キノミトリート //211031四行小説

 木の実の生る道を行く。南天、ヤマボウシ、ヨウシュヤマゴボウ……今は木の実も沢山生る時期だ。散歩で出会う木の実は食べられない物ばかりだが、栗やナッツのたぐいは今が旬のはずだった。
「トリック・オア・トリート」
 不意に掛けられた言葉は今日特有の魔法の言葉で、食べ物を持っていないためどうしようかと振り返る。
 寒気がした。
 ぼろ布を被った赤い靴のおそらく少女は、どこか陰気な雰囲気を纏っている。この空気まで仮装なら大したものだが、これは絶対に違う。本物だ。こいつにいじわるなんかされたら、何が起こるか分からないし絶対にヤバい。
 慌てて手を伸ばし、木の実を取り差し出した。木の実を受け取った少女は鼻を寄せ、満足げに口を吊り上げ踵を返す。
 ヤマボウシの実は食べれるはずだから、多分大丈夫。去っていく背をみながら、激しく打つ心臓を治めている。

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