気がついたら牢獄の中でした



俺は今、寒さだけが残る静かな夜の一角で息が絶え絶えな状態で倒れている。
それというのも話は昨日に遡る。俺は数年前に職場のいざこざで仕事をやめて以来アパートに引きこもってニートをしていた。とはいえだんだんと金は尽きてきていたしここらでまた何か仕事を探さなきゃと考えていたんだ。だけど悲しいかな。人間の性なのかどうしても楽な仕事を探しちまうんだよな。そうすると現実をつきつけられてもう仕事のやる気がなくなっちまうんだ。それで夜逃げも考えていたところに友人の友原から電話があった。何でも上手い仕事があるから一緒にやってみないかというものだった。普通ならそんな話はまずあり得ないんだが、そのときは金の余裕もなかったからついつい話に乗ってしまったんだ。その日の夜に一回落ち合うことになった。俺は一回落ち着いてみてやはりヤバい仕事なのではないかと思ったが友原は俺が信頼している数少ない人間の一人だったからあいつがそんなことはしないだろと高をくくっていたんだ。で、その日の午後8時頃に近場のファミレスで友原と会った。簡単な挨拶をしてから俺はパスタを頼み食べた。食べ終わるまでお互いに何も話さなかった。これは友原との関係のなかでできた暗黙のルールみたいなもんだった。お互いに食べ終えた後、友原はさて、と言って話し始めたんだ。
「さっそく仕事の話をしたいんだがいいかな?」
 俺は頷いた。
「仕事といっても基本は単に立ってもらうだけになる」
「簡単にいうとこの近くに堤防があるだろ?そのところで一時間ほどたっていて欲しいんだ」「時間は午前2時から一時間ほどだ。時刻はちょっと遅いがその分報酬は破格にしてある。どうだ?やってみないか?」
ああ、あの低い土手のことか。
しかしこれが仕事とは……。
いまだに信じられなかったので
安全面について質問してみた。
「だから言ったろ?単にたってもらうだけだって。危険なことはないから安心しろよ」
それから友原は前払いと言って報酬金の半額の入った封筒を渡してきた。これには俺もお手上げだったな。俺は二つ返事で了承した。日にちは明日の午前2時。俺は忘れないようにメモに記載した。それから、俺は用事あるからと言って友原は帰っていった。会計は彼が済ませてくれたらしい。金欠の俺には彼が天使のように見えた。家に帰った俺は風呂にも入らずそのままベッドに入って寝た。
時は過ぎ去り翌日の夜になった。俺は1時50分くらいに土手に着いた。そこでは当然だが誰一人いなかった。車もほとんど通っていない。今は春だからそこまで寒くもないため非常に助かった。やることがなかったが携帯を家に忘れたため立ってることしかできなかった。しばらく立ってると向こうの方からパトカーのサイレンの音がした。こんな時間なのにご苦労なことだな、と考えているとどうやらこちらに向かってきているではないか。もしかして俺か?俺なのか?パトカーは近くで止まり中から体格のいい男の警官が出てきた。やっぱり目標は俺だわ。俺は何となく危機感を感じてしまいその場から全力でダッシュした。どこに向かっているのかなんて何一つ考えなかった。とりあえずあの筋肉マンから逃げることだけを考えていた。後ろからはおいっ!と聞こえた気がする。
しばらく走った俺はあまりの疲れにその場に突っ伏してしまった。異常なほどの疲れだった。最近は運動をあまりしていなかったとはいえここまでの疲労はどう考えてもおかしい。体が全く動かなかった。
 「やっと見つけた。早速で悪いがさよならだ」
その声はあの男のものに違いなかった。しかし俺には振り向くだけの力も時間もなかった。銃声の音がなり、背中に焼けるような痛みを感じた。ああ、俺はここで終わるんだな、と感じた。考えれば特に目だった人生じゃなかったなと今更ながら後悔したがもう遅かった。意識がだんだんと薄れていった。最後になにか声が聞こえたようなきがした。
体の痛みで目が覚めた。 
どうやら俺は硬いコンクリートの上に仰向けで寝ていたようだ。体を起こしてみると俺はびっくりしたね。だってそこは牢獄の中だったんだ。しかも俺の右足には鎖が繋がれてた。どうやら俺は命拾いしてそのまま警察に捕まったらしい。しかし取り調べもなしでいきなり牢屋にいれられるとは。しかも日本ではこんな風に捕まえたやつを閉じ込めとくのか?服装は麻でできたシャツとズボンをはいていた。どちらもボロボロだった。幸い牢獄の中は暖かい空気に包まれていた。俺は周りを見渡してみたが人の姿は見えず空の牢獄が広がっていた。どうやら閉じ込められているのは俺だけらしい。もしかして俺は死刑囚とやらになってしまったのかもしれない。死刑囚は個室だと聞くしこんな環境も犯罪への日本の態度がかなり硬化したためと考えれば分からなくもない。冗談じゃない。俺は犯罪をした記憶は一切ないし、こんなところで死ぬわけにはいかないのだ。
俺は心の中で脱獄を決意した。しかし、そのためにまずはこの足の鎖をなんとかしなければなるまい

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