【ふたつの影の人たちはバラバラに集まった】

20××年8月××日(晴れ)
影の人に､明日オトコと別れるからついて来てくれまいか？言われ､電話で､そのとき､それまでのなんとなーくな経緯は知ってて､あぁこれはマジピンチなのだなー思い､うんいーよ､言ってついてった｡影のように｡

ふたつの影の人たちはバラバラに集まった｡18:00｡この街の名前が冠された駅の八重洲側みどりの窓口近くの柱の元に｡影の人は白っぽいパンツスーツ(ジャケットあり)で僕はこの夏前にスーツカンパニーでなんとなーく買ったグレーなスーツ(ジャケットなし)でノーネクタイだった｡影の人は､適当に離れてついて来て､くれぐれも見失わないでもらいたい､言った｡うんわかった､答えた｡

影の人はスタスタ歩いて巨大ターミナル駅とつながってる超デカいビルのだだっ広い､人が超多いのにその多さが気にならないくらいだだっ広いロビーまで行って立ち止まってiPhone出してなんか操作した(←ラインでオトコの方を呼んだ)｡

うわっ､すんげーロビーだなーでもシン･ゴジラにここらのビルみんな壊されてたなー､思いながらきょろきょろしつつそのままロビー横切って外に出て長ーい花壇のヘリに座ってデカいガラスの向こう､直線で10メートルくらいの距離にいる影の人確認した｡

30分くらいしてオトコの方がやってきて影の人は､ここでいい､ここで話そう､言った｡て見えた｡もちろん聞こえなかったけどそう見えた｡そしてそれは正しかった(←後から聞いた)｡

影の人とオトコの方は僕の場所から更に先にあるソファみたいなベンチで並んで座って話した｡影の人が話してオトコの方がうなずく｡オトコの方が話して影の人が短くうなずく｡なふー｡10分間くらいしてオトコの方は立ち上がりそのまますたすたエスカレーターの方に歩いて行った｡そのさまからは特に感情とゆうものはわからなかった｡

影の人は残った｡影の人はiPhone出して電話してきた｡
どこにいるか？
10メートルくらい離れた外｡
見てたか？
うん｡
ほめてくれ｡
うん｡あなたはよくやった｡
もっと｡
あなたはあなたに勝った｡さよなら際に弱いあなたはちゃんと踏みとどまり､さよならを果たした｡動画は撮らなかったけどちゃんと見た｡どこででも証言する用意がある｡
ありがと｡証言はしなくていい｡動画撮ってたら怒るし｡
でもその戦いはこれからの長いひとりの時間が正念場だ｡
わかってる｡そのために今日おまえを呼んだ｡
うん｡
どっかで冷たいもの飲んで喫煙しよーぜ､rrー｡
うん｡

ちょっと歩かない？提案し宝町方面にお外を歩いた｡風が涼しかった｡影の人は普通にたくさんしゃべった｡みょーに広いベローチェで並んで座って冷たいカフェイン摂取していっしょに喫煙した｡

【ノリズン】

rrタバコくれ(←本当はもーちょっとちがうふーに言ってたがしかし基本いつもみょーにえらそーな人なので､僕に)｡
影の人は､ものすごく久しぶりに喫煙する､言った｡
すー……ふー､あー､まずーー､クラクラしてくるー｡
そりゃそーだ｡
でもぼんやりできる不思議アイテムだよなー､これ､ふー｡
うんうん､ふー｡
などいーながらふたりで喫煙した｡タバコはそこに行く前､コンビニでメビウス3mgとライター買った｡

冷たいコーヒーふたりとも飲んじゃうと影の人は､じゃ飲酒しに行くかー､おごるよ､言った｡え？こっからひとりでしんみりするんじゃないん？言うと､影の人は､そんな怖いことできるだけ先延ばしにするしかないだろ､言った｡ふむ､ではおごられましょう､答えた｡

ベローチェ出て歩いて来た道戻りながら､どこで飲むか？聞くと､新宿､て即答｡じゃ丸の内線で3丁目かー(←新宿三丁目駅のこと)､久しぶりに白のれんの店行くかーまだあるかなーあの店ー(白のれんの店←ただの居酒屋､狭い､おばーさんがひとりでやってる､おいしー､以前この日記に書いた)｡
いや｡
なに？
いや､ちょっと待て｡
なに？
やっぱり泣きたい｡
えええーーーー!(←泣くは予想できなかったワケじゃないけどでもとてもびっくりした)｡今？ここで？
いや｡
じゃもー帰れよ｡
自宅はやだ｡どっかで泣きたい｡
どっかってどこ？
わからない｡
わからないってあーたそんなどっか腰据えて泣けるとこないの？
ない､そんなの｡だいたい何だ？腰据えてって？失礼なやつだなー｡
失礼てあーた｡でも僕もないよ｡泣かないし｡

そのようなやり取りをおこない結果､タクシーで海まで行く｡東京湾｡浦安市｡その場所は長いコンクリートの防波堤が続いてて､お台場と葛西の観覧車とあのランドのお山が見え､夜釣りの人もカプルの人たちの車もいなく､視界が開けてて羽田空港の飛行機がやや低い位置で行ったり来たりしてる｡影の人は､いーとこ知ってるのに出し惜しみしてんじゃないよ､言った｡
いや､ここいらは仕事でちょくちょく来てて｡
ふーん｡
帰りは駅まで歩きだな｡ちょっと距離あるよ｡
かまわない｡
で､泣くの？泣くよな？ここまで来て｡さぁ影の人､その涙腺を思いのまま開け放つがよい｡
うるせー､死ね｡

自販機で冷たい水買ってコンクリートな堤防の上に座って少しして､影の人は泣いた｡ホントに泣いた｡わーわー泣いた｡ときどき何か否定的なことを切れ切れに言いながら泣いた｡本当にわーわー泣いた｡

その間ひとりで喫煙した｡ここから見る東京の灯りの集合体で形作られた影は何か大きな生き物の巣みたいだなー､て思った｡

【本名はやわらかな語感な人】

それから影の人､本名はやわらかな語感でかーいらしーふー､な人はしばらーくして､rrタバコくれ､また言い(今度は小さーい声で)､うん､言って自販機で買ったいろはす差し出すと､ものすごーくささやかーにクスってして､いや､ものすごーくささやかーに首を横に振って､でもそのボトル受け取ってごくごく飲んだ｡

女子が泣いてるの見るの好きか？
自分と関係ない場合は興味深いと言えましょー｡
関係ある場合は？
反省する｡
うそくせっ｡
そのとき何を考えてるのかは誰にもわからないしそれを証明もできない｡
すべてのそれはそれほどシンプルに言い抜けられやしない｡
パターンや統計を使えばとゆうこと？
直感は信じるに値するってゆうこと｡
はは､喰えない女子っ｡
おまえがゆーな｡それも今｡

でもホントは始めっから泣くまでを予定してなかった？
うん､あぁ､実は｡いつそう思った？
ここ来るタクシーの中でもしかしてって｡はなっからそう言っといてくれればよかったのに｡
それはできなかったなー｡
なぜ？
いや､説明しづらくて｡恥ずかしくもあって｡
いや､せっかくだから説明していただきたい｡て言って教えてもらったそれは確かに込み入った説明で長かったので割愛｡本名がやわらかな語感な人はまぶたが腫れて超泣きましたヅラなのが横顔からでもわかるふーで説明してくれた｡
その裏計画は読めなかったなー｡
読めてたら？
ベローチェで帰った｡
喰えないやつ｡
あなたもゆーな｡

それから少ししてそこから立ち上がり､吸い殻集めてポケットに入れて最寄りの駅まで歩いた｡Googleマップで見ると3.3キロ｡スマホでタクシー呼ぶ手段もあるが､ふたりともそんなアプリダウンロードしてないしでもーいーや的に歩いた｡ほとんど長い一本道で左側にずーっと金網に蔓な雑草がからまって続いてた｡コンビニも自販機もなかった｡本名がやわらかな語感な人はジャケット脱いでときどきそれとバック振り回しながら歩いてた｡

本名がやわらかな語感な人は力ずくでさよならした｡その夜｡さよならってなんだろ？みんなさよならなんかしなくても別の手立てがあるのでは？て思った｡そう言えばカジウラくんのお姉さんの人はいつか､女子はいついかなる場合もちゃんと泣きたいのだよ､て言ってた｡何か暗示的な言葉だ｡さよならが関係性の契約の終了の契約なら｡なお｡