読書レビュー「ワールドウォーZ上・下」

ワールドウォーZの原作についてのツイートが流れてきたのが先週末、コロナウイルスの蔓延に際して読んでおくべき本として紹介されていました。このワールドウォーZ、数年前にブラッド・ピット主演で映画化されていて、確か続編の話もまことしやかに噂されていたはず。映画版のほかのゾンビ映画と一線を画す要素はゾンビの物量だったし映画雑誌や予告でもそこを売り文句にしてたような気がします。中東の町が一瞬で大量のゾンビに飲み込まれ、逃げ出すヘリに追いすがろうとするゾンビが重なり合ってゾンビピラミッドを作るシーンが特徴的だったよね？ところが作品の本筋はゾンビウイルスに対抗する手段を模索するブラピが「ゾンビは他の疫病患者を襲わない」という謎ルールを発見するという陳腐な形で終わってしまい、ありふれたゾンビパニックモノに埋没してしまった印象を受けました。

なので原作にも興味を持ってなかったのですが「アウトブレイクとゾンビパニックを乗り越えた世界でジャーナリストが各国の関係者に事態の初めから終わりまでをインタビュー形式で聞く短編集」と知って興味が湧いたのですぐに電子版を買って読んでみました。ドキュメンタリー風、いいじゃない。Netflixでドラマ化しようぜ。ちなみに表題の「ワールドウォーZ」とは民間人がゾンビ殲滅作戦に際し名付けた愛称であるとのこと。

架空のインタビューは中国、インドネシア、アメリカ、ロシア、イングランド、パレスチナ、日本・・・と様々な地域で多種多様な相手に対して行われます。特に印象深かったのは

・感染初期、臓器売買を行なっていて知らずに患者にゾンビウイルス感染者の臓器を移植してしまった闇医者

・感染初期、ゾンビウイルスに「効く」とのたまって偽薬を大量に売り捌き、戦後にアメリカ中に恨みを買って南極に隠遁する羽目になったビジネスマン

・グレートパニック（作中用語で世界中の人々がゾンビに逃げ惑っていた時期を指す）時にアメリカ郊外で家族とはぐれて野生児となり、4歳の知能を持ったまま大人になった状態で戦後発見された女性

・ゾンビに生き餌となる人を追わせて他の残るべき人を安全圏まで退避させる非人道的な人類生存プランを作成、南ア政府に実行させた（結果的に功を奏した）学者

・冬季はゾンビの動きが遅くなることから大多数の市民が北部に逃げた結果、越冬できるほどの準備が不足していたため食料、医薬品不足に陥り崩壊したキャラバンの生き残り

・ウィンザー城に英国女王と共に逃げ込み生存したおそらく上流階級のイギリス人

他にもゾンビとの戦いにおける軍人や司令官、大統領、脱走兵、映画監督などよくもまあこれだけの設定を思いついたなと感嘆する量のインタビューがあるのだけど、一番興味深かったのが韓国の国境警備隊へのインタビューで

ある日を境に北朝鮮側の兵士が減っていき、そのうち誰も国境に立たなくなった。韓国で起こったアウトブレイクは既に終息しているが、北朝鮮の様子がさっぱり把握できない。北朝鮮が核を抱えている懸念からうかつに越境して調査もできない。北朝鮮の国民は山中に逃げ込んでいるのか、それともその全員がゾンビ化して山に張り巡らされたトンネル内に潜んでいるのか、想像することしかできない。

うーん今でも同じことが起きてそう！

ある意味思考実験みたいな本書ですが、今現在蔓延している新型コロナウイルスに照らし合わせてみるととてもリアルに写ってこわこわですね。

ちなみに日本人を対象にしたインタビューもありますがこれはかなり頑張ってるタイプのリアルさなので優しい目で見てあげてください。自分は無理でした。