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【無料記事】 TV Bros.総集編特大号 「ブロスは何を取り上げてきたのか?」 元編集長・武内朗セレクト

※この記事は現在発売中の『TV Bros.6月号 総集編特大号』で掲載している記事を転載したものです。


元TVBros.編集長
武内朗セレクト

TVガイド、TV Taro編集部を経て、’94年秋から’98年春までTV Bros.編集長。コーネリアス、トータス松本、真心ブラザーズらの連載を立ち上げ。今春、編集代表として「平成TVクロニクルVol.Ⅰ~Ⅲ」を発行(小社刊)。


まだ子供が食べてる途中じゃないですか!! by 黒板五郎

(1995年5月27日号)

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 僕が編集長になったのは創刊して7年くらい経った頃なんだけど、その時点ですでに編集部の中に「ブロスらしさ」みたいな自意識はあったかもしれないね。なんとなくメジャーなものを避ける傾向というかな。人と違うことをやろうというのはいいんだけど、それがかえって自分たちの可能性を狭めてるように見えた。「ブロスは何でもできる雑誌なんだ」って気持ちはあるんだけど、結局やらないテーマを自分たちで決めちゃってる気がした。それはもったいないよね。他の雑誌でやっている題材でも、うちの編集部員は優秀だから、ちゃんと面白くできると思ってた。それで当時のブロスでは考えられない、ローリング・ストーンズやビートルズの特集をやったりした。担当編集は相当嫌がってたけど、やってみるとちゃんと面白い特集になった。「ラバー・ソウル」や「リボルバー」メインの切り口なんて当時は珍しかったんじゃないかな。
 そういう「王道をやる」という意味で、象徴的だったのが『北の国から』の特集。 『’95秘密』のタイミングだったんだけど、間違いなく注目される番組なんだから絶対やるぞと。でも当時の編集部では「『北の国から』ですか?」みたいな空気があった。テレビ雑誌なのに(笑)。そしたら「子供がまだ食べてる途中じゃないですか!!」ってタイトルで、『北の国から』を好きなライター集めて、真正面から細かいネタを掘ってきた。『北の国から』って連続ドラマ時代から全部見てる人って当時そんなにいなかったの。裏の『想い出づくり。』を見てるドラマ好きが多かったから。「子供が~」っていうのも今では有名なセリフだけど当時はそういうところに注目する雑誌はそんなになかった。オルタナティブを掲げたテレビ雑誌としてそういう特集が出来たのは、それこそ「ブロスらしさ」だというか、オリジナリティーを発揮できたという感覚があったね。


風呂に入りなさい!

(1996年5月11日号)

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 やってるうちに、みんな「何でもあり」の感覚がだんだん分かってきて、好き勝手な企画を出してくるようになった。編集会議はだいたい2、3時間はやってたと思う。ほとんど雑談なんだけど、会議で話題が広がって、盛り上がった企画をやってたね。企画を出した本人が思ってもいない方向に転がるような企画というか。たとえば風呂特集というのがあって。当時、DJのブライアン・バートン・ルイスが連載していて、その中で「ブラブロ(ブライアン風呂)」ってのがあったの。彼が風呂の水をずっと替えずに、追い焚きしたり入浴剤を継ぎ足したりして何年も同じ湯に入り続けてて、これが温泉と同じような効能がある、みたいなことを言ってて(笑)。それきっかけで「風呂特集」って、企画に上がってきたら盛り上がったのでそのまま特集をやることにして。いろいろやったんだけど、当時、編集部員だった藤本くん(コーネリアス等の連載を担当)がシャワー1回分の値段を水道代やらガス代やら込みで計算したら、180円くらいだったのかな。ちょうどブロス1冊分と同じで。「俺たちが作っている雑誌はシャワー1回分ですか!」って怒ってたな。
 トイレ特集というのも覚えてるなあ。山手線全駅のトイレに足を運んで「ここはキレイ、あそこは汚い」と調査していくという。なかなかやらないでしょ? そういうの好きなのよ。宅配ピザの食べ比べとか。あと潔癖症の特集とか。編集部に潔癖症の奴がいて「女の子と付き合うときはどうするの? 粘膜接触もあるでしょ?」と聞いたら、「本当は嫌なんだけど、でもそこは我慢して渋々やる」みたいなことを言ってて面白かったんでやりました。 「雑誌としての間口を広くする」というのを意識していたんだけど、言ってみれば風呂もトイレも超メジャーな題材だし、うちの編集部員ならどんな素材でも面白くすることができると思ってたな。


刑事コロンボ大事典

(1997年2月8日号)

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 『刑事コロンボ』の特集をやったのも印象に残ってる。当時の上司から「なんで今、コロンボなの?」と聞かれて、「なんでって言われても…」と答えに窮したんだけど、要するに、「放送がある」とか「DVDが発売される」とか、そういうきっかけが何もない時に突然『刑事コロンボ』特集をやる。そうすると、メジャーな題材でも意表を突ける。そういう独自性だよね。もちろん『コロンボ』が好きな部員がいて、常々やりたいやりたいって言ってるわけだよ。それが前提。『鬼平犯科帳』もやったし、『男はつらいよ』もやったな。ダイナミックプロに表紙を描き下ろしてもらって永井豪特集もやった。きっかけありきで取り上げたものもあるけど、でも公開や発売のタイミングと関係ないときにもやってたね。あと、メジャーであってもマイナーであっても、基本的に好きなものを特集する。けなす特集はしてはいけない。
 そうやって一見好き勝手な特集をやれたのは、結局ブロスがテレビ雑誌だったから。番組表を目的に買ってくれるお客さんがいたからというのが大きい。この特集をやったからいきなり売れる、売れないというのはあまりなくて、毎号買ってくれるお客さんがいるから、自由に特集が出来たし、特集目当てに買ってくれるお客さんも値段が安いから買いやすかった。しかも2週間分の番組表がついてくるという。そうやって少しずつファンを増やしていった。だから最初に「できるだけ安く番組表を売る」というコンセプトでこのフォーマットを作ったのがすごいよね。カラーページなしの雑誌って普通に考えたら暴挙なんだけど、そうやって安くすることによって部数をキープして、「どんな特集でもやれる」というオルタナティブなポジションを確保した。だから当時も販売サイドから「カラーを増やして値上げしたら」ってずいぶん言われたけど、受け流してた(笑)。

(了)

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