幽霊跳躍時間齟齬

「お前は本日の死亡時刻より、導き手に任命する。拒否権は無い」
 自分の死体の側に幽霊の自分は座っていて、神の代理人が指をさしてそう告げた。
「導き手? なんで俺が?」
「お前がこの事件の全ての元凶だからだ」
「……は?」
 俺はどちらかと言えば被害者のはずだ。出社した直後に爆発に巻き込まれて死んだのだから。
「お前が寝坊さえしなければ、齟齬は生まれず今回の爆発事故は起きないはずだった」
「いや、そんなわけ無いだろ」
 確かに寝坊はしたけれど。
「お前が寝坊して玄関掃除は仁藤という女性社員に変わった。仁藤は入口で取引先の井手と長話をしてしまい、仁藤がいつもしているストーブを点けることが出来なかった。ストーブの前には前日に岸下が使った殺虫剤が置いてあり、仁藤が点けていたならそれは別の場所へ動かされていたはずだったが係長の猪俣が何の確認もせずに点けたために、殺虫剤のスプレー缶が熱され爆発事故を起こした。燃えやすい木造の職場は全焼し、三十六人の死者を出した」
「本当に俺のせいなわけ? 岸下も井手も猪俣も、暖房器具を新しくするのに躊躇してた部長にも問題があるんじゃないの!?」
「お前が悪い」
 そう一蹴されて、言われるがままに導き手を引き受けている。安らかに天国にいけるものと思っていたのに、そうはいかないらしい。
 あれから一ヶ月以上が経つのだが、いまだに自分が死ぬ場面を見ている。幽霊は時間に縛られない。死んだ瞬間に死体と霊体を綺麗に剥がして天国への道順の説明をすれば仕事は終わり。一回の事故につき一人のペースで天国へと導いていた。
 三十六回目の爆発事故で、最後は面識の無い通行人Aだった。説明をしようとしたら見知った顔であることに気付く。
「お前、三年前に死んだはずじゃ」
 死んだと聞いたし、葬式にも行ったはずだ。
「……三年前のことがなければ、俺は真っ当に生きてたし今回の爆発事故も起きなかった」

続く

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