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プロも間違う消費税の仕組みが一番よく分かるサイトのことと誤解事例の紹介


消費税に関するニュースや議論がほぼ連日のようにされています。

消費税は法人税・所得税とともに国の税収の基幹を担う重要な税ですが、間接税であるため納税義務者と税の負担者が異なる。日本の消費税は付加価値税で多段階課税方式を取る。といった特徴があることから、税の仕組みや会計・経済的意味が比較的ややこしい税金と言えます。

そのため、著名人の発信や記事の中にも、消費税に関して、誤解にもとづく間違った解説や制度批判や政策提言などが散見されます。

そういった間違った情報にミスリードされないように、消費税の仕組みを知る上でベストな情報元を紹介します。そして、消費税を誤解して不適切な発言等がされている事例(以下、「誤解事例」)の検討をしてみましょう。


■消費税のあらまし

皆さんは国税庁って知っていますか?

国税庁は内国税の適正かつ公平な賦課及び徴収の実現等を任務とする財務省の外局ですが、そのWEBサイト(www.nta.go.jp/)には税に関する膨大な情報があります。

官公庁のWEBサイトは利用者層が限られることから得てして予備知識がないと分かりづらい内容が多いですが、国税庁のサイトは利用者が非常に広範にわたるという性質上、税に関する説明資料にも、わかり易さを意識した一般向けのパンフレット等も充実しています(もちろん、税理士等専門家でなければ難しいものも充実しています)。


冒頭はナイツ塙さんのボケ風に入りましたが、消費税を理解するには冗談抜きで国税庁の資料が一番優れていると思います。ただし国税庁サイト内の消費税の説明資料だけでも様々なものがあります。また最近は税率変更、軽減税率の導入の関係資料が検索上位に来てしまいます。

僕が一番よいと考えるのは、「消費税のあらまし(令和元年6月)」というページです。制度全体を一気通貫で理解するのにダントツに分かりやすいと感じます。PDFファイルによるパンフレットなので端末によっては見ずらいという短所はあるかもしれません。


1頁から4頁の、①消費税はどんな仕組み?だけでも読む価値はあります。

ここでは1頁目だけ取り上げます。

◎ 消費税を負担する者=消費者
◎ 消費税を申告、納付する者=事業者
◎ 税金が価格の一部として転嫁することを、税の転嫁といいます。

大事なことなので繰り返しました。


□消費税の負担と納付の流れ の図に着目してみます。

事業者は、取引上で受取った消費税と支払った消費税の差額を申告・納付

していますね?そうすると、

消費税率が何%になっても、事業者は消費税によって損も得もしない。

と分かります。(厳密には、資金繰りに伴う金利費用等が関係しますが、ここでは無視します)


それでは、以上を前提に、誤解事例を検討して理解を深めましょう。


誤解事例① 輸出還付金不要論


(原口一博氏のツイッターhttps://twitter.com/kharaguchi/status/1157269888550916096?s=20 より引用)


最近目についた国民民主党の原口氏のツイートを引用しましたが、こういった消費税の「輸出還付金」(ないし「輸出戻し税」)を問題視するような論調は日本共産党なども行っているもので、氏の独自の見解というものではありません。

まず指摘しなければならないのは、「輸出還付金」や「輸出戻し税」といった制度は存在しない。ということです。

消費税法(および租税特別措置法)全文のページ検索をしても、site: nta.go.jp で調べても、ヒットしませんね。

制度として存在しない概念をあたかも制度であるかのような用語を使用して制度論の主張に利用することは、非常にミスリーディングで不適切である。と考えます。


批判はさておき。この主張は、輸出企業に消費税の還付金を受ける割合が多く、大企業では金額が多額に上っているという一局面を切り取って、それが税制上の優遇であるかのような解釈をして批判しているものです。

なお、輸出企業が消費税の還付金を受ける割合が多いというのは事実ですが、その制度上の根拠は消費税法52条(仕入れに係る消費税額の控除不足額の還付)になります。

なぜ還付金が生じるのか。まずは先ほどの消費税のあらましを見返しましょう。

[1]消費税はどんな税
 消費税は、消費一般に広く公平に課税する間接税です。
 ほぼすべての国内における商品の販売、サービスの提供および保税地域から引き取られる外国貨物を課税対象とし、~

国内における商品の販売等が消費税の課税対象ですので、外国への輸出には課税されません。外国における消費に日本の消費税を負担させることはできないので、当然ですね。

そうすると、□消費税の負担と納付の流れ はどうなるか。

小売業者を輸出企業、消費者を外国の消費者に置き換えます。すると、消費税④がなくなるので、輸出企業は消費税③(仕入れに係る消費税額)だけ、差し引き取引上の消費税の受け払いがマイナスになります。そのマイナスになった金額を税務署から企業に還付するのが、仕入れに係る消費税額の控除不足額の還付)です。下表は輸出企業が米国に輸出したケースで置き換えたものです。米国の消費者は米国の販売会社を通じて米国の間接税を負担しますが、これは米国の税収になるものです。

輸出企業は、消費者に対する転嫁がされなくなったので、仕入先に支払った消費税額を税務署から還付を受けるものです。損も得もしていません。

日本全体でみると、納付税額の合計5,600、還付税額の合計5,600でネット税収ゼロ。これは最終製品が外国で消費されることになり、日本国内の消費がないため。

原口氏が主張するように「輸出還付金」を不要として輸出企業に還付をしないようにすることは妥当でしょうか??変ですよね

そんなことをしたら消費税の負担者でないはずの事業者に消費税額を負担させることになります。仮に輸出企業を狙い打ちにするような仕組みにするなら、輸出関税を課すようなもの。税の構造を見直すとしても法人税や所得税で考えるべきでしょう。


誤解事例② 消費税がかかる分、業務委託は雇用関係より割高論

ギグエコノミーが進む中で消費税率が上がれば、雇用関係を結んで仕事を委ねるよりも、消費税がかかる業務委託は割高になるから、雇用関係を維持する方向に影響が及び、最低賃金制度の実効性が増す。

他方、消費税を廃止してしまうと、最低賃金が適用されない業務委託が増えて雇用関係が減り、最低賃金制度が形骸化してしまうから低所得者を守れなくなる。


慶應大学経済学部の土居先生の本日のNOTEより。東洋経済オンライン記事のアウトラインです。

(うーん。。あらまあ・・・)


『雇用関係を結んで仕事を委ねるよりも、消費税がかかる業務委託は割高』

という記述から、事業者の支払う消費税が事業者にとってのコストになる。と誤解されているのが分かります。東洋経済の記事でも、終始そのような前提で論を進めています。

しかし、実際は、消費税率が何%になっても、事業者は消費税によって損も得もしない。消費税が廃止されても同じです。コストにはなりません。

こちらも □消費税の負担と納付の流れ で見てみます。

原材料製造業者(業務委託)が従業員(被雇用者)に置き換わったケースを想定します。そうすると、原材料製造業者の売上げと製造業者の仕入れが給料になり、消費税①がなくなります。

もし、消費税が製造業者にとってのコストであるなら、業務委託を従業員にすることによりネットの利益は増えるはずです。しかしどちらの場合でも製造業者の利益は30,000(50,000-20,000)です。

また、消費税率によってコストは変わらないことも数字を当ててみれば分かります。



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