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夏の短怪談④

心理的なんたらの説明ってありますでしょ。アレ、不動産なら物件だけじゃなくて土地にも適用されるんですわ。まあ大抵は買った後になんや土壌汚染だとか土地がワヤやった言うて土地が使えんくてトラブルなる、なんて事を避ける為にするもんらしいんですけどもね。

アンタが今買おうとしてはるこの山間の土地も、まあ見ての通りの廃村です。ただ売るには全部取り壊すにしても一通りご説明差し上げないといかんてなんや税理士さんが口すっぱく言うんでお話しします。

今私らが立ってますこの村の中心を通る道の突き当たりには昔、小さなお寺さんがあったんです。仏さんも鐘も立派なもんがあったそうなんですが、戦争で供出しましてね、がらんどうになってしまったんです。それでも村の人が拝みに来はるから言うて住職さん残って下すったんですがね、戦争が終わってすぐに住職さんも亡くなりはって。ボロボロんなって子供が怪我したら危ないってんで取り壊したんで空き地なってもう4、50年経ちますわあね、まぁ祟りとか仏罰なんか気にする方がアホですわ。


寺に向かって右にある大きな屋敷の跡が村長の家です。オサ言うたかてずっと同じ家の男が押し付けられて継いでたんですがね、何を勘違いしたんか復員した一人息子がね、景気も良くなった頃に街でひとヤマ当てて成り上がるなんて言い出しよって。ほんでまぁダメやったんで戻ってきましてね、ずーっと家に籠りっきりになってもうて。今やったら引き篭もりやなんて言われてたんでしょうけどもね、あん人らもかわいそうに、ある晩に両親殺して屋敷に火ぃ着けて死なはったんです。それ以来あの屋敷はそのまんまほったらかしですわ。出来すぎた話ですけど、なんか出るとしたらここの家でしょうなハハ

それからここ、目の前の畑の奥の家がクスミさんとこでな。なんちゃない、素行の悪い旦那が酔い潰れた所を嫁さんが寝首掻きましてね、結局失敗したんで以来笑い話ですわ。


川向こうのマキノさんとこは平成が始まってすぐに大きな借金背負いましてね、家族共々夜逃げしてそれっきりです。


ここのヨシミさんとこはねえ、娘さんが川で流されてから夫婦でおかしな宗教にハマってしまいまして、寺のあった空き地で儀式やあ言うて他所モン連れ込んで騒ぐもんやから村に居られんようになったんです。


こっちのマキノさんは末の息子がワタシの同級生でしてな、家も近いでヤッちゃんタケちゃん呼び合って仲良うやってたんですが息子娘が手ェ離れた途端に夫婦共々ぽっくり逝ってもうて。急やったで葬式はワタシが挙げたんですわ。


あとは空き家がちょこちょこありますが、まぁ大抵は若い世代がこんなとこ住めるか言うて出て行ってそのままですな。


村の入り口に近いこの家がワタシんとこです。もう生まれてこのかたずっとこの土地に腰据えてたんですが去年家内が倒れましてな、医者呼ぶにもこんな場所じゃもう、ろくに治療も進まんので心配や言うことで東京の息子夫婦の家の近くに住む事になったんですわ。


まあ寂しいですわ、ワタシがまだ小さかった頃の賑やかだった村を思い出しますとねえ、そりゃおかしなことは色々ありましたが都会なんかよりずっと刺激的な生活やったと思いますよ。

やっぱりねぇ、人がいる事で何か起きるもんやから、人のいない土地にはね、祟りも呪いもありませんわ。


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