『知らない人んち(仮)』

第1話 あらすじ 

 アクとキャン、ジェミの3人は地底人。地球を侵略するため、空き地の穴をとおって、土の下から地上へ派遣されたスパイ。

 この家は、その前線基地。

○和室

   ふすまをたたく音に、ふりむくきいろ。

   ジェミが立っている。

ジェミ「そうよ。わたしたちは地底人」

きいろ「地底人?!」

   字幕スーパー 【地底人】

ジェミ「わかってるくせに」

きいろ「わかりません!」

ジェミ「その絵」

   子供のかいた、5人家族のクレヨン画を、指さすジェミ。

きいろ「アクさんが、描いたんですよね? み、み、見ればわかります。

  アクさんが描きそうな絵です。やさしい目をしたアクさん」

ジェミ「『落としものしちゃって』っていったでしょ」

      ×   ×   ×

(フラッシュ) きいろとジェミが遭遇した例の空き地。

きいろ「あの……それは今、なにを?」

ジェミ「落としものしちゃって……」

      ×   ×   ×

ジェミ「ほんとうは、穴を埋めもどしてたの。わたしとアクとキャンの3人

  が、土の下から地上へやってきた、秘密のぬけ穴」

きいろ「登るの大変だったでしょう」

ジェミ「きいろさん。あなたは見てはいけないものを見てしまったの」

きいろ「土の下は寒くないですか?」

ジェミ「きいろさんは幽霊とカン違いしてる」

きいろ「わたし、みんなに宣伝します! 地底人は、幽霊じゃないって。

  地底人と幽霊のちがいを、現場から生中継!」

   カメラをむける、きいろ。

アク「きいろさん。晩ご飯の用意ができました」

   いつのまにか、アクが立っている。

きいろ「もう?」

アク「ジェミ。たいこの練習に行く時間だよ」

きいろ「ドラムじゃなくて、たいこ……」

ジェミ「ごめんなさい」

アク「地底人なんてウソをいって。きいろさんが本気にするじゃないか」

きいろ「この絵(子供のクレヨン画)、アクさんが描いたんですよね?」

アク「……そうです。ぼくが描きました」

きいろ「やっぱり! うまいと思った。図工の成績、Aですね。よくでき

  ました」

ジェミ「すき焼き。残しておいてね、アク」

   出ていくジェミ。

アク「和牛です。ブランド牛の肉を用意しました。ウソをついて、きいろ

  さんを怖がらせた罪ほろぼしです」

きいろ「地底人も焼肉するんですか? タレはどんな? ヒュードロドロ

  ドロのタレ?」

アク「すき焼きです」

きいろ「いただきます」


○リビングダイニング

   すき焼き鍋をかこむ、きいろとアクとキャン。

きいろ「まっ昼間から晩ごはんって……お金に困ってるきいろとしては、

  うれしいです」

   時計の針は午後3時15分。明るい陽の光。

キャン「最後の晩餐だから。せめて。おいしいものを食べてもらおうと。

  アクったら、きいろさんに、ひと目ぼれしたんです」

アク「キャン。きいろさんが本気にするよ」

きいろ「キャンさんは地底人なんですって?」

アク「ジェミがいったんだ」

キャン「バレたらしょうがない。いさぎよく白状するわ。わたしたちは地底

  人。地球を侵略するため、寒い、じめじめした土の下からやってきた、

  スパイです」

きいろ「かっこいい! わたし、一度、本物のスパイに会ってみたかった

  んだ! サインください」

   サイン帳を差しだす、きいろ。

キャン「持ってたんだ? サイン帳」

きいろ「知らない人んちに泊まると、有名人に当たったりするから」

キャン「ないない」

きいろ「あったわ」

キャン「いつ?」

きいろ「いま。めったに会えない地底人に遭遇した」

アク「すき焼きの肉。食べちゃいますよ」

きいろ「玄関に、三輪車がありました」

     ×   ×   ×

(フラッシュ) 

   玄関の三輪車。

     ×   ×   ×

アク「2才のときの愛車です。ずいぶん乗り回したんですよ」

キャン「真新しい三輪車だったけど?」

きいろ「キャンさんのいうとおり。ピカピカでした!」

アク「今も、みがいてますから」

   いつのまにか、テーブルの横で三輪車を乗り回すアク。

アク「このとおり。今も、ぼくの愛車です。ちょっとコンビニへ行くとき

  なんか。重宝しています」

きいろ「ムリしなくていいですよ。地底人さん」

アク「地底人じゃない! その証拠に、ほら。ここにぼくの名前が書いてあ

  る」

   三輪車に、【アク・タロー】と、マジックで名前が書いてある。

キャン「いつのまに名前を書いたの? 第一、アクの名前はタローじゃなく

  て、ジローでしょ」

アク「キャン! 何がいいたい?」

きいろ「アク・ジローさんが、ほんとうは地底人だって。地球を侵略する

  スパイの、班長さんだって。ウソつきだって」

アク「それ以上いうと。110番しますよ」

   スマホを出して、「1」「1」と番号をプッシュ。

アク「さあ。0を押して、いいのかな?」

きいろ「そうだ。あの絵!」

   リュックの中をさぐる、きいろ。

アク「探しものは、これですか?」

   アクの右手に、例の子供のかいた5人家族のクレヨンがある。

きいろ「その絵に名前、かいてありますか?」

アク「もちろんです」

   絵の裏に、【1年1組 アク・タロー】と、クレヨンでかいてある。

キャン「そんなバカな!」

アク「何がバカなんだ?」

きいろ「どうして? 名前を入れたんですか?」

アク「ぼくの絵ですから。署名をしないと、気がすまない」

キャン「クレヨンなんてさわったこともないくせに! きいろさん。地底に

  クレヨンはないんです」

アク「キャン。きみは、自分が何をいっているかわかってるのか」

キャン「ごめんなさい。アク」

アク「ぼくじゃなく、きいろさんに、あやまるんだ。地底人なんてウソを

  ついて、【ごめんなさい】と」

   怖い目をしているアク。

きいろ「怒ってる地底人。いただきましたぁ!」

   カメラを回す、きいろ。

きいろ「撮れ高よし。でも、You Tuber のきいろとしては、まだまだ

  カメラ。回します!」

   カメラを、さえぎるアク。

アク「しつこいようですが、ぼくたちは地底人ではありません。ぼくも、

  きいろさんも、同じ地球人」

きいろ「そうは見えないなあ」

アク「ウソだと思うなら、ぼくのカラダをさわってください。地球人と

  同じ骨格です」

きいろ「エッチ」

アク「エッチ? どうしてですか?」

きいろ「変なところ、さわっちゃいそうで。このむっつりスケベ! 油断も

  スキもないんだから」

アク「(せきばらい)犬のタローは、昨日、亡くなりました」

   リビングに置いてある、動物の檻を、指さすアク。

きいろ「じゃあ。犬の名前も?」

キャン「タローにしたんです。バカのひとつ覚えで、アクがつけました」

きいろ「かわいそうに」

アク「きいろさん! かわいそうなのは犬ですか? それとも、ぼく?」

きいろ「だって、タローは死んじゃったんでしょう?」

アク「残念ながら」

キャン「なんの病気で?」

アク「キャン。きみはどうしてそう、ドジなんだ?」

きいろ「アクさんこそ」


○玄関

きいろ「どうしてそんなに、ドジなんです?」  

   きいろは、玄関にある杖を2本とも、杖立てからぬきだして、アクに

   突きつける。2本とも、【アク・タロー】と名前が書いてある。

きいろ「両足とも、くじいたんですか? それで2本、買ったんですか?」

アク「走り幅跳びをしたとき、着地に失敗してね。両足とも」

キャン「ウソよ! アクはお風呂場でころんだの。石けんもつけていないのに。見事な宙返りをしたわ」

きいろ「痛かったでしょう? 大事なところは、無事でした?」

                        (2話につづく)



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