不意に救うは君の声 //211128四行小説

 助けてと、どんなに思っていても顔には出さず、強がりのまま誰にも言えずに毎日を過ごしている。澱は沈み深く濃くなり、息はできず足を取られ手を伸ばしても水面には届かないのに、顔だけは笑顔の形を絶やさない。
 通りかかった店先で、不意に耳馴染みのいい声が聞こえて思わず耳を傾けた。語るような声は音に乗り旋律を奏で歌になる。どんなに好きなものでさえ私を癒してはくれなかったのに、その声はどこか優しく胸に沁みた。
 必要なのはこの声だった。初めて聞いたけど、そうだと確信した。歌詞を歌い沁みる声は容易に心の隙間に染み入って、ほどけていく。
 君の声だった。
 君の声にやっと会えた。

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