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「中国思想」を知れば、「中国史」への理解は格段に深まります!
こちらの続きです。
2番目の記事の最後に書いた記事の「中国思想」における本の紹介の1回目となります。
「中国思想」はネット上ではさほど語られないですが、ビジネス関係ではかなりの関連本が発行されています。
『論語』や『孫子』など、かなり含蓄の深い言葉が多いです。
中国史を、ゲーム的な戦乱の過程を読んで楽しむための物語をとらえている場合は、中国思想については考える必要はありません。
しかし、中国史を学ぶ上で、人物たちが語っている内容や考えを理解するために、「中国思想」を知ることはかなり大事な要素となります。
日本の中国史談義で軽視されてきた「中国思想」
「中国思想」については、ネットの中国史談義では、長い間、軽んじられていた経緯があります。
中国の歴史において主流の思想であった儒教思想は、その弊害が強調され、中国は儒教によって衰退したものとされました。そして、本来は中国史の中で脈々と受け継がれ、それなりに弊害が多かった法家思想が廃れたことが中国の歴史上の失敗とされたのです。
それゆえに、日本人にとって中国の歴史人物の英雄性を強くうたわれるものは、多くは儒教思想と対抗する思想を持っていたものとされました。特に、始皇帝と曹操、則天武后はその傾向が強かったのです。
これについては、時代背景があるとはいえ、陳舜臣先生の歴史評価も余り的確なものではなかったかもしれません。
そのため、日本においてその人物の英雄性を強調するために多くの歴史人物が儒教とは無関係であると強調されるに至りました。
本来は儒教思想がかなり強いはずの光武帝まで、儒教思想はほとんどなかったという独説が流布し、儒教によってかえって貶められてきたという解釈により、その英雄性が強調されるに至りました。
また、儒教思想が強いと思われた劉備や諸葛亮、李世民らは、ネットであらゆる批判を受け、低評価を受けることになります。
中国史の人物の行動や心情の動機を想像する時も、文明がローテクなだけで、あくまで現代的な思想や常識における「合理性」をもとに彼らは考え、戦乱を勝ち抜こうとしたと解釈され、そういった議論がされてきました。
この流れを変えたのは、宮城谷昌光先生の小説であったと思われます。宮城谷小説では儒教的な思想もかなり肯定されていました。また、当時の人の考えも時代背景を考慮にいれながら、想像される部分が強かったのです。
そのため、儒教のイメージはかなり変わることに至りました。
これは2000~2005年頃、約15~20年前のことです。
とはいえ、残念ながら、歴史学者が、学説と乖離した世間の歴史イメージに対して余り影響力を持てなかったということ、歴史マニアがそういったイメージ先行の意見に簡単に流されていたということは印象的なことでした。
流れを変えたのは、あくまで小説家ということはかなり重要です。この時の中国史界隈の意見は、小説家の先生方か大手サイト・ブログに大きく影響されていました。
革新であった渡邊義浩先生の活動
ですが、ここで革新が起きました。
三国志学会という民間の人に広く開かれた学会の中心メンバーである渡邊義浩という早稲田大学の先生が、三国志好きな人向けに様々な本を出版し、それがやがて浸透していきました。
渡邊先生は本来であれば、中国思想の学者であることもあって、中国思想もまじえた三国志に関する学説が展開されていました。
三国志学会は、2006年からはじまっていたようですが、約10年前、2010年頃から、ネット上の三国志談義においては、人物の能力や魅力の話題だけに限らないようになりました。
当時の私には意味が理解しきれなかったのですが、学説を交えて、天という概念、天命の思想や漢王朝の持つ儒教的な権威、皇帝や王朝という存在などについて、語られるようになったのです。
それまでは、サブカルを出発点にしていたため、中国史好きからは学識は下とみられることが多かった三国志好きの人々でしたが、この頃からその歴史書に対する深い読み込みも含めて、学説を認知して語るようになります。
そのため、中国史好きと三国志好きの平均的な学識は逆転し、三国志好きの方が上回るようになりました。
残念ながら、中国史好きの方々はそれが理解できず、歴史書から読む人物談義から脱却できず、相変わらず三国志好きより学識があると思い込んでいた方が多かったように思えます。
実は、渡邊先生の学説は学会でも余り主流ではなく、最近では中国史好きからも「あくまで学説の一つ」と扱われることが多いですが、これにより「中国思想」を受け入れられる下地は生まれたのは間違いありません。
私も「中国思想」を知らねば、中国の歴史書をいくら読んでも、歴史人物談義の領域を超えるのは困難であると感じております。
長々と語りましたが、中国思想を知れば、中国史の様々な概念や人物の行動原理が理解できるようになります。
それでは、中国思想に関する本を紹介します。
まず、中国思想の基本と「諸子百家」をおさえましょう!
はじめに、中国思想を学ぶために、お勧めの本はこちらです。
電子書籍がないのは残念ですが、amazonのレビューから分かりますように、中国思想史の本とは思えないぐらい、大変な好評価を受けた本です。
文章が分かりやすいのはもちろん、この本を特におすすめしたいところは、第一章と第二章です。
通常の中国思想の本は、それぞれの思想家の説く思想の説明から入ります。
しかし、この本では、まず、第一章と第二章において、中国思想の全体的な傾向、そして、特殊で分かりづらい「天」というものの思想について説明されています。
これにより、中国思想が西洋の思想に比べてどのような傾向があるか、中国史や中国思想で重要となる「天」とはどういった存在か、という基本的かつ(中国思想を学ぶものに取ってみれば)常識的なことを理解できるのです。
これを理解しているか、していないかで、中国思想のみならず、中国史への理解は大きく変わります。
「天命思想」や「革命思想」の意味について、ネット上の情報のほとんどは正確ではありませんでした。
そこで、まず、ここで基本と常識を確認できるのです。
続いて、諸子百家の思想について、その欠点や限界についても説明しながら、分かりやすく要点についた説明がなされています。
取り上げている諸子百家は順番に、孔子・孟子・荀子・韓非子・墨子・老子・荘子・列子・名家・陰陽五行説・雑家です。
とりあえず、上巻のここまでをおさえておけば、中国思想のかなりをおさえたことになります。下巻でとりあげる、それからの時代は、儒教ばかりなので、面白さも欠け、重要性も大きく下がります。
諸子百家をさらに詳しく知りたい方へ
ただ、本一冊だけでは不全とお思いの方も多いでしょう。
そこで、Kindle Unlimitedにおいて、読むことができ、諸子百家の思想を補足できる本を紹介します。
ただ、これを普通に読んでいたら、内容は難しいので次第に飽きます。
そこで、お勧めする読み方としては、
①上で紹介したレグルス文庫『中国思想史 上』の諸子百家の人物をそれぞれ説明している内容を読む。
②それぞれの諸子百家に対応する徳間書店の本に書かれた文の本題の内容を読む(孔子は『論語』)。会話形式が中心なところの方が読みやすい。
③なんとなく、『中国思想史 上』において説明された考えについて理解ができて、飽きてきたら、読むのをやめる(読むのは一部でいい)。
④徳間書店の本それぞれの冒頭にある「解題」を読んで、さらに補足する。
これだけやれば、かなり理解できます。
ただし、特に重要なのは、孔子(論語)・韓非子・老子だけです。
それ以外はそこまで無理して理解しなくても構いません。
これで、中国思想の基本と天に関する思想、陰陽五行説、儒教(孔子・孟子・荀子)、老荘思想(老子・荘子・列子)、法家思想(韓非子)についておおむね理解できれば、中国史に対しても理解力が飛躍的に増大するでしょう。
これで、中国史関係のスレッドや歴史ブログの内容も、秦の時代以前に関する話題でしたら、かなり高度なものでも理解できると思われます。
次回がありましたら
それでは、次がありましたら、レグルス文庫『中国思想史 下』をベースとして、儒教の発展を主とした漢代以降の中国思想、そして、現代人にとってはなじみ深い中国思想である『孫子』を理解するための本を紹介したいと考えています。
「儒教の発展を主とした漢代以降の中国思想」は、思想史としての面白みもかなり落ちますが、「三国志」を読み、理解する上での、大事な部分となります。
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