知らない人んち(仮) 第2話シナリオ
住宅街のまん中に、温泉がわいた! ジェミは人の目から隠すため、東京・秘境温泉の噴出口にフタをした。
【秘湯ハンターでYou Tuber】の、放送局きいろ 対 【秘湯を守る温泉監視人】のアク、キャン、ジェミの、熱い戦い。
濱津隆之さんは、温泉マガジンの編集長。秘湯ハンターのきいろから、ネタをもらっている。
きいろとジェミは、学生時代、【秘湯を広める=きいろ】と【秘湯を守る=ジェミ】で、対立していた。温泉部の副キャプテン【きいろ】と、副キャプテン【ジェミ】という、親友であり、好敵手だった。
○暗室の前の廊下
カメラを持った、きいろが近づく。
内側から、ひっかき傷が聞こえる。
きいろ「だれ?」
ドアに耳を近づけ、ささやくきいろ。
ジェミの声「わんわん」
きいろ「犬?!」
ジェミ「わんわんって、ポチが鳴いてるの」
ジェミが、うしろに立っている。
きいろ「(びっくりして)ジェミさん! ここ、暗室だって」
ジェミ「カゼをひいたから寝かせたの。暗いほうが眠れるから」
ガリガリ。内側から聞こえる、ひっかき傷。
きいろ「起きてるわ。ポチ……」
ジェミ「寝ぼけてるだけ。犬のポチは、いつも、散歩している夢を見るの」
きいろ「わたしが連れていきましょうか?」
ジェミ「だれを?」
きいろ「ポチを。お散歩に」
ドアノブに、手をかけるきいろだが、
アク「さっき連れて行ったばかりです」
いつのまにかそこにいて、きいろを止めるアク。
きいろ「アクさん。病気の犬を、散歩に連れだしてはいけません」
アク「病気の犬? 暗室の犬はピンピンしてる」
内側から聞こえる、ひっかき傷。
アク「ほら。あんなに元気いっぱい。動いてる」
きいろ「『出してくれ。ここから出してくれ』って、叫んでる」
ジェミ「アク! あなた、どうかしたんじゃない?」
キャン「また忘れたのね?」
いつのまにか、キャンがいる。
キャン「犬の病気のことも。三輪車も、杖も、何もかも」
(フラッシュ)
犬のゲージを抱えて帰ってくるアク。
× × ×
三輪車に乗ってくるアク。
× × ×
杖2本を、両手でついてくるアク。
× × ×
キャン「アクは、もの忘れがひどくて困る」
きいろ「それには触れない約束じゃあ……」
キャン「きいろちゃん。ちょっと早いけど、ごはんにしよう! それとも、お風呂、先に入る?」
アクとジェミ「お風呂!」
きいろ「いいですねえ! 冷蔵庫にビールがありますか?」
アク「ない!」
キャン「ないない!」
ジェミ「あるわけない!」
きいろ「あなたたちは、人生のほとんどを損してる」
アク「きいろさんの言うとおりだ。明日から飲みます」
キャン「がばがば」
ジェミ「どんどん」
きいろ「そんなに飲んだら、おぼれるわ」
ジェミ「ぶっそうね」
きいろ「ビールがないなら、ごはんにしようと思うけど……3時のおやつも、まだ食べていないから……」
アク「紅茶をいれよう。きいろさん。リビングに来てください」
暗室の前から、連れだそうとする。
キャン「わたしが焼いたクッキーがあるわ。下へ行こう!」
きいろ「そういうことなら。先にお風呂をいただきます」
アク「ダメだ」
きいろ「一番風呂はダメですか?」
キャン「二番風呂も、三番風呂もみんなダメ」
きいろ「自分で勧めておいて、それはないです」
キャン「ごめんなさい。3時のおやつはすっ飛ばして、晩ごはんにしましょうね。今日のメニューはすき焼きよ。それとも、本マグロの大トロだったかしら。青森の。そうよね?」
ジェミ「そんなのないわ」
アク「いや。ある! ウニとイクラの食べ放題だ。ごはんがすすむよ。きいろさん」
と、アクはカメラをさえぎるが、
きいろ「わたしは一番風呂が好き!」
カメラを持って、風呂場へ走るきいろ。
○風呂場
キャン「きいろさん待って! お風呂はダメ」
きいろ「どうしてわたしがお風呂に入っちゃいけないの?」
バスルームのドアで、もみあう2人。
キャン「まだお湯が……!」
きいろ「わいてるわ! 湯気が出てる!」
すりガラスのむこうから、湯気。
きいろ「いただきます!」
キャンをふりきり、強引にドアをあけると、
アク「やあ」
アクが、お風呂に入っている。
のんびりお湯につかっている。
アク「2人がそこでダンスをしているすきに、先に入らせてもらいました」
きいろ「急ぐ必要あったんですか? 服のまま入ったりして」
アクは服を着たまま、ずぶぬれでお湯につかっている。
アク「ぼくはいつも、こうですよ」
きいろ「やっぱりあなた。ビョーキだわ」
キャン「病気? 病気って何のこと? アクは健康そのものよ!」
きいろ「ビョーキです! 服をぬぐのを忘れるなんて! お湯が汚れる。お湯に悪いと思わないの? 汚い服の泥や汚れで、神聖なお湯に、色がついたらどうするの?」
キャン「そこまでいわなくても」
きいろ「まさか! キャンさんも服を着たまま? 入っちゃう?」
キャン「残念だけど……」
キャンも服を着たままお湯にザブン! と飛びこみ、アクのとなりで
お風呂に温まる。
キャン「♪ いい湯だな!」
アク「♪ アハハン!」
濱津の声「♪ ここは東京、住宅街の湯!」
うしろに、温泉マガジン編集長の濱津隆之(38)が立っている。
アク「お、お、おまえはだれだ?」
濱津「おまえこそ。どこのどいつだ? バカヤロー」
きいろ「2人とも。この家で汚い言葉を使ってはいけません」
キャン「いいじゃない。きいろさんの家じゃないんだから」
濱津「どっこい、ここはきいろさんのお家です! まなかきいろと、お父さま、お母さま、おじいちゃん、おばあちゃんと犬のポチ。5人と1匹が暮らす、立派な家」
きいろ「犬の名前はポチなのね?」
○リビング
「カッコウ。カッコウ。カッコウ」と、鳩時計が3つ鳴く。
テーブルで紅茶を囲む、きいろと濱津。アク。キャン。
カメラを回す、きいろ。
きいろ「どうも……人生いつも黄信号、ユーチューバーの、きいろです。今日は、この家の、ほんとうの住人はだれか? ウソをついて、この家に不法侵入している不届きものは、だれだ! この疑問を、徹底追跡したいと思います」
カメラをテーブルに置く(定点)。
アク「そんなことより。紅茶を飲んでる、こいつはだれだ?」
紅茶をのみほす濱津。
濱津「濱津隆之。38歳。元気です! 紅茶にあうビスケットはないですか? パンにバターもいいですね」
きいろ「ぜいたく者の濱津さん。この家には、どこから入ったんですか?」
キャン「こいつが不法侵入よ!」
濱津「台所の窓があいてました」
さっそく、スマホを出して110番するきいろ。
きいろ「もしもし? 警察ですか? 濱津というドロボーが……」
濱津「玄関に鍵がかかっていませんでした」
きいろ「だったらいいわ」
スマホを切る。
きいろ「ふー。アクさんったら。玄関の鍵をかけ忘れるから。、おかしな人が入ってくるの。責任はすべて、あなたにあります。罰として、晩ごはんはすき焼きにして。霜降りの肩ロースよ。ひとっぱしり買ってきて。お財布はあなたのポケットにあるわ。お札がなかったら、カードで払いなさい」
アク「そんなバカな」
キャン「アクはカードを持ってるわ。ゴールドよ」
濱津「そんなことより、きいろさん。あなたが私を呼んだのです」
きいろ「なんのために?」
アク「おまえなんか」
濱津「温泉です」
アク「温泉!」
キャン「どこの!」
濱津「東京の。きいろさんの家の近所の空き地から、突然湧いた、例のマル秘温泉です」
きいろ「濱津さん。わたしの家はどこにあるの?」
濱津「ここです」
きいろ「やっぱり」
アク「何がやっぱりだ!」
キャン「そうよ! きいろさんは、今日、出前をおごる代わりに、わたしたちんちに泊まりたいんでしょう?」
きいろ「カメラがなかったら泊まらない。ユーチューバーの、きいろです!」
定点カメラに手をふる、きいろ。
きいろ「みんな、見てますか?」
アク「だれも見ていない」
濱津「いいや見ています。今きいろさんがカメラを回している、まさにこの家。このテーブル。わたしはもう何べんも、過去にお邪魔して、紅茶をごちそうになっています」
アク「おまえは、きいろさんの何なんだ? まさか。恋人ってことはないだろうな」
きいろ「失礼ね。そうでしょ? 濱津さん?」
濱津「たしかに。きいろさんのお父さま、お母さま、おじいちゃん、おばあちゃんと、犬のポチの姿が見えません。まさか、暗室に閉じこもってるんじゃないでしょうね」
アクとキャン「なんのために?」
きいろ「かくれんぼじゃ、ないわよね」
キャン「きいろさん。心配だったら案内するわ。暗室に」
アク「まっ暗な世界を見せてあげる」
きいろ「電気はあるの?」
アク「電気なら。暗室にも。明るいLEDが」
きいろ「だったらよし。早く温泉の話を聞かせて下さい、濱津さん」
そのとき、きいろのスマホが鳴る。
○女子部屋
ジェミが机にすわって、電話中。
ジェミ「に・げ・て」
○リビング
きいろ「だれ?」
○女子部屋
ジェミ「わたしのメモ、見なかったの?」
伏せてあった机の写真立てをおこす。
きいろとジェミが、並んで写っている。キャンパスで撮った学生時代
の写真。
○リビング
スマホの電話を切る、きいろ。
アク「だれから?」
濱津「若い男性です。私のような」
きいろ「いいえ! (スマホに)事件は解決いたしました! 一件落着!」
スマホを切る、きいろ。
きいろ「警察から。さっき中途半端に電話を切ったから、心配になって、かけ直してくれたってわけ。『身の安全は、ほんとに大丈夫ですか?』。悪いヤツは、そこに『いませんね?』って」
キャン「警察も、しつこいわね」
きいろ「悪いヤツがいたら、すぐに『逮捕します!』とも言ってたわ。刑事さんの声は、太かった」
アク「きいろさん。もう二度と、110番なんてしちゃいけないよ」
濱津「110番より温泉です。そのほうがずっと、気持ちいい」
きいろとアクとキャン「温泉って?」
濱津「さっきもいったとおり。きいろさんの家から目と鼻の先に湧いた、東京温泉。大都会のまちなかの秘湯です。秘湯。わかりますか? 秘密の【秘】に、お湯の【湯】と書いて、【秘湯】。住宅街の東京秘湯温泉です」
アク「そんなバカな!」
濱津「バカはおまえだ! 住宅街の空き地から、とつじょ湧き出た温泉さまの、第一発見者のきいろさんが、温泉マガジン編集長のわたしに」
と、マガジン編集長の名刺をテーブルに出して、
濱津「わたしに第一報をくれたあと、とつじょ姿を消してしまった! SNSにアップもしないで。音信不通! だからわたしは、警察と同じくらい、心配になって、ご自宅に来てみたのです」
きいろ「濱津さま。わたしとあなたは知り合いですか?」
濱津「しょっちゅう会ってます」
キャン「エッチ」
濱津「会社の応接室だ。黒いソファで会っています」
キャン「オフィスラブ」
アク「ないない。この男にかぎって」
濱津「わたしは独身。金はある」
きいろ「金はいらない。いるのは、再生回数ナンバーワン! のユーチューブ」
カメラに手をふる、きいろ。Vサイン。
きいろ「きいろ、ナンバーワンをとって、お金かせぎます!」
○女子部屋
電話をかけながら、アルバムをめくる、ジェミ。
温泉に2人でつかる、学生時代のきいろとジェミの写真が、いっ
ぱいある。仲むつまじい、その写真を見ながら、電話するジェミ。
ジェミ「まだ思い出さないの? わたしがキャプテンで、あんたが副キャプテンだったこと」
○リビング
スマホを切る、きいろ。
きいろ「ジェミさんはどこへ行ったの?」
キャン「ピアノ教室」
きいろ「この家にピアノはありません」
アク「しまった! バイオリン教室にすればよかった!」
きいろ「ひょっとして、アクさんって、バカ?」
キャン「服を着たままお風呂に入る、大バカもの。テレビの見過ぎでは、ありません」
濱津「はじめからわかっていたことですが」
タブレットを見せる濱津。
0話で、ジェミが土を埋め戻していた空き地の写真。
濱津「きいろさん。あなたのタレコミによれば、ここから温泉が湧き出ていると」
きいろ「わたしが?」
濱津「記憶を失っているようなので、お教えしますが。きいろさん。あなたは秘湯ハンターです」
字幕スーパー 秘湯ハンター。
きいろ「温泉を、鉄砲で撃っちゃうの?」
濱津「日本全国の、まだ誰も知らない秘湯をを見つけては、ネットですっぱぬいて、自分が一番風呂に入ることを【生きがい】とする、【秘湯ハンター まなかきいろ】。それが、あなただ。わたしはその情報を雑誌にのせて、インターネットマガジンで配信する編集長。二番風呂は、わたしがいただきます!」
きいろ「アクさんは?」
キャン「秘湯を守る、温泉監視人」
アク「キャン! きみは自分が何をいっているかわかってないんだ! きみこそ、大バカもの」
濱津「アクさんとやら。おまえは悪いヤツだ。温泉監視人は、環境省法令・温泉法第35条で定める、正義の『温泉監視員』とはちがって、人の目から秘湯を隠し、だれにも入らせない、ケチな野郎のことだ。悪魔の手先」
きいろ「キャンさんも、その秘湯を守る温泉監視人のお仲間ね?」
キャン「あぁぁ、アクを愛したばっかりに! 悪の道に、引きずりこまれてしまったの」
きいろ「アクの悪魔! そこになおれ!」
ピストルをぬく、きいろ。 (3話につづく)