海外事例研究 | 米ワシントンD.C.:交通アプリを用いた交通手段の変化及び交通渋滞の緩和
はじめに
アメリカは、圧倒的な自動車社会であり、公共交通の利用率が非常に低い現状に面しています(2019年時点で通勤者の内5.0%)。生活における自動車依存に伴い、様々な交通課題が生じています。
その一つが、交通渋滞です。交通渋滞に伴い、消費された時間及び石油による経済的損失は、約1600億米ドルに上ると推計されています。
本記事では、米メリーランド州のメリーランド大学が開発した交通系アプリ「incenTrip」を通じて、ユーザーへの効果的なインセンティブ付与に伴う交通渋滞の緩和を目指す取り組みをご紹介します。
背景
昨今、メリーランド大学は、①ナビゲーション機能等の交通情報の提供、②ユーザーのアプリ使用へのポイント等インセンティブ付与、③移動のゲーム化による自動車以外の交通手段の使用を促進する取り組みを行っています。
同取り組みを進める背景には、2015年以降メリーランド大学の交通工学研究チームが取り組む交通シミュレーションの研究結果があります。メリーランド大学は、幾多の交通シミュレーションを行い、ワシントンD.C.周辺における5%の自動車利用者の交通需要の減少に伴い、渋滞による遅延時間の約2割が減少すると推定をしました。
同結果をもとに、メリーランド大学は、自動車通勤者に対し、利用する通勤手段の変容を促進するシステムの開発を行いました。
さらに、メリーランド大学の交通工学研究チームは、人々がエネルギー消費量の少ない「エコルート」を通行した際に、インセンティブを付与するシステムを導入した場合の交通シミュレーションを行いました。交通シミュレーションによると、図2の通り、対象エリア内のエネルギー使用量が平均して約8.7%削減されることが推定されました。
メリーランド大学による交通系アプリの開発
これらのシミュレーション結果に基づき、メリーランド大学は、自動車通勤者の行動変容を促進するシステム(インセンティブ等)を活用した交通系アプリ「incenTrip」の開発を行い、2018年にサービス提供を開始しました。incenTripが提供する主要な2つのサービスは以下の通りです。
1. ナビゲーション機能や交通情報の提供
incenTripは、アプリ上で目的地を入力すると、目的地までの複数の交通手段及びルートを提案します。ユーザーが、その中から1つの移動方法を選択すると、ナビゲーション機能が利用できます。
2. アプリ使用に伴うインセンティブの提供
ナビゲーション機能で選択したルートの通行有無を、GPSを利用して追跡し、ナビゲーション通りの移動が確認出来た場合、アプリからユーザーに報酬が付与されます。更に、報酬が貰える週間達成目標やチャレンジ制度等を設けることで、ユーザーの継続的なアプリ利用を促進しています。
報酬は①金銭的報酬と、②非金銭的報酬の2種類があります。
①金銭的報酬
アプリ内のポイントから現金や、ギフトカード、ガソリンスタンドやシェアカーなどで使用可能なポイントへの還元
②非金銭的報酬
ユーザーが脱炭素化に貢献したレベルを示すゲーム機能等
incenTripを導入した結果
図6が示すように、incenTripの導入により、ワシントンD.C.では、交通渋滞の緩和や、それに伴う燃料の使用量減少、温室効果ガスの排出量の削減等が達成されており、高い費用対効果が得られています。
さらに、incenTripの導入により、GPSから得られる人流データを用いた交通状況の把握が可能となり、政府の効率的な交通計画の策定を推進しています。
最後に
ここまでご覧いただきありがとうございました。
本記事では、米メリーランド大学によるインセンティブを用いた通勤手段の変化及び交通渋滞の減少を推進するアプリ「incenTrip」についてご紹介しました。
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