今昔ラノベの「面白さ」の質の変遷

初めまして、20年ライトノベルを読んできたおじさんです。
「このライトノベルがすごい!2022」やら読者の反応やらを見て色々と思うところあり、どうせならまとめてみるかと思ってノートはじめました。

なお、このラノの細かいランキングに触れるわけではないので、そっちが気になる方は本なり電子書籍なりをご購入ください。

今のラノベはつまらないのか

早速ですが「昔に比べて今のラノベは面白くないのか?」という疑問について。

大体このラノの時期になると「今のラノベは昔に比べてダメ」とか「こんなのが流行する意味がわからない」とかそういう意見を目にするので、自分なりの見解を。

結論から申しますと「同一評価軸にないので比較できない」が正しいと思ってます。

なぜなら「大多数の読者が『面白い!』と感じる基準が昔と今では全然違う」からです。言葉上は同じ『面白さ』ですが、実際は今昔読者が全然違うものを『面白い』と感じるせいで、どれだけ言い争っても平行線にしかならないと。

『面白さ』の移り変わり

おじさんは「ブギーポップは笑わない」やら「時空のクロス・ロード」からラノベに入ったクチなのですが、時代ごとに色々と『面白さ』の尺度が移り変わってきたように思います。

おじさんが現役の学生だった頃は、いわゆる「セカイ系」と呼ばれる文脈が流行してまして、多くの作品は「普通の少年少女が世界レベルのごたごたに巻き込まれて右往左往する」話が持て囃されました。一番有名なのは「イリヤの空、UFOの夏。」でしょうか。

要は「コントロールできない理不尽で強大な何か(大人とか社会とか世界とか)に翻弄される自分たち」「困難を克服すべく足掻く」ところにカタルシスを見出す人が多かった、ということですね。

若干低俗ではありますが「理不尽に逆らう自分カッコイイ」が当時の『面白さ』の評価軸だったんだと思います。

その後は「異能バトル系」の興隆があったかと思います。「灼眼のシャナ」が最も有名だと思います。このあたりのテンプレは「現実じゃ冴えない主人公」「世界の裏側のトラブルに偶然巻き込まれて」しまい、なんやかやで「秘められた力が覚醒し強大な敵と渡り合えるようになる」感じでしょうか。いわゆる「厨二病」と呼ばれる概念の興りがこの時代です。

これはつまり「冴えないように見えて実は俺ってスゴイんだぜ」をいかにドラマティックに描けているかが『面白さ』の評価軸になっていた感じでしょうか。当時はオタク的趣味に対する世間の目は非常に厳しく、極力人には隠すべき趣味だったことも関係してるんだと思います。

余談ですが、いわゆる「異世界系」はここから派生して「辛み成分を抜いて、快楽成分だけを抽出した」ものだと個人的には思ってます。

細かく刻んでいけばもっと色々な評価軸はありますし、もっと別の側面からの自分が読んできて都度「面白い」と感じていた作品の流れはこんな感じかと。

現代の『面白さ』とは?

最近はラブコメがジャンルとして流行っています。

どれも大抵特定のシチュエーションや特徴的なキャラクターに特化したもので、お話としての起承転結や壮大な世界観は重視していないものが多い印象です。

また、今まではどの時代も「ストーリーが特徴的で面白いことが前提」にあったわけですが、今はいわゆる「どこかで見たようなテンプレ展開」ばかりだったとしても大きなマイナス要素にはなっていないように思います。

要は「小難しいお話はいいから、とにかくかわいい(かっこいい)キャラを見せろ」が現代の『面白さ』の評価軸なのではないかなと。

例えば「時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん」はその最たるもので「照れ隠しにロシア語でデレてる女の子ってかわいい!」と大多数の人が思ったからこそ爆発的にヒットしたのかと。また切り口は異なりますが、二年連続トップの「千歳くんはラムネ瓶のなか」は、キャラの心理描写と関係性の変化を極限に研ぎ澄ませた部分がウケている要素だと思います。

ファンタジー、SFがいまいち伸びないのもこれが原因だと思ってます。その辺は「キャラの魅力を知る前に越えなきゃいけないハードルが高すぎる」んですよね。売りどころがキャラではなく世界観のスケールや重厚なストーリーなので当然ではありますが。

あとは「作品以外の要素も『面白さ』の範疇に含まれつつある」ように思います。

例えば、みんなで集まってワイワイ感想を語り合えるかどうかや、アイドルのように応援して盛り上げられるかどうかなど、作品の枠外でも読者が楽しめるか評価に影響を及ぼしている気がします。

これはオタク文化が大衆化したことによって、ある種のコミュニケーションツールとして使えるようになったことも影響しているかと思います。アニメもラノベももはや隠すべき趣味ではないので、スポーツ観戦みたいな大衆文化と同じ舞台に移るのは当然とも思えます。

もうあの頃の『面白さ』は戻ってこないのか?

じゃあもう昔みたいな『面白さ』の作品は読めないのか?という点ですが、こればっかりは時代の流れなのでなんとも言えないところではあります。

反動で「世界観ゴリ押し」な作品が流行るかもしれませんし、市場ごと消滅して二度と出てこないかもしれません。

ただ肌感で、向こう5年くらいは今の「キャラクター偏重」の流れは変わらないかなと思ってます。ちなみに5年というのは、今の中高生の大半が大学生になるまでの期間です。大体そのくらいのスパンで流行が切り替わってるイメージがあるので。

個人的には昔の『面白い』作品も変わらず好きなので、なくなって欲しくはないと思っています。多様性を認められるくらいラノベ市場が広がることが一番ですが、そもそも小説自体が古典娯楽化している状況を見るに、それもあんまり期待はできそうにないのが辛いところ。


今回はこんなところで。
今後も何か思うところあればこんな感じで不定期にまとめます。


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