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【画廊探訪 No.161】かりそめの姿の中に流れる本当の私――田中晴菜個展『NENNE』に寄せて―――

かりそめの姿の中に流れる本当の私
――田中晴菜個展『NENNE』(The Art Complex Center of Tokyo)に寄せて―――

襾漫敏彦

ピグメント(顔料)は、メディウムに混ぜられて、カンバスに固着される。それは、作者の腕力によって固くのせられたり、強く表現されたりする。けれども、ピグメントそのものの想いは、どのようなものであろうか。水に滲むように自然な動きにまかせたとき、彼等は、どのような姿をあらわすのだろうか。それは、もしかしたら人が創造される前日の五日目までの世界の姿かもしれない。





 田中晴菜は、イメージを情感に溶くように絵を描く作家である。そして、色そのもののうごめきを大切にする。彼女は、学校で油彩を学んだが、油彩、水彩、両方の手法で表現活動を続けている。四方を囲まれた中で、語るに語れない感情、それが染み出していく様をメディウムにのばした絵具のピグメントに託していく。




 日本は、様々な姿を見せてくれる豊かな自然に恵まれているといわれている。けれども人は、その中の狭い枠組みの中でしか生きていけない。それは、主観から認識が出ていけないように、存在も、心も自閉的である。だから、世界を、天上から見下ろすように正しく認め模写することはできない。だから教わるように世界はないのである。
 それでも、我々は何かとつながってこの世にある。それはおそらく大いなる自然であり、生命の連環なのである。



 田中の作品は油絵すら、マットな水彩のような感触である。淡い色感でありながら、強い存在感を、なぜか示す。一瞬、田中一村を思い浮かべた。
 確かな実感がある声は、かぼそくとも人の心をうつ。ピグメントを自由にさせる彼女の絵は、色と自分のありのままを伝えようとする絵なのだろう。

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田中晴菜さんの公式サイトは確認できませんが、【田中晴菜 画家】で検索すれば色々な情報が手に入ります。

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