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家族相談の現場から

みんなねっとや都道府県の家族会では、精神疾患・障がいのある方の家族を対象とした家族相談をおこなっています。そんな活動の中の相談事例をご紹介いたします。

家族・当事者の現状や気持ちを多くの方に知っていただけたらと思います。また、同じような悩みを持つ方の一助となれば幸いです。
ご感想お待ちしております♪

ひとりで抱え込まないで生活の工夫を

相談者は、強迫性障がいのBさん(妻)、正社員、40代半ばです。夫は都会へ単身赴任中。大学4年生の長女がその夫と同居しています。大学1年生の次女は、大学が第一志望ではなかったため学校を休みがちです。

Bさんは、次女が自分と同じ障がいではないかと思い受診させようとしていますが、本人は受診を拒否しています。三女は中学3年生です。Bさんは、3年前より地方に住んでいるため、車で30分かけてクリニックに月1回通っていますが、症状が安定せず、特に夫が月1回帰宅する時にイライラが大きくなるようです。

あるときパニックになった時があり、緊急で大きな専門病院に入院するつもりで受診したことがありました。その時は、夫と妹が付き添ってきていたのですが、落ち着いたので帰宅したということがありました。妹には、知的障がいの子がいるので、Bさんに対しては理解はあります。

医師からは、休職して休養をとるように言われたのですが、3人の娘の学費があるので、夫の給料だけではやっていけません。職場でのストレスもありますが、仕事は休めない状況だそうです。夫は優しくて協力してくれるのですが、自分の考えを押し付けようとしたりします。

次女は、アルバイトをしており、帰りがいつも23時近くになり、電車の駅と家をつなぐバスがないため、Bさんが車で迎えに行っています。そのため寝不足になると言います。近くに両親が住んでいますが、高齢のため頼れません。ときどき夕飯の支度もしたくないという時があります。
そんな中にあって、次女は大学を辞めたいと言っています。専門病院に、1週間後受診予約をしているのですが、行ったほうがよいだろうか。医者代や薬代なども負担が大きいので悩んでいる、ということでした。


■支援内容

電話口で泣いて、話が中断することが多くあります。
クリニックに3年も通院して改善がないとしたら、転院したほうが良いのではないだろうかと話をしました。特にパニック障がいや強迫性障がいの場合は、薬と並行して臨床心理士とおこなう面談に効果があると聞きます。もし、一人で心細いのなら付いていきましょうかと話しました。

次女の大学にはスクールカウンセラーがいます。今は夏休みなので、学校へ電話して相談の予約をしましょう。アルバイトは母親の状態を話し、もう少し早く帰れる所に変わってもらえないか、お願いしてみましょう。一人で抱え込まないで子どもに少しは甘えてみることもしてみてはいかがでしょうか。食事も完璧に手づくりにしようと思わないで、出来合いのものでもいいのではないでしょうか。「今日はスーパーの惣菜を買ってきて綺麗に並べたわ」という日もあっても良いと思います。職場でのストレスは、家が近いなら昼休みに帰宅して、少しでも家で休んでみてはどうでしょうか。医療費を安くする制度もありますので利用してみましょう。夫の考えを変えるのは無理なので距離を置いてみましょう。そして家で自分が一人になれる場所をつくりましょう。夫が、危ないからと行動を束縛しても、自分の考えをきちんと話す力を持てるように練習しましょう。

離婚してもきっと後悔します。子どもも5年もすれば独り立ちします。


■支援経過

幸い、クリニックも専門病院も、相談員である私の家の近くでした。しかも私の息子が通院している病院だったので、付き添って行き、医師にカウンセリングの打診をしました。医師も賛成してくれて、さっそく予約を入れてくれました。医師がカウンセリングが必要と判断すれば、費用はほとんどかからないという説明を丁寧にしてくださいました。それからは、月1回、受診の時にカウンセリングも受けて、次女の相談にも乗ってもらっているようです。

調子が悪くなりそうな時、電話があります。話している時はやはり泣いてしまったりすることや、近くに子どもがいると話しづらいこともあるようなので、携帯のメールで連絡することにしました。文字にすると気持ちが落ち着くし、声が漏れないので、夜遅くでも相談できるというメリットがあります。最初の1~2か月は、相談も多かったのですが、段々回数も遠のいていきました。時々「どお?」とメールをすると、「大丈夫です、受診してます」「イライラした時は、車で喫茶店に行くようにしています」などという返事が返ってくるようになりました。国家資格を持って働いているので、精神保健福祉手帳は取りたくないと言われるので、自立支援医療の申請をおすすめしました。


■支援のポイント

個人のクリニックでは、いろいろな制度の説明までは手がまわりません。当事者が働いている方の場合は、特に医師と家族以外に相談できる人もなく、病気が長引いてしまうこともあるようです。まして強迫性障がいと診断できる医師も少ないと聞きます。当事者も家族も何かおかしいとは思うのですが、どこへ掛かれば良いかわからないというのが現実です。

行政も保健所も、障害者総合支援法などの制度については、聞けば教えてくれますが、聞かれないことには答えてくれません。うつ病は、最近、テレビや新聞などでよく知られるようになってきましたが、こういう病気もあるよ、ということをもっと世間に知ってもらいたいと思います。

中学や高校の授業で、もっと精神疾患についての授業を取り入れてもらえたらいいのではないかと思います。

■編集担当からのコメント

本当に困っている時すぐに相談に乗ってもらえる人や場所が乏しい現状は、家族にとってだけでなく障がいを持つ本人にとっても同じです。この事例の相談者も障がいを持つ本人であり、自分自身の病気や家族への対応など、日常生活の中でさまざまな不安や苦悩を抱えています。
相談員は、相談者の話をひとつずつしっかり受け止め共感しながら、「すぐにした方がよいこと」と「先延ばしにしてもよいこと」を整理していきました。
その中からすぐにできそうな日常生活の中での工夫や、家族・医療機関・学校・職場などへの対応の仕方を具体的にアドバイスし、必要に応じて転院先に同行するなど積極的な関わりもしています。相談員が時間をかけて寄り添っていこうとする姿を示すことで、相談者が次第に落ち着きを取り戻し、安心して心配事を打ち明けていく様子が伝わってきます。

こうした温かみのある対応こそが、家族相談ならではの良さではないでしょうか。
相談を重ねる中で相談員は、臨床心理士やスクールカウンセラーなど関係者の存在も伝え、自立支援医療などの経済的負担を軽減する制度も紹介しながら関係機関につなげる努力をしています。これから先、相談者には話を聞いてもらえる人や場所が増えて、ひとりで不安や苦悩を抱え込むことがなくなっていくことを期待しています。


出典:「精神障がい者家族相談事例集」(2016年、みんなねっと発行)

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