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与信管理部門の方針と手続きはどう決定されるべきか

1.与信管理部門の方針は以下を踏まえて策定する。
(1). 自社の営業利益率
(2). 売上目標
(3). 不確定さに対する経営層の寛容度
(4).  所属業界内での自社の立ち位置
(5).  所属業界の平均支払い条件
(6).  業界内の競争状態
(7).  顧客の地理的分布
(8).  自社の在庫状況
(9).  代替品の有無

2.与信管理部門の方針は、最低限、以下の内容を含むべき。
(1). 与信申請の評価手順と評価ステップ
(2). 標準支払い条件と、いつ・どのように例外条件が適用されるか
     の明確化
(3). 新規取引先を審査する際の情報ソース
(4). 支払い遅延にどう対応するか
(5). どのような場合に与信取引を停止し、またその申請は
     どのような手続きで承認するか
(6). 不良債権の償却を最小限に設定・管理するツールの選択と管理
(7). 損失目標(どの程度の損失を許容するかの目標値)
(8). 関係する第三者機関(回収業者や弁護士)の利用方針

3.与信管理部門の方針と手続きは、以下の質問に答えられるよう
  作成されるべき。
(1).  与信管理部門の使命は?その目標は何か?
(2).  与信管理部門に対する指示系統は?
(3). 新規取引先に与信取引を許可する場合の初期基準は何か?
    その判断にどのような要素が影響するのか?
(4).  滞納先に誰が・いつ・どう連絡をするべきか?
(5). 与信停止にすべき顧客とはどのような状況の顧客か。誰が決定
    するのか?
(6). 与信審査はどのように文書化されるか?
    与信審査に対し、誰がどのように、いつ許可したのかの証憑と
    その管理ルール。
(7). 与信審査結果に対し、Noを言える権限は誰にあるか?
(8). 誰が与信審査を行うのか。また、どのように行うのか?
(9). どのような情報を・どのような形で・いつ申請者から受け取って
    手続きを進めるのか?
(10). どのような頻度で与信資料は更新されるか。
    また誰が実施をするのか?
(11). 一度決定された与信限度額を、増額または減額する判断は誰が行う
   か?


4.与信管理部門の方針は、以下の要素を含むべき。
(1). 不良債権償却の総額を”0”にするためではなく、限定するための目標 
    であること。
(2). 与信管理部門の能力開発と教育をどのように行うか。
(3). 取引先に割り当てられた与信管理担当による、遅延顧客に対する   
    フォローアップをいつ・どのように行うか。
(4). 遅延顧客に対する出荷停止の方針。
(5). 遅延顧客に対する与信停止の方針。
(6). 控除に対する方針と手続き

5.マニュアルを明文化することのメリット。
(1). マニュアルを作成することが教育資料となりえる。
(2). マニュアルがあることで与信管理部門内の問題行動が見える化
    される。
(3). 与信審査の一貫性を保つ。
(4). 部門内の離職・退職に対しての対処が容易。
(5). 自社の経営評価の際の判断材料となりえる。 

6.新規顧客に対するの与信審査手続きは、以下についての規定が
  必要。
(1). 申請書への記入の要否、申請書への署名の要否。
(2). 審査にかかる所要時間。
(3). 自社内営業・顧客に審査結果をどう伝えるか。
(4). 与信判定を行う手順。
(5). 意思決定者は誰か。
(6). 審査結果はどう保存され、いつまで保管されるか。
(7). 顧客の申請が却下または申請額が承認されなかった場合、どう
    フォローするか。
(8). 与信審査部門内での役職ごとの与信付与権限。
(9). 顧客に対する信用照会および銀行照会を取得・評価する方法。
(10) . 顧客に対して取引実績情報を要求する際の手続き。
(11). 上記取引実績情報を評価する手続き。  

7.与信審査部門の活動報告は以下を含むべき。
(1). 30、60、90日遅延顧客リストを含むA/R エージングレポート。
(2). 与信限度額を超えている顧客リスト。
(3). 控除調整中顧客のリスト。
(4). 口座内現金。
(5). ハイリスク顧客のリスト。
(6). 回収不可となりえる顧客リスト。
(7). 不良債権となりえる可能性のある取引リスト。
(8). 取引全体のリスク評価リスト。

8. 顧客倒産時の方針と手順。
(1). 倒産が懸念される顧客かどうかのチェックリスト。
(2). それぞれの場合で社内弁護士と社外弁護士のどちらを使うか。
(3). 業界団体へ参加するか否かの手順。
(4). (アメリカの顧客の場合)Proof of Claim 書式を完成させる手順。
(5). 倒産顧客に対する取引を継続するか否か、またどのような条件で
    取引を継続するか。
(6). 受領代金の返還にどう対応するか。

9.与信管理部門の人材採用方針は以下内容を含むべき。
(1).リクルートと雇用時のガイドライン。
(2). ポジション毎に求める業務内容。
(3). ポジション毎に求められる学歴と経験。
(4). 教育と能力開発に関するプログラムとガイドライン。
(5). 評価基準。
(6). セミナーと授業料補助に関するガイドライン。
(7). 個人のゴールと活動目標を確立するため会社としてサポートする
   内容。((6)を含む)

10.与信取引審査を行う際の手順
(1). 取引種類の説明が整備され、公開されていること。
(2). (1)以外の取引をする際、誰が許可できるのか。
(3). 取引期間(Open Invoice期間)を長くする際、誰が許可できるのか。
    どう申請を受け付けるのか。
(4).(3)の内容をどうドキュメント化するか。
(5). 債務者から提示された延長支払計画に応じるよう、顧客から
            要求された場合、追加の信用補完が必要かどうか。

11. 信用補完についての手順
(1). どの種類の信用補完を受け付けるか、また要望するか。
(2). どの信用補完を優先するか。
(3). 例えば個人間の信用補完を顧客が取り下げたいと要望した際、
   どのように対応するか。

12.前受け金の割引についての手順
(1). 前受け金支払いによる代金割引を受け付けるか否か。
(2). どのように支払処理を行うか。
(3). 既に受け付けた支払いに対する割引処理をどう行うか。
(4). このような処理はいつ償却するか。
(5). (4)について、誰が受理する権限を持つか。
(6). どのような条件下で償却を許可するか。

13.支払い遅延に対する手順
(1).どのような条件の遅延に違約金請求を行うか。
(2). 利率をどう設定するか。
(3). 誰が処理を行うか。
(4). 違約金請求は誰によって回収されるべきか。
(5). どのような場合、償却処理を行うか。
(6). 償却処理を行う場合、誰によって承認されるべきか。
(7). 違約金を償却するという決定は、どのように文書化されるか。

14.与信保留のオーダーに対する手順
(1). どのように受注した注文を与信保留にするか。
(2). 与信保留の注文をどの程度の頻度で見直すか。
(3). 誰が与信保留のオーダーを出荷できるか。
(4). 保留を続けるか、出荷するかの判断は何を基準に行うか。
(5). 判断をどうドキュメント化するか。
(6). 営業部門にいつ・どのように伝えるか。
(7). 誰が与信保留に関する判断変更を行う権限があるか。

15.外国取引に関する手順
(1). インコタームについての手順。
(2). 標準取引をどうするか。
(3). どの通貨を使うか。
(4). LOC(Letter of Credit)の利用に関する手順。
 a) いつLOCを要求するか
    b)    Advised かConfirmedか
 c)  言語をどうするか
 d)     誰が手数料を払うか
(5). 輸出管理規制に対する対応規定。
(6). 海外の財務諸表(GAAPやIFRSではない)の取り扱いに関する
    規定。
(7). 海外腐敗行為防止法(Foreign Corrupt Practices Act)への対応。
(8). 海外籍の企業のデータをどう集めるか。
(9). 海外籍の企業の口座情報をどう集めるか。
(10). 保険の利用に関する規定。
(11). 不良債権に関する規定。
(12). 海外取引の信用補完の利用に関する規定。
(13). 海外アカウントの与信制限の手順。

16. 顧客から取引情報の提供があった場合の対応手順
(1). 提供可能な情報の定義。
(2). 提供不可の情報の定義。
(3). 競合からの依頼への対応方針。
(4). 依頼があった場合にどのような優先順位付けを行うか。
(5). 情報は口頭で提供するか、文書で提供するか。
(6). 例外規定(あれば)。
(7). 取引条件を公開するか否か。

17. その他
(1). Bounces check(不渡り小切手)が発生した場合の対応
(2). 顧客からの担保差し入れ要求に関する手続き規定
(3). 顧客から財務諸表要求を受けた際の手続き
(4).先取特権(Perfecting liens)の対応手順
(5).第三者へのcredit referenceの要求・提供に関する対応手順

注意事項
厳密な与信管理手順の策定と実行は、営業活動の妨害となりえる可能性があり、自社での優先順位を整理した上、営業活動と財務活動をどうバランスさせるかが重要。一度作成したルールに縛られることなく、状況に合わせアップデートしていく柔軟性が必要であり、過去のルールをどうアップデートするかの手順も決めておくことが望ましい。




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