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Show must Never go on, 去るべきタレント、残される思い出~ジャニーズ性加害事件ジャーナル(後編)

前編(↓)


4:犯罪を知りながらその会社でボロ儲け

ジャニー喜多川の性加害事件の事務所会見から10日以上たつが、日本のマスコミはジャニーズ・タレントたちの擁護を一斉に始めた。前編の冒頭にも書いたが、その勢いは加速している。

タレントに非はないのでスポンサーは広告契約を切るべきではない。
タレントにも被害者がいるので事務所はそのケアにも当たらねばならない。社名変更はタレントたちの意見も聞いた上で決定されるべきだ。

こういうことを言う人たちは根本的にこの性加害事件への問題意識があまりに低い。どうしょうもないほど問題の大きさが分かっていないのだ。

後述もするが、この事件が人権意識の高い欧米先進国で起こっていたなら

ジャニーズ事務所は解体以外に道はなく、幹部やタレントの多くが刑事告訴されていただろう。それほど大きな事件だということをまず認識すべきだ。




前後編・2回に渡って、ジャニ―喜多川の性加害事件について考えている。

事務所幹部・マスコミ・タレント、この3者の悪質さを測る2つ目のポイント

それはジャニ―の性加害の事実を知りながら、その男がトップの会社から莫大な利益を得ていたという事だ。判断基準はやはり利益の大きさになる。

この点では事務所幹部・マスコミ・ジャニーズタレントは同列になる。

この3者はタレント自身も含めジャニ―喜多川が生み出した「ジャニーズ・タレント」という商品を売って長期的に利益を得てきた。
スポンサー企業からの広告収入やファンからの売上といった金のために、性加害問題を放置していたと見られてもしょうがない。

個人レベルでは事務所やマスコミよりも人気タレントの方がもうけているので、罪が重い。ただメリー・ジュリー母娘やテレビ局の幹部なども大儲けしているはずであり、ここは3者同列としたい。


5:最も容易に告発できたものは…

3つ目のポイントはジャニ―の性加害を知りながら告発しなかった事だ。
先にも書いた未必の故意・共犯性の度合いである。

1:ジャニーズ・タレント
2:事務所幹部
3:マスコミ

この点では、この順で悪くなる。判断基準は告発リスクと発言の影響力の度合い、そして沈黙の期間の長さだ。

つまり告発が比較的容易かつマスコミへの大きな影響力を持ち、加えて黙っていた期間が長い人ほど罪が重くなる。これに当てはまるのはSMAPや嵐のメンバーに代表される長く活躍した超人気所属タレントだ。

彼らのようなスターが2~3人でも10年前にジャニ―を告発していたならマスコミは大々的に取り上げ、のちの性被害事件は防げていただろう。

まず告発リスクについて考えると、人気所属タレントに深刻なリスクはないと明言できる。

まず、ジャニ―喜多川はプーチンのような独裁者ではないため告発に命のリスクはない。また人気タレントは多くの財を築き生活保障があるため、多くの場合、事務所から解雇されても社会生命が脅かされる状況にもない。

一方で、芸能人としての地位が脅かされるリスクは出てくる。キムタク級のタレントでも芸能活動のストップは避けられないだろう。しかし、それは一時的なものになる可能性が高い。

これほどの規模の性加害事件であれば、告発に伴う道義的な意義が非常に大きく、告発者への社会的な評価が高まることが充分に予想できる。騒動が収まった後に、再び芸能活動に復帰できる可能性も充分にあるだろう。

そのため人気タレントであれば告発には芸能人としてのリスクも深刻なレベルでは生じないと言える。


人気タレントたちが沈黙した理由を考えると、第一に保身。お金というよりはずっとスターでいたかったという贅沢な保身が働いたことが考えられる。

第二にジャニ―自身への恩義や、事務所やグループが解体することで所属タレントやファンに迷惑をかけたくなかったという気持ちもあっただろう。

しかし、これは内輪の自分勝手な愛情に過ぎない。

ジャニーズ事務所にやってくる不特定多数の少年が
何十年にも渡って性被害に遭っている。

人気タレントたちはこの被害を正す社会的な道義心よりも
内輪の結びつきを優先したことが考えられる
また、こどもの性被害を軽く見る人権意識の低さも
告発に至らなかった大きな理由の一つだろう。

こどもだから性行為なんか分かっていない。暴力じゃないしジャニさんに可愛がってもらってるだけだ。そんなふうに軽く見ていたタレントや幹部は決して少なくないだろう。

『Show must go on』


ジャニーズ会見の後、木村拓哉がSNSにこのメッセージを乗せて大バッシングを浴びた。これはタレントがいかに少年への性加害に対して問題意識を持っていなかったかが分かる象徴的な出来事だった。

マスコミはもちろん報道機関そのものなので国民に対し極めて大きな影響力を持っている。統一教会のときのようにTV局が1つ2つでも大々的に取り上げて問題追及していれば、性被害の拡大も防げていただろう。

だがマスコミもまたジャニーズ事務所と同じく大組織ゆえに告発には相当のエネルギーがいる。

一方で、人気タレントの場合は、たった2~3人集めて会見を開くだけで世の中を大きく動かせたのである。


6:事実認定さえ拒む人気タレントたち

悪質さを測る最後、4つ目のポイントは、ジャニ―の性加害問題を放置したことに対する謝罪と償いの意思の度合いだ。

1:ジャニーズ・タレント
2:マスコミ
3:事務所幹部

この最後のポイントでも1位はタレントになる。まず謝罪と償いはその罪を認めることが大前提になって行われることだ。

だが、未だに現所属・未所属共にジャニーズの人気タレントの中で、ジャニ―の性加害について明白に知っていたと発言した者は誰1人としていない。
これでは謝罪も償いもない。

TV局をはじめマスコミの大半は長年問題を知りながら放置してきたことを認め、人権を重視した報道をすることを誓った。
だが、放置の最たる要因はただのゴシップ記事だと軽く見ていたためというもので、そこには論点のすり替えによる責任逃れがある。

元アナウンサーの辛坊治郎も指摘するよう、マスコミが沈黙したのは第一に倫理感よりもジャニーズを利用した金もうけを優先したためだ。

そこをハッキリさせないとまた同じ過ちを繰り返すだろう。現に、日テレは謝罪告知の中で、今後もジャニーズ・タレントを起用し続けると明言した。

一方で事務所幹部・元社長の藤島ジュリーは組織・個人の両方で性加害を認定し、謝罪と償いの意思を示している。

彼女が100%の株主であることが批判されているが、弁護士の亀井正貴なども指摘するよう、その方が被害者への補償がスムーズに行われる。そのため私は今の時点では誠実な対応だと思っている。


7:タレントが被害者でも断罪される理由

以上、ジャニ―喜多川の性加害におけるジャニ―本人・事務所幹部・マスコミ・タレントの4者について、その悪の度合いを比較してきた。

そこで自制心の無い精神障害者だった可能性の高いジャニ―を除外し、より責任の重い残る3者を、前後編に分けて4つのポイントで比較し、3つの点でタレントが1位になった。

つまりジャニ―の性加害事件において最も悪質なのはジャニーズ・タレント、特にSMAPや嵐のような長年活躍した人気タレントになった。

彼らはジャニ―の性加害を知りながら長年放置しつつ
その事務所から莫大な利益を受け取っていた。
かつ性加害への問題意識の低さから
絶大な発言力があるのに長年告発せず
さらには事件が明らかになっても罪逃れをしている。
これ以上の悪は中々他に例がない。

欧米の倫理観、法律が働けば、彼らの多くは今ごろ刑事告訴されているだろう。「プレジデント・オンライン」には、今回の問題でジャニーズ・タレントの連帯責任を問う興味深い記事がある。

アメリカではジェリー・サンダスキーなど著名人の未成年者への性加害事件では、連帯責任を負うとして関係者にも懲役刑が下された。

近年、アメリカ女子体操代表のチームドクターは20年間、250人以上の少女に性加害を続けた。
このケースでも止められる立場にあったアメリカ体操連盟、ミシガン州立大学では要職の大勢が解雇、また被害に遭った選手たちは捜査に不熱心だったFBI相手に総額10億ドルの損害賠償も起こした。

ジャニーズ・タレントは被害者でもあった可能性が高く、加害者との共謀罪が問われたアメリカ体操連盟などとはケースが異なる。

だが、もし先のアメリカ女子体操選手の中に、10代で被害を受けながら、以降は代表コーチになり大勢の少女たちがチームドクターから性加害にあうのを黙認していた人がいたとすれば、どうなるだろう。

さらにドクターを称賛しアメリカ体操連盟やミシガン州立大学から報酬を受け取っていたとすれば、間違いなく彼女には共犯罪が成立していたはずだ。

ジャニーズの人気タレントもこの例の女子コーチとほぼ同じ立場であり、発言力がありながら告発しなかった点ではさらに悪質だと言える。

ただ、人権意識の高い欧米先進国でも、これらのケースでは精神障害の度合いに関わらず主犯が厳しく断罪されている。

重犯罪を犯した精神障害者の人権は未だに世界中で守られていない。精神病者による猟奇事件の最たる要因はいつも、周辺にある。つまり障がい者に対する社会養護の欠如であり、ケアに対する国や自治体の怠慢にあるのだ。

罪というものは、本質的に倫理観の欠如がもたらすものだ。映画『時計じかけのオレンジ』などでも示されたよう、倫理とは選択することで生じる。

しかし精神病者は犯行に及ぶ際、その選択を持っていない。自制心がなくその犯行をせざるを得ない心理状態に追い込まれるのだ。そこには倫理はなく、従って罪も存在しない。

だからこそ、私はジャニ―喜多川が起こした性加害事件に置いて、主犯の彼自身は周囲に較べて最も罪が軽いと考えている。


8:全ては消え、美しい思い出だけが残る

性加害事件によってジャニ―喜多川によるエンタメ業界への貢献はすべて消えたという声も聞かれる。

そもそもこの組織の中核には福祉の領域に金もうけを持ち込んだ、カルト宗教と同じ精神弱者からの搾取ビジネスがある。音楽自体もただ売れるために作られたポップス工場の大量生産品に過ぎず、最初から貢献はない。

ジャニーズ事務所に対しそんな辛口批評を持つ人も少なくないだろう。

だが、狂信的なファン以外でも、ジャニーズの存在やその表現行為によって、癒されたり楽しんだりした人たちが大勢いるのも確かなことだ。心の底から救われたという人も少なくないだろう。

客観的にはそれが搾取だとしてでも、当事者が満足であればその交換に非はなく、むしろそこには愛情もある。

表現されたものと、表現者のリアルな人間性はまったく別物だ。
フランスのジャン・ジュネという作家は獄中で書いた小説が高く評価され、中でも『泥棒日記』は不朽の名作として広く世界中で認められている。

今後ジャニーズ・タレントにも逮捕者が出る可能性は決して低くない。

現在、被害者の会が日弁連に救済を求めているのは、おそらく第三者チームによる事務所への内部調査を進めて欲しいという意思表明だろう。

また彼らは2004年に決着した訴訟後にジャニ―喜多川を刑事告訴できなかった点を重んじ、性被害の時効撤廃などの法改正を政府に迫ったり、性加害への懲罰が厳しいアメリカの裁判所への告訴を模索していたりする。

事務所の初会見で東山新社長が「性加害は噂でしか知らなかった」と言ったとき、被害者の会・副代表の石丸志門が「これは追求しなければならない」と口にしたのは非常に印象的だった。

彼らは今後、国際的な弁護士チームと共に事務所幹部とジャニーズ・タレントに対してジャニ―による性加害の共謀罪を追求してゆく可能性が高い。

私はここで、ジャニ―喜多川の性加害事件についてSMAPや嵐のように長く所属する人気タレントこそが最も悪質だという結論を示した。

しかし、彼らの表現行為やそれに共鳴したファンの思い出までもが汚されたとは思っていない。もし今後ジャニーズ・タレントの大勢が、ジャニ―との共謀罪によって投獄されたとしてもこの点は変わらない。

今回の事件を受け、ジャニーズのファンを止める人も多いだろう。ジャニ―の性加害の共謀の疑いを晴らさない以上、彼らはステージに立つ資格がないため、その判断は賢明だといえる。

しかし今までステージ上で見せたジャニーズの輝きとそれに感動した自分までもがウソだったと思わないでほしい。

ジャニーズ事務所にとっては今後すべてが消え去っても、おそらく多くのファンと共有した美しい思い出だけが後に残るものになるだろう。


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