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終わりと始まりの間に~終焉を人生の転機に変える<ブリッジス・キャリア理論>

コロナ渦で変わることを余儀なくされたり、「何かが終わったな」と感じている人も多いのではないでしょうか。既存の考え方ややり方がうまくいかない…それらはもう「終わった」ものなのだ、と。

物事の終わりには喪失感が伴うものですが、終わりを人生の転機に変えるという考え方を提唱されたのがこちら、ウィリアム・ブリッジス氏 (William Bridges 1933年-2013年)。アメリカの心理学者であり、人材系コンサルタントでもあるお方です。すでに他界されていますが、ブリッジスさんは2020年以降の世の中を予感されていたのではないでしょうか。


ブリッジス氏は、転機(トランジション)を乗り越えるプロセスを「終焉(何かが終わるとき)」「中立圏(ニュートラル・ゾーン)」「開始(何かが始まるとき)」の3つの段階に分け、過渡期の最中に感じる痛みにこそ最も意味があると述べています。変化に伴う恐れや後悔など…辛く苦しい時期ですが、「何かが終わったこと」を受け止め、終わらせる必要があるのです。すべてが終わったとき、私たちは新たな一歩を踏み出すことができるのです

ブリッジスさんはこの過渡期を乗り越えるためのアドバイスも教えてくれています。詳しく見ていきましょう。


【第一段階:終焉(何かが終わるとき)】

自分の意志で終わらせるときもあれば、外部環境により終了させられるときもあります。コロナ渦での失職や、希望しない職種への強制異動はこちらに該当します。
多くの場合、強制的であれ自分の意思であれ物事の終わりには以下のような心理的なダメージが伴います。

■離脱:慣れ親しんできた場所や人から引き離されることから生じる感覚。 

■アイデンティティの喪失:過去の世界とのつながりを失うことで、自分は何者であるかということが分からなくなる感覚。 

 ■覚醒:属していた世界へ抱いていたイメージは幻であったと気付く感覚(会社や他者に裏切られた場合により強く感じる)。

 ■方向感覚の喪失:目標や計画が失われる感覚。

これらの感覚から逃げることなく、次のニュートラルゾーンにおいて、とことん味わいつくすことが重要です。 

【第二段階:中立圏(ニュートラル・ゾーン)】

喪失状態・深刻な空虚感を感じる段階です。進むべき方向が分からずただ立ち止まっているような感覚に陥りますが、後ろめたく感じる必要はありません。再生するための「死」(過去の自分との決別)を象徴しているのがこうした空虚感であり、新しい自分が生まれる必要なプロセスなのです。では、このニュートラル・ゾーンをどのように過ごせばよいのでしょうか。

ニュートラルゾーンを乗り切る6つのアクション

①1人になれる時間と場所を確保する:自分一人になれる環境に身を置き、心の声を聞いてみましょう。

②記録をつける:思いや考えをノートに書き留めてみましょう。小さなことでも構いません。

③自叙伝を書いてみる:これまでどう生きてきたのかを書き出してみます。過去を振り返ることで辛い状況から抜け出すヒントを得られることがあります。

④本当にやりたいことを考えてみる:固定概念を外し、率直に自分は何がしたいのかを改めて考えてみましょう。

⑤もし今死んだら心残りは何かを考えてみる :今死んだら後悔することは何でしょうか。自分が何をやりたいのかを客観的に見つめることができます。

⑥通過儀礼(感受性を培うための空虚への旅):自分とじっくり対話できる環境に身を置き、感情を味わいましょう。徹底的に考え悩むことで、新しい世界を見ることができるようになります。

【第三段階:開始(何かが始まるとき)】

中立圏(ニュートラルゾーン)を過ぎると、新たな始まりが待っています。何かの始まり、すなわちあなたが新たにやりたいことは、必ずしも明確な意思や形では現れないかもしれません。抽象的なイメージの中にヒントが隠されていたり、偶然の出会いや出来事が何かの始まりにつながることもあるからです。たとえ確信を持てなくても、気になっていることを始めてみましょう。周囲の反対や内側から沸き起こる恐怖心などの抵抗も生じやすいことをあらかじめ理解しておき、適切に対処しましょう。また新たな始まりは、すぐには結果に結び付かないものです。焦らず、日々を積み重ねることを大切にしましょう。

まとめ

何かの終わりは何かの始まりでもあります。たとえ自分が望まない終わりだとしても、新しい自分を発見する貴重な機会であり、過去の考え方を捨てることで新しい何かを始めることができます。

トランジション=過渡期において特に重要なのはニュートラルゾーンの経験です。始まりと終わりの間のこの期間には、「空虚」と「芽吹き」があり、それこそが終焉を人生の転機に変える力となるのではないでしょうか。

夜明け前が一番暗い、ともいいますしね!


補足:キャリコン試験対策

ちなみに、数あるキャリア理論の中でもキャリアコンサルタント試験(国キャリ・技能士ともに)においてトランジション理論は頻出です。ナンシー・シュロスバーグさんの4S点検と共に、必ず押さえておきたいところです。

参考資料:http://www.wmbridges.com/index.html