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PERへの理解を深める

※ 本内容は2021/10/16時点の記事をWordPressからnoteに移行したものです

投資を始めたころ、PERはその銘柄の割安度を測る指標だとみんな習うと思います。しかし、PERが割安な銘柄をスクリーニングすると不動産業や金融業の企業ばかりがヒットし、すぐにPERだけでは投資は判断できないなと学びます。
もう少し投資に慣れてくると、PERは過去の推移と比較して株の買い時を探ったり、同業他社のPERと比較して魅力度を測ったりをし始めます。

私は仕事柄(経理屋です)、企業買収をする際の株式価値をDCF法で評価したり、減損会計において無形資産の減損テストを行ったりと、ファイナンス論はかじった程度に理解しているつもりですが、株式投資におけるPERとのつながりが理解できておらず、言葉に出して説明できない状態でした。

そこで、一度PER周りの理論について、自分の頭の中を整理し、ブログにまとめておこうと思い立ちました。
なお、そういうことですので、PERやROEの指標はどう計算するかなどの初歩的なところは書きませんので、ご了承ください。


PERが投資家の期待を表すとはどういう意味か?

一般的に、株価はEPS×PERで決まると言われます。PER=株価/EPSで計算しますので、この式を組み替えると、株価=EPS×PERとなります。そして、EPSが一株利益であり、PERが投資家の期待であると言われます。つまり株価が上がるためにはEPSが成長すること、投資家の期待が上がることのどちらか(もしくは両方)が必要になります。もし、将来EPSが2倍、投資家の期待も2倍になれば株価は4倍になります。一方で、企業には成長のライフサイクルがあり、導入期→成長期→成熟期→衰退期と、一定時期を過ぎると企業の成長は鈍化していくことが一般的です。そのため、企業の成長に伴いEPSが2倍になってもステージが進んだことで企業への成長期待が下がれば(半分になれば)株価は元通りです。

ここで、投資家の期待値(PER)はなんとなくわかりますが、理論的は背景について理解したいところです。結論を先に記載すると、

PERは、『PER=1/(期待収益率ー成長率)』で示すことができます。

つまり、期待収益率・割引率(リスク)が高ければ高いほどPERは低くなり、成長率が高ければ高いほどPERは高くなります。以下で簡単なDCFのモデルを作ってみました。
毎期100の配当を永久にもらえる株があるとします。配当(=利益)の成長はありません。割引率を5%と置いたのは、他のインデックスなら5%程度の利回りを得れると考え、その利益をあきらめてこの株を買うので、最低限は5%程度の利回りは欲しい(機会コスト)という考えのもと、割引率(期待運用収益)5%を設定しました。そのときの株価は2,000であると計算されました(ケース①)。

ケース②では、配当は5%成長していきますが、成長を伴うビジネスにはリスクも付きまとうだろうということで、リスク見合いを加算した割引率を10%と高めに設定しています。

このケース①とケースの②のPERはともに20倍と算定されました。ケース②ではビジネスのリスクが高まるとPERは下がりますが(割引率10%、成長率0%だとPERは10倍に下がります)、ビジネスの成長の期待(5%)も乗っているのでPERが上がり、ケース①と同じPER20倍が算出されることになりました。

リスクが高いビジネスとは、利益が安定しないビジネスのことであり、冒頭の不動産業がまさにこれに当てはまります。不動産業は景気の波により利益の変動が大きいため、投資家の期待する利回りはおのずと高くなり、PERは低く設定されていることになります。

成長期待が低い企業もPERが低く算出されます。金融業のPERが低い理由は、カネ余り・低金利を背景に、今後の利益の成長期待が低いことから(成長率を低く設定)PERが低くなっていると考えられます。逆にSaaSのIT企業のPERが高いのは、企業の成長期待が高い(成長率を高く見積もっている)ことが理由ですね。

PERが15倍が目安と言われるのはなぜか?

投資を始めたころ、PERが15倍以下は割安と言われて、15倍以下の銘柄ばかり見ていました。

さて、上の議論では、PERは投資家の期待であり、それは事業のリスクと成長率で決まるということでした。その議論を踏まえ、PERが15倍とは、どれくらいのリスクと成長率を想定しているのかということを表にしてみました。成長率を1%と仮定すると、割引率は7~8%の場合にPERが15倍と計算されることになります(薄いオレンジのハイライト箇所)。ちなみに成長率が5%の場合はPERが33倍~50倍くらいが許容レンジとなります(ビジネスモデルによって、事業のリスクすなわち割引率は違うと思いますが)。

M&A時などファイナンス理論を用いて、DCF法で企業価値を算出するときに、割引率に利用するマーケットのエクイティリスクプレミアムは6%程度が妥当ですね、と習ったことと整合していました。

出典:資本資産価格モデル - Wikipedia

盲目的にPERが15倍の銘柄を探すのではなく、その企業のビジネスモデルを確認して、その事業のリスクや将来の成長期待を勘案して適正なPERを設定するというのが大事ですね。

そのうえで、現状のPERがその適正なPERよりも低くなっていれば(売られすぎていれば)、割安であると判断して、その銘柄を購入すればよいということになります。当たり前のことではありますが、その当たり前の理論的な背景が確認できたので、今日はこの辺にしておこうかと思います。次回は、PERとROEの関係についても整理したいと思います。

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