SDGsと原発

国際環境経済研究所のメンバーが、「SDGsの観点から原子力発電を再検討する」という論文を掲載したのを最近読んだ。記事自体は、2019年5月のものである。

http://ieei.or.jp/2019/05/opinion190531/


記事では、原発は「二酸化炭素の排出量が少ないからクリーンである」とし、「クリーンなエネルギーをみんなに」というSDGsの目標と親和的であるとしている。

どうしても納得できない論理展開である。
ここは「経済の」研究所のようだ。環境の研究所ではないみたい。経済最優先、人命軽視の論理展開である。

理解できない点は、以下のとおり。

・クリーンの定義
・二酸化炭素排出量の計算方法
・安全性評価方法
・リスクマネジメントの視点がない
・偏った環境配慮

◆クリーンとは

ここではクリーンの定義を明確にしていないが、どう読んでも、二酸化炭素の排出のことしか考えていない。

本文にも、「原子力発電は火力発電に比べて、CO2の排出量という点では、かなりクリーンなエネルギーである。(図2)このことは当然SDGsの「気候変動に具体的な対策を」の目標にも寄与する。」と書いてある。

放射性物質の排出と、その危険性は、意識していない。

◆二酸化炭素排出量の計算

この論文では、1kwhあたりの二酸化炭素排出量を算出比較している。原発と比べて、火力発電(石炭、石油)は、膨大な二酸化炭素排出量である。
それも、発電燃料燃焼時だけではない。原料の採掘、輸送、設備の建設、運用においても、原発の方が優れているとしている。

なかなか納得し難い計算結果だ。

僕は専門家ではないので、頭ごなしに否定はしない。が、例えば、原発の設計、施工にともなう事業活動に伴う二酸化炭素排出量は、どこまで見込んだ? 火力発電所とは異なり、活断層調査など、膨大な手間隙がかかる。文殊などろくに使われずに終わった間接的な設備の運用も見込んだのか?
放射性廃棄物の処分は、何年間、どうやって処分することを前提にした? できない地中埋設のために、様々な調査が行われている。これらの事業活動も見込んだのか?
温排水の影響は、見込んだのか? 直接、二酸化炭素は排出しないが、膨大な温排水による海水温の上昇と、それに伴う溶存二酸化炭素の排出の可溶性、気候変動への影響は考慮されるべき。(環境配慮の項参照)

僕の能力では具体的な計算方法までは議論できないが、それらを考慮してないのなら、不適切な比較と思う。

◆安全性評価

1twh あたりの死者数として比較している。石炭による発電は161人で、原発は0.04人である。圧倒的に石炭による死者数が多い。これは、石炭による大気汚染の影響としている。

また、重大事故による死亡者数も、原発より石炭発電の方が多いとしている。

この計算は、信頼できるのか?
重大事故による死者数には、晩発性の死亡者は含まれていない。つまり、すぐに死んだ人のみで計算されている。

1twh あたりの死者数は、どうやってるのだろうか?
原発の死者数の少なさをみると、晩発性の死亡者は含まれていなさそうだ。チェルノブイリの晩発性死者数は万単位の死者数だ。だとすると、石炭による死者数は、多すぎないか? 大気汚染による死者は、直接死ではないはず。こんなに多くなるのはなぜだろう。

それとも、原発は発電量が大きいから、チェルノブイリの死者数をカウントしても、0.04人まで下がるのだろうか?

◆リスクマネジメント

上記のデータは、算出条件のあいまいさがあるものの、過去の事例に基づくものであり、科学的な議論とは言える。

しかし、リスクマネジメントの観点から考えれば、決定的に欠けているものがある。
それは、リスクが発生したときの被害の大きさだ。
今後、日本の原発でメルトダウンが生じたら、どうなるか? また、先の地震で耐力を失った福島原発が、再度、同レベルの地震を受けたら?
そういったケースを想定し、死者数を見積もれば、判断が変わるはずだ。

また、過去の事例でも、死者数だけでなく、チェルノブイリの甲状腺異常、奇形出産、その他の健康被害、フクシマも含めた移住を余儀なくされた人々の生活苦、除染などを含む事故対策の費用、経済損失を比較すれば、どの発電方法が優れているか、その判断は変わるだろう。

単純に二酸化炭素排出量だけで論じるもなではない。それを、あえて二酸化炭素排出量に論点を絞っている。

◆環境配慮

この論文では、陸の豊かさを守ろうというタイトルで、「1年分の発電量で比較すると、原子力発電所では約0.6km2だが、太陽光発電で同じ電力をつくるためには約58km2(山手線一杯)が必要である。」と、説明している。

しかし、海の環境破壊については、一切触れていない。原発は、冷却水として海水を利用しており、1秒間に70tの海水の温度を7℃上昇させる。(imidas 元京都大学原子炉実験所助教 小出裕章氏)
多摩川の流量が、36.6 m³/sなので、その2倍の流量だ。つまり、多摩川の水温が7℃上昇し、常に海に流れ込んでいるのだ。しかも、2本分。100万kW級の原発1基で。
このような温排水が、各原発周辺で垂れ流されているのだ。

海の生態系はめちゃくちゃだ。
これが、海水温の上昇を招き、漁場(近海の)を変えているのは間違いない。
小出氏の試算だと、日本の原発54基全てが稼動すれば、日本のすべての川の水温が2℃上昇するのに匹敵する温排水がでるという。そして、温められた海水からは、溶け込んでいた二酸化炭素が大量に放出されるそうだ。
国際環境経済研究所のレポートは、この二酸化炭素の排出量を見込んでないようだ。

僕には公平な比較とは思えない。

おわり

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