『天は、我を見放した~?』
「君は世界一、運が良いアニメ監督だ!」 小林誠さんは新しい作品で組むたびに毎回同じ事を言います。 「ホントに運が良いのかな~?」 自分ではよくわかりませんが、どちらか判断材料になりそうなエピソードを一つ。
ラストエグザイル以降何度も作品につきあってくれた小林さんでしたが、一度途中で見捨てられたことがあります。 初めての長編映画『ブレイブストーリー』を作っている最中のことでした。
宮部みゆきさん原作の『ブレイブストーリー』でしたが、当初はTV局のプロデューサーの意向で子供向け作品として進められていました。
宮部さんの小説は人間の持つ毒の部分も逃げずに描いていて個人的には大好きでしたが、子供向けアニメーションにするには少しオブラートに包む必要があって、最初のシナリオ決定稿は少年漫画寄りの冒険ファンタジーの雰囲気がありました。 小林さんには沢山の美術設定を書いてもらいましたが、クライマックスの舞台になる『北の帝国』は巨大な氷でできている浮遊大陸でファンタジー色のより強いデザイン。千明は『浮遊大陸』や『浮遊巨大要塞』とかが大好きで小林さんのデザインも当然気に入ってOKを出しました。
ところがコンテに入ってしばらくして状況が一転。 あまりにも原作からかけ離れてしまったことが問題になって、内容を原作に戻そうという話になりました。当然それまでデザインしていた設定の大部分が使えなくなってしまいます。「大丈夫だよね?」何度も念を押す小林さんの心配を押し切るように『浮遊大陸』にOKを出した直後のどんでん返しでした。 小林さんが腹を立てるのは当然です。 一度OKしておいて理由はどうあれ前言を撤回して「もう一度書き直して下さい」でしたから。 その後一年近く会ってももらえず、次に小林さんに会えたのは完成試写会の席でした。 イマジカ試写室のロビーで久しぶりに会った小林さんは笑って何事もなかったように話をしてくれました。デザインを無駄にしてしまったことをお詫びすると、これからも手伝うよという温かい言葉。 「ほらっ、やっぱり君は 《世界一運がいい》アニメ監督だろう」 小林さんの顔がそう語っているように見えました。
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