍵を使って自由に出入りして良いことになっていましたから、当然のように誰もいないスタジオに入って撮影の終わった担当部分の原画を回収して帰りました。翌日新しく入ったスタジオの電話が鳴って映画の現場Pが電話口で怒鳴ります「おまえ、原画を盗んだろう!」「はっ? 自分の担当カットは持って帰りましたけど、盗んだつもりはありません」話は平行線。たまたま居場所の特定できたボクが矢面に立ったようでした。
グラビトンの原画がなくなっているとPがまくしたてます。グラビトンというのはエヴァの庵野秀明さんや増尾昭一さんら腕利きの原画マンが集っていたフリースタジオで、平田さんもメンバーだったと記憶しています。原画を回収しに行った夜、みんなでグラビトンの上手な原画を見たことは確かで、レベルの高さに驚き、感心して、嫉妬して、いつか自分もこんな原画を書けるようになりたいと思いました。その中でも平田さんの原画は際立っていて、曖昧な線が一本も引かれていないビックリするくらい綺麗な原画で、正直いうと喉から手が出るくらい欲しかった。
本当に毎日眺めていたいと思わせる原画です。
でもさすがに人の原画は持って行けないと泣く泣く諦めて帰ったこともあって、よけいドロボウ呼ばわりされたことが悲しかった。
事件は曖昧なまま決着し『劇場ダーティペア』も無事公開を終えた頃、久しぶりに友人のアパートに遊びに行きました。
「ほら、本当に上手いよな~平田さんは」
コタツの上に並べられた平田さんの美しい原画の数々。 友人は目をキラキラ輝かせてうっとりしていました。

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