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My Notes on a Conditional Form(注1)

(注1) 5月22日にthe 1975の4thアルバムを出す前に、伝説のバンドthe Beatlesのアルバムを聴き返していたんだけど、
そこで改めてホワイトアルバム(1)を聴いたところ、私は「the 1975の新譜もこうなるのかな」と思った。
ビートルズ4人がいわばやりたい放題に作曲して詰め込みまくったその作品は彼らのキャリア史上かなり実験的で多種多様な曲があり、そのジャンルレスな作品から私はthe 1975の新作を思い出さざるを得なかった。(2)

(1)イギリス・リヴァプール出身のバンドthe Beatlesの1968年にリリースした10作目のオリジナルアルバム『the Beatles』の通称。個人的にはA面B面が好き。

(2)the 1975の新譜『Notes on a Conditional Form』の先行シングルを複数出した時点でありとあらゆるジャンルの曲を発表しており、パンクな『People』、フォーキーな『The Birthday Party』などその他色々な作風から私はホワイトアルバムを思い出さざるを得なかったのである。因みに厳密にいうとホワイトアルバムの『Helter Skelter』がthe 1975の『People』と重なった時にこの2つのアルバムがリンクしてしまった。

そして2020年の5月22日の0時をまわり、即座に私はSpotifyを経由して『Notes on a Conditional Form』を再生した。一番目は恒例の『the 1975』。しかし今作においては、お決まりの「go down, soft sound...」ではなくスウェーデン活動家のグレタ・トゥーンベリ氏のスピーチから入る。思えばここから今作に感じる異変が始まっていた。

ここから3曲のふり幅が異常に大きい。『the 1975』はスピーチ、『People』は先述した通りのゴスパンクなナンバー、そして『the End(Music for Cars)』は壮大なアンビエント。この振れ幅の大きさは将来的にクセになりそうだ。(3)
「Music for Cars」を直訳すると車のための音楽。この意図をどのように捉えるかは人それぞれである。「人生は運転している車のように早くそこに流れる音楽」とか「車で運転して眺める光景のような音楽」などこのフレーズから色々なものを思い浮かぶことが出来る。まさにこの「Music for Cars」はthe 1975が与える以上に我々にとってどういう意味かを考え膨らませるフレーズになっている。ということを今作における冒頭3曲からして私は妄想してしまった。

(3)『People』から『the End(Music For Cars)』の流れは決して綺麗なものではなく、アルバムの流れを断ち切る断片的な象徴とも呼べると思うが、この音楽的情緒不安定こそ、私は「the 1975らしさ」を感じる。

そして続く『Frail State of Mind』『Streaming』『The Birthday Party』『Yeah I Know』の4曲は比較的おとなしいナンバーが続くといった印象であるが実際聴きこんでみるとその点においてマイナスな印象を得るわけではない。
『Frail State of Mind』はドリーミーなダンストラック(4)で、この曲は先行シングルだったが発表された時点でかなりお気に入りだった。

『Streaming』は短いインストナンバー。「ストリーミング」という言葉はまさに近年の音楽とは切っては切れない。この音楽媒体を通してストリーミングで年代を超えジャンルを超えた色々な音楽を聴いている現状に現時点で多彩なジャンルを見せているNOACFを重ねると、『Streaming』という曲は、2020年の現代とthe 1975の存在を包括しているように感じさせる。少なくともこの曲のタイトルは私にとって色々考えさせるものとなっている。

自然的で美しい『Streaming』に身を任せてたどり着いたのは『The Birthday Party』は、不思議な雰囲気を感じるフォークナンバーであり、何故か懐かしい思いをさせる。この曲のどうもつかみ取れない所と音楽に対する誠実さを感じる作風が何故か私にはVan Morrisonの1968年の作品『Astral Weeks』(5)を彷彿させる。特段似ているというわけではないが。

『Yeah I Know』は最初聴いた時からRadioheadを思い出させるミニマムなエレクトロナンバー。前作から感じ取っていたがthe 1975はRadioheadから結構影響を受けているバンドだと思う。(6)

(4)

(5)アイルランド出身のVan Morrisonによるスタジオアルバム。商業的には成功しないが専門的に評価の高い名作となっている。因みに最初聴いた時全く良さが分からなかった。その辺において商業的に成功しなかったのは分かるが、めちゃくちゃ奥深さを感じ味わいの濃い作品なので聴けば聴くほど魅力が伝わる作品だと思う。

(6)the 1975が2018年にリリースされた3rdアルバム『A Brief Inquiry Onto Relationships』にも、Radioheadの1997年の3rdアルバム『OK computer』の『Fitter Happier』を思い出さす、『The Man who Married a Robot / Love Theme』という曲がある。

次に続くのは『Then Because She Goes』『Jesus Christ 2005 God Bless America』『Roadkill』『Me & You Together Song』。

『Then Because She Goes』はUKバンドらしいロックであり、前曲『Yeah I Know』のエレクトロナンバーからのこの繋ぎに流石に違和感を感じざるを得なかった。曲としては悪くは無いけどちょっと短さが勿体ない気もする。バンドとしてはその辺を敢えて狙ったのかなという気もする。

『Jesus Christ 2005 God Bless America』も美しいフォークナンバーであり、この曲ではPhoebe Bridgers(7)をゲストに迎えている。今作NOACFはこれまでのthe 1975の作品以上にやたらバラードナンバーの出来が良いなと思う。そして『the Birthday Party』同様、懐かしい雰囲気を感じさせ、この曲においてはタイトルにあるようにアメリカの空気と優しさを感じる。the 1975はもはやギターポップを鳴らすだけでなく、様々な年代の音楽への入り口となるバンドなのかもしれない、その辺は複数名で過去に書いた記事を見てほしい。(8)

『Roadkill』みたいなカントリーロックは恐らくthe 1975の作品ではじめて聴く曲調だと思う。最初聴いた時から気に入っていた。改めて聴くと駆けだしのドラムとベースの演奏が気持ちを落ち着かせる良いものとなっている。

『Me & You Together Song』はthe 1975が初期のEPで出してそうな初々しい楽曲であり、青臭さを感じつつもどこか歪んでいる所がこの曲の魅力であり、そして私が特に気に入っているのは楽曲全体で鳴らしているベースがとてもメロディックで素晴らしい。(9)

(7)1994年、LA出身のシンガーソングライター。ライアンアダムスの目に留まりその後注目を浴びた。2017年に出した『Stranger in the Alps』は色々な人の年間ベストに選ばれるのを目にした。アメリカの空気を感じるインディーロックやフォークソングが並び、雰囲気の良い作品で私も好きだ。

(8)

(9)

その後に続くのは『I Think There's Something You Should Know』『Nothing Revealed / Everything Denied』『Tonight (I Wish I Was Your Boy)』。今作のハイライトともなる素晴らしい楽曲が続いてく。

『I Think There's Something You Should Know』は兎に角、耳心地の良いナンバーで好きだ。前半の歌唱から中盤の歌なしを挟んで、後半に早口な歌唱へと変わるのだが、私は特にこの後半の展開が好きで、どことなくthe 1975の1stアルバムの『Menswear』を思い出させる。何せ私は1stアルバムではこの曲を一番聴いていたのだ。

『Nothing Revealed / Everything Denied』は最初聴いた時感動した人も多いだろう。最初に出てくるコーラス隊も含めたコーラス、そしてその後に続くラップは近年のお洒落メロディのトレンドを詰め込んだような楽曲で、現行シーンを追っている人ならほぼほぼ好きになるのは間違いない。その点において「アイデンティティに欠ける」とか「オリジナリティがあるわけでない」という批評も出てくるかもしれない。とりわけ今作は賛否両論分かれる作風になっていて、それは確かにと思うところもあるのだが、「the 1975から出ている」という事実はもうファンにとっては有難いことなのだ。

『Tonight (I Wish I Was Your Boy)』は最初聴いた時から好きだったが、聴きこむうちにもっと好きになるだろうと思っていた。従来のthe 1975らしい甘い雰囲気のあるポップな曲であるが、本人ら曰くこの曲を述べる際にBackstreet Boysを言及しているが、それを見た時「ロックバンドがBackstreet Boysを述べるってよく考えたらすごいな!」と思った。どこぞのバンドはBackstreet Boysの張りぼてをぶっ壊していたのに(10)

(10) (ちなみに私はどっちも好きである、これについてはどうも思わないようにしている)

そして次に続くのは『Shiny Collarbone』と『If You're Too Shy (Let Me Know)』という曲だ。

『Shiny Collarbone』もエレクトロなインストナンバー。厳密には歌っている人がいるが、Matty Healyではなく、Cutty Ranksという人らしい。この曲の言及も見てなるほどな、と思ったように、イギリスのマンチェスターを根差した作風になっている。ある種歴史のようなものを感じさせるが、この辺のジャンルはそんなに知らないので多くは語れない。

『If You're Too Shy (Let Me Know)』は先行シングルから明らかになっていた曲で、もっとも「従来のthe 1975」を感じさせる80'sライクな楽曲だ。サビのサックスが爽快で気持ちよいが歌詞に関しては前作の『It's Not Living(If It's Not With You)』のようにどこかダークな側面も感じるので、より「従来のthe 1975』らしさを感じる。ライブ音源(11)を聴いてたので、もっと生楽器主体のロックな曲かと思ったら、アルバムではエレクトロな作風と仕上がっている。前者の方がどちらかというと好きなのでライブで見てみたい筆頭の曲である。

(11)こちらはライブビデオとなっている。

次は一斉に述べていく。『Playing on My Mind』、『Having No Head』『What Should I Say』『Bagsy Not in Net』。

多分この辺の曲も聴いているうちに好きになっているだろう。というか現時点で好きよりの評価なのだが、マイナスな側面を述べると、the 1975の作品は割かし後半で一度グダる。一曲で見たらいい雰囲気なのではあるのだが、アルバムの流れ的にやや大げさで退屈気味に続く。

と言っちゃうと、この楽曲らがてんで駄目って伝わっちゃうかもしれないので言っておかなければならないが普通に好きである。『Playing on My Mind』のフォークソングは女性のバックコーラスが良い味出してるし、『Having No Head』『What Should I Say』『Bagsy Not in Net』は、ジャンルレスな楽曲らがお構いなしに続く今作において、統一感のある曲が続く展開となり、このエレクトロ・ハウスな作風らは今作でthe 1975が中心的に打ち出したものであり、新たな可能性を感じさせる。
因みに『What Should I Say』を最初聴いた時、Francis and the Lights(12)が歌ってるかと本気で勘違いした。流石にこの歌声が続くのでMatty Healyなんだろうなと考え改めたが。

(12)Francis farewell Starliteによる音楽プロジェクトの名称。デジタルクワイアを流行らした中心人物であり、自らも歌っている。今回の『What Should I Say』と歌声に似ていると感じたのは私だけか?

そして『Don't Worry』と最後に『Guys』でこの作品は終止符をつける。

『Don't Worry』はMatty Healyが言っていたように父との共作である。the 1975は常に新たな可能性を目指した音楽探求を続けていたバンドであるがこの作品においては懐かしさや人間の肌を感じる暖かさを感じる。個人的にNOACFに思うのは、これまでのthe 1975は自らの存在をアピールすべく外へ外へメッセージを向けていたが、今作においてはそれに反して幾らか内省的でうちへと引きこもっている。その点において、「閉鎖的だ」(13)という批判が来ているのは分かるが、先ほど述べたように、向く方角を変えたthe 1975の今作はファンにしたら聴いてて楽しいものとなっている。だから私はこの作品は好きだ。

『Guys』は発表されたときからファンの間でも話題になっていた楽曲であるが、これまでの思い出を愛をもって振り返った楽曲だ。音を聴いててもMattyの歌声や演奏に愛が伝わる作品で、新たな路線を見出した今作とは反してある意味原点に返った曲だと思う。Music for Cars期の最後も飾るこの曲に魅了されるのは、私が多くのバンドが度重なるライブツアーにより精神があれ、メンバー脱退やら解散を見てきた中、the 1975はそうしたピンチから乗り越え、Mattyのドラッグ問題から乗り越えて、この歌が出てきたからだ。これはバンド自身だけでなく、聴いてきたファンにも愛が伝わる優しい曲だからだ。

(13)The Line of Best Fitという音楽メディアに曲の多くは万人ではなく、友人グループの自己満足的な音楽を指し示してると言われている。

A lot of the choices (or absence of choices) suggest the self-indulgence of music made by and for a closed group of friends, not for the millions of listeners that a new release by The 1975 will attract.


この記事に於いて、最初から歌詞や音楽的側面を深く掘ろうとした意図はない。私はこの作品を聴き終わってから一晩明けて考え始めた。

「この作品は将来的にどうなるのだろう?」と。

この作品に言われている批判的なコメントはだいたいは頷ける。私も今作は別に最高傑作と呼べる出来ではないなと思う。しかし冒頭で述べたように多彩なジャンルを含めたthe Beatlesの『ホワイトアルバム』のように、この作品もthe 1975のキャリアにおいて、もしかしたら「色々な実験をした作品」と呼ばれるのかなと考える。
だから私はこの直観的で結び付いた考えを大事にしたいべく、まだ聴きこむほど聴いてない現状のフィーリングを中心にしてこの記事を書いた。The 1975を伝えたい事がまだはっきりとつかめてないと思う。

これから聴きこんで中身が理解していったらこのある種の自己満足的な記事の価値は下がるかもしれない。この記事は一時的に抱いたフィーリングを書き記したものだ。「the 1975の今作は将来どうなるんだろう」というテーマを打ち出して、「最初らへんに聴いた時はこう考えていたんだな」とかこの先何年見返したら懐かしい気持ちになるかもしれない。それだけで自分には価値がある。

「将来的に今作はこうなるのかな」という「もしも」を私自身の中で具体化して書いた記事だから、私の「仮定形に関する注釈」という名前にした。

#The1975 #NOACF #NotesOnAConditionalForm #洋楽





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