RPG の起源 - RPG とはなにか
考察のためのメモ+ 22 Jun. 2005記
H. G. ウェルズとリトル・ウォーズ
1913年に出版された『リトル・ウォーズ(Little Wars)』は出版された最初のミニチュア・ルールです。ミニチュア・ゲームは名前のとおりミニチュアを使って遊ぶウォーゲームであり、明確なルールがない時代から広く遊ばれてきました。ウェルズは遊ぶためのルールを初めて文章にし、それをリプレイにしたのです。
(詳しくは拙稿参照)
ミニチュア・ゲームは以後多くの人に楽しまれるようになりました。戦争をテーマにしたものは1970年前後に絶頂に達し、SF/ファンタジーテーマのものがそれに代わり主流となって現在にいたります。
H.G.Wells "Little Wars" Da Capo Press, Inc. 1977
とうぜんリプリントもの。最初の版は1913年(Frank Palmer)。
SF作家たちとゲームの出会い
「……フレッチャー・プラットの家でやる“戦争ゲーム”に出席するよう招待された」
(『アシモフ自伝 I 』早川書房)
フレッチャー・プラットはスプレイグ・ディ・キャンプとの合作「ハロルド・シェイ」シリーズで知られるSF作家で、アシモフと最初にこの海戦ゲームをプレイしたのは1941年1月のことだったそうです。
このゲームは多くの人にプレイされ、ゲームを通じたコミュニティもあったそうです。その中には若き日の Steve Perrin もいたそうです。
さて“リトル・ウォーズ”において、コマはあくまでコマでした。弾が当たったり、白兵戦(コイントスで勝敗を決めた)で破れればすぐに除去されるような、大勢の中の1人。
しかし、このプラットの“Naval War Game”はコマが1艦を表します。そしてヒット・ポイント、速度といった個々の個性が発揮できるゲームシステム、そして名前があります。ここにRPGのキャラクターの要素を見ることができるのではないでしょうか? プレイヤーは艦を動かすとき、心の中で艦長のロールプレイをしていたのではないでしょうか? SF作家たちが熱中したというのもわかるような気がします。
Fletcher Pratt "Naval War Game" Z &M Enterprises, 1978
海事ウォーゲームの古典。最初の版は1940年(Harrison Hilton Books, Inc.)。これは Z &M Enterprises から1978年にリプリントされたもの
ボードシミュレーションゲームの誕生
一方で1953年にチャールズ・ロバーツが、最初の商業ボードシミュレーションゲーム“タクテクス”を出版(●)すると、紆余曲折はありましたが、1960年代、1970年代を通じてファンを増やし続けました。多くのゲームメーカー、ゲームクラブが作られ、これはRPGが広まる下地になります。
Twin Cities (Minneapolis/St. Paul) & Wisconsin
1960年代、1970年代はミニチュア・ゲーム、ウォーゲームが拡大を続けた時代でした。多くの人がゲームを楽しみクラブもたくさん創られました。
ウィスコンシンで活発なファンジン活動を行なっていたGary Gygaxはさまざまなミニチュアゲームを作っていました。
あるとき、Gary はTwin Cities でやはり情熱的にゲームをしていた Dave Arneson、そしてDave Weselyと出会います。Weselyはウォーゲームに情熱を持つ大学生で、歴史とゲーム理論を研究していました。そこで 『紛争の一般理論』(ボルディング)、『The Complete Strategist』といったゲーム理論の書籍から、「非ゼロ和ゲーム」(勝者-敗者がないゲーム)や多人数ゲームのアイディアを持つようになります。また、ArnesonとWeselyは“ストラテゴ”を通じてレフリーのアイディアも持っていました。1967年にWeselyは自分のアイディアを使っていままでにないゲーム“Braunstein”の試みを行なうことにします。
これは今で言えばライブRPGそのもので、ナポレオン戦争時代の戦闘をシナリオにして、参加者にそれぞれさまざまな役割を与えていくものでした。Weselyが予想した以上にゲームをレフリーしてゆくのは困難だったようで、ゲームは次第に混乱してゆきます。まだ必要なルールは整備されておらず、レフリーのノウハウもなかったのですから。
ゲームが終わって、Weselyは自分の不手際を参加者たちにわびます。ところが参加者の反応は驚くものでした。彼らは口々にWeselyを褒め称えました。彼らはこのように興奮したゲームは始めての経験だったのです。Weselyは陸軍に召集されますが、Arnesonはその後も“Braunstein”を磨き続けます。
GaryはこのころTSRというクラブに参加し、そこからルールのデザインを始めます。その1つに“Chainmail”がありました。これは次第に多くのファンに知られるようになります。
ファンタジーセッティングとシステムが出会った
時代は1970年代に入ります。このころトールキンの『ホビットの冒険』、そして『指輪物語』が多くの人に知られるようになり、ゲーマーたちもそれにとりつかれました。Arnesonはナポレオニックの“Braunstein”に続いて西部を舞台にした“Brownstone”を作っていましたが、ファンタジーセッティング“Blackmoor”をつくりました。これは中世ヨーロッパをモデルにしていたものでしたが、いままで、ナポレオニック中心だったミニチュアルールのなかにはそれに合ったルールは多くはありませんでした。そしてGaryの“Chainmail”こそが求められていたものだったのです。
Arnesonは「自分がファンタジー世界の一員」となってプレイすることも提案します。自分の分身が傷ついたり死んだりすることに抵抗のある人もいました。しかしながら、それはMike Carrが彼のゲーム“Fight in the Skies”で沈黙させました。“Fight in the Skies”は第一次世界大戦の空中戦を扱うボードゲームで、パイロットはプレイヤーの分身になっていたからです。もう“Dungeons & Dragons”の完成はそこまできていました。
H.G.Wells "Little Wars" Da Capo Press, Inc. 1977
とうぜんリプリントもの。最初の版は1913年(Frank Palmer)。
Mike Carr. “Fight in the Skies 5th Ed.”. TSR. 1975
初版はCarrの自費出版(1967)。
PC=プレイヤーという概念を作ったゲーム。
Gary Gygax & Dave Arneson "Dungeons & Dragons" Tactical Studies Rules, 1974
最初のD&D。
Darryl Hany & Frank Chadwick
"En Garde!" Game Designers' Workshop, 1975
参考
Castle Blackmoor , the worlds of Dave Arneson
安田 均 『SFファンタジィゲームの世界』青心社, 1986
Allan Sugarbaker. Dungeon Delving with Dave Arneson
Sean Patrick Fannon.'The Fantasy Role-Playing Gamers' Bible, 2nd Edition'. Obsidian Studios, 1999
Sean Patrick Fannon
"The Fantasy Roleplaying Gamer's Bible" Obsidian Studios, 1999
(初版はPrima Publishing, 1996)
安田 均 「SFファンタジィゲームの世界」青心社, 1986
RPG、ボードゲームの起源や紹介、ゲームというものの考察など。プラットとアシモフのエピソードはこの本で知りました。いま読んでもすごい本。
【role-playing game およびRPGの語源】
web での話題から 9 Jan. 2002(一部改稿:22 Jun.2005)
昨年のこと、ネット上で「RPGの語源は?」という質問を見掛けた。自分でも興味を持ち、調べてみることにした。(2001年6月:TRPG.NETでのカンタニャック氏との資料交換から:DIO はわたしです)思いがけないことに、それがなかなか出て来ないのである。
当時のルールブックを読むと、ロールプレイとかシナリオとかストーリーの部分ってまったくと言って良いほどない。「~世界のゲーム」「創造力のゲーム」といった説明があって、あとは個人戦闘シミュレーションって感じだ。
ロールプレイの説明らしきものは Gygax "Boot Hill" (1975) の前文に "....The players then go about the actions appropriate to their chosen roles in the game - or the roles assigned to them by the game referee..." というくだりがあるくらい。これでどうやらレフリー(GMでないところがおもしろい)がプレイヤーに何やら役割を与えるらしいということが読み取れる。
ロールプレイングというプレイスタイルがD&D以前に誕生していたことはわかったのだが、どうしてそのロールプレイングのことはルールブックに書いていないのだろう? 古いゲームのルールブックやパッケージを見てみた。
D&D (1974版:いわゆる Original D&D)
Gygax による Forward (Castle & Crusade Society, Twin Cities club, Blackmoor のことなどに言及) 、ここには role という単語すらない。
Boot Hill 1975年版(参考にしたのは1979版)
序文(1.May 1975 の日付)....The players then go about the actions appropriate to thir chosen roles in the game - or the roles assigned to them by the game referee....
おお、role in the game。やっと role の文字が。
S&T 53 (Nov-Dec/1975)
P19 "Massive role-playing, free-form system" Empire of the Petal Throne を評して。
role-playing まできました。
En Garde Revised Edition (1977)初版は75年
P1 "En Garde is a semi-historical game/simulation representing many of the situations of an Errol Flynn movie set in the Seventeenth or Eighteenth Centuries."
simulation だって。
D&D 1977年版(参考にしたのはNov.1978版。基本的に同じはず)
箱 "THE ORIGINAL ADULT FANTASY ROLE-PLAYING GAME"
P1(扉) "Rule for Fantastic Medieval Role Playing Adventure Game Campaign"
P2(Preface) "fantasy role playing"
P5(Introduction 冒頭) "Dungeons&Dragons in a fantastic, exciting and imaginative game of role play for adults 12 years and up"
ここまできたらOKか? また、DMの役割もちゃんと記述してあります。
Traveller 1977年版
....players can play single scenarios or entire adventuring campaigns....
....An independent referee allows a large degree of flexibility and continuity......Traveller is basically a conversation game.....
シナリオやキャンペーンを楽しむ会話ゲームだそうです。
Flash Gordon & the Warriors of Mongo (FGU) 1977年(月不明)
「(このゲームは)多量のペーパーワークを必要とする大部分の role playng games と異なり」という表現あり。(カンタニャック氏より)
Boot Hill 1979年版
箱 "ROLE-PLAYING GAME OF THE WILD WEST"
Adventure in Fantasy (1979)
Introduction "Within the last few years the rise of ROLE PLAYING GAMES (often called RPG Games), ...."
RPG の略称が登場。
Tunnels & Trolls 1979年版
"Fantasy Role-Playing Game"
RPG はなし。
RuneQuest (1980版:おそらく1979年版と同じはずなんですけど)
Introduction "RuneQuest is a departure from most FRP games....."
FRP game か。
The Fantasy Trip 1980
"Role-Playing Game"
RPG はなし。
Traveller 1981年版
Book 0
role-playing game, RPG, FRP, FRPG なんでもでてきます。
なるほど名称に関してはなんとなくつかめたような気が?(漏れもあるけど)次はロールプレイに関して各ルールブックが何を書いているか読んでみたい。(いつ?)
(版による違いに関しては、Lawrence Schick "Heroic Worlds" Prometeus Books, 1991を参考にしました)