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夏の短怪談⑤【呼び込み】

窓の隅に手の跡がひとつ、あった。


…と言えば怖い話でありがちな出だしだが我が家に出てきた手形は様子が違っていた。


小さいのである。


常識的な小ささではない。例えば子どもの手の大きさ、さらには赤ん坊の大きさであればまだ曰く付きで恐ろしくもあるだろうが、それよりもさらに小さいのである。


測ってみた。横幅3.0cm、縦2.7cm。右手。


どのくらいの大きさの人間が付けたのか?この手の大きさでは身長も30cmほどであろう。そう考えると怖さよりも不思議さ、まあまあ愛らしさが勝る。ぬいぐるみ程度の大きさの人間であれば仮に襲われても体格に勝る我々ホモ・サピエンスの圧勝であろう。フハハハハ巨人族バンザイ


よく見ると手形は窓の内側に付けられていた。


うっかり私の部屋に迷い込んで出られなくなったであろうソイツの姿が浮かんだ。やはり怖さよりも愛らしさが勝つ。窓を閉めっぱなしにしてそのまま閉じ込めてやろうかとも思う。

だがそこまで意地悪ではない。その日はほんの少し窓を開けて寝ることにした。寝てる間にソイツが出ていってくれればヨシ。

私の寝顔を横目に名残惜しそうにこっそり開いた窓の隙間から出て行くソイツの姿を想像しているうちに眠りについた。

翌朝、小さな手形は残っていた。




だが私を驚き慄かせたのは窓一面に広がる幅2mはあるであろう巨大なひとつの手の跡…




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