フクロウとコブタとタヌキの物語

こんばんは、今夜は梟(フクロウ)のはなしです。

わたしが初めてフクロウと会ったのは、小学生のとき。父親が手製の木のおりにフクロウを入れて自慢げに見せてくれました。

フクロウをどうやって捕まえたのか、今となってはわかりませんが、とにかく子どものときの私には、とても大きな鳥に見えました。

羽毛は黒と白が混ざっていて、全体的に灰色で、小さな手製の木のおりに捕らえられ、羽根を広げようとずっとバタバタしていたのを覚えています。

かわいそうに思ったのか、父は次の朝、フクロウを逃がしてあげました。

その出会いまで、子どものわたしにとって、フクロウは物語の中の登場人物でした。いまでも一番大好きな絵本『日本の創作幼年童話⑥ こぶたのうでどけい』(宇野勝彦作、松島わき子絵、あかね書房、1969年2月25日)のなかのフクロウはちょっと間抜けで機嫌が悪いのですが、とても重要な脇役です。

それから数十年後、フクロウがふたたび、わたしの前にあらわれました。今回は目の前ではなく、耳の中にあらわれたのです。ある真夏の夜、ホーホッホホホ、ホーホッホホホ、というけケモノの声がしました。なんだろう、とおもいながらそのまま寝入ってしまうと、次の朝、家のすぐ目の畑にしかけられた鉄のおりに狸(タヌキ)がかかっていました。

そこに住んでからタヌキを見たのははじめてでした。でも夕方には鉄のおりなかのタヌキはいなくなっていました。次の日、畑のおじさんに、タヌキがかかっていましたね、というと、おじさんは「タヌキ汁にしようかと思ったけど、(殺傷を)禁止されてるから川に離した」と言いました。

そういうことがあって、わたしは「ホーホッホホホ」の鳴き主は、タヌキだと思い込んでしまいました。子どものころに耳にしていたはずなのに……。

そして2週間後、またその鳴き声を聞いたのです。今後はすぐ家の外の杉林にいるようでした。録音して、調べてみてようやくそれがフクロウの声だと気づきました。

空にぽっかりと黄色い満月が浮かんだ真夏の夜、カエルの大合唱をバックコーラスにフクロウの声が響きます。

そして、それがお別れの歌になりました。

家の脇の杉の雑木林は3か月後住宅地になりました。持ち主が亡くなって相続税を払うため、林は不動産屋に売られたのです。

フクロウの林は、瞬く間に幻となってしまいました。

それから、フクロウはわたしにとって、とても大切な存在になっています。生まれ育った集落では今も夏になるとフクロウの声がこだまします。

ホーホッホホホ、ホーホッホホホ

村上春樹さんの『1Q86』でもフクロウがちょっとしたスパイスになっています。8歳だった娘がフクロウを主人公にした紙芝居を作りました。その娘ももう16歳になりました。

コロナ禍で世界が変わったような気がしますが、あたふたしているのはわれわれ人間世界だけ。ほかの生き物にとっては、定常世界が続いています。

あいかわらず世界のどこかで、不機嫌なフクロウが不機嫌な声で鳴いているはずです。

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