花嫁一輪 //220119四行小説

 浴槽の花嫁はドレスを広げて美しく咲いている。花嫁を数えるならば、一輪と数えるが相応しい。ドレスはクラゲのように、髪は海に投げられたごみ袋のようにふわふわと水面に浮かぶ。
 入浴剤の科学的な匂いが鼻につく。素肌を、プリンになった髪を、ドレスを、この身を。全てを白くするために、濁ったお湯には漂白剤が入っていた。全てを白に染めなければ、あの人に合わせる顔がない。赤い薔薇は白い薔薇に塗らなければ。身の潔白は自らの手で染めるしか。
 ところで白い薔薇にペンキを塗れば赤くなるが、果たして赤い薔薇は漂白剤で真っ白になるのだろうか。
 「こんばんは」と風呂場の戸をガララと開けたのは顔のいい男。その手にはクエン酸が握られている。

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