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博士はなぜ鳥山明にボツを出したか?

没にされた下書き原稿を拝見しました。



鳥先生のインタビューで自宅まで出向いたとき「ああそこにある没原稿、好きなの持ってってちょ」と言われたので数枚おみやげにいただいた、のだそうです。

たぶんこのインタビュー後のことでしょうね。


彼の訃報後、当時の取材者だった方のツイッターに、これが上ったわけですが…


これねえ、私がマシリト博士でもきっと

…っていうと思う。


ちなみにもっと後になって、こういう風に改善されたものが掲載されました。


どこがどう変更されたのか、わかるかな?


没原稿のほうは

ギャグが無い



マシリト博士がOKを出したこれは、コマが五つあるうち四つにギャグが仕掛けてあります。

しかも

  1.  台詞での笑い(つまり文字をきちんと追わないといけない)

  2.  絵のみで笑かしにくる笑い

  3.  1と2の融合

の二段構えです。

①の笑いは「う~むなんでわしにはヨメがこんのだろう…ひょっとしてカオがまずいのでは…」等。


②はサングラスの豚さんが立っていたり…


欄外で作者さんがAHOなポーズを取っていたりするもの。耳にペンを挿しているのは、文字を読まなくてもああこれは作者さんなんだなと一目でわかるようにするための工夫です


③がすごい。ズドドド…と擬音があって、左のコマでそれがラジカセくんの擬態だとわかるというギャグ。


以上三つの笑いが、没原稿にはあるかな?

ないんですよね笑かしの仕掛けワンツースリーがどれも。

これつまり、このページのみだとギャグまんがと分からないのです。

マシリト博士はそこが遺憾であると判断し、

…を愛知県清洲町(当時)の鳥山家にお電話されたものと思われます。


ところでここのセンベイ博士の髪型をごらんください。

この少し前の回で、頭を丸刈りにされてしまう話がありました。その後のお話ですのでこういうショートヘアです。


没のほうではどうかな?

最初期の髪型です。ということは、没にされた後この話はしばらく鳥先生の頭のなかでお蔵になっていて…

後にお蔵だしして再挑戦して今度はOKをもらえたのがこれだったのだろうと推測できます。


この没原稿について「どうしてこれを没にしたんだマシリトは!?」という反応がかなりありましたが、没になるべくしてなった没原稿だと思います。ギャグまんがなのにギャグがないぞって。


鳥さまにすればその指摘は不満だったと思います。なぜならギャグの仕掛けが仕掛けてあるのだから。

仮面ライダーの三輪車が描きこまれていますね。おそらくこの次のページで、このメガネ婦警さんが博士を呼び止めて「駐車違反だから切符切るね」とインネンを付けてきて、博士が「わしのじゃないぞ」と抗うと「あんたの短足、この三輪車にぴったりあうじゃないの!」と決めつけて…

三ページ目で博士に拳銃を突き付けるという風に話が進んでいったのです。


ギャグまんがの基本はすべてのページに笑いの地雷を仕掛けることです。しかしこの進み方だと一ページ目に地雷がナッシングなので、ギャグまんがの基本をないがしろにしているではないか!と博士(センベイではなくマシリトのほう)は判断して

うーん私でもボツって宣告しちゃいますね。

OKの出たものと見比べると、マシリトがどんな判定法でボツを出しているのか、分かる気がします。

ペンギン村には喋るブタやら歩くウンチやら唇のあるラジカセくんやら、ときどき作者さんも乱入してくる、にぎやかな世界なのも、ギャグまんがだよ~んと視覚的にアピールするための技法でもあったといえそうです。


鳥さまが素顔を晒して登場されるのはこの回が最初…だと思います。ボツの辛さを楽天的に乗り越えつつ、ギャグまんがのフォーマットを捨て身で保っているのです。


怖いですマシリト。しかし、共感もしてしまいます。


それにしても鳥先生もえらいもんです。

没原稿をひとにくれてやった後…


頭の中にはしっかりそのアイディアが保存されていて、それを後日活かしてOKをもぎとったのだから。


あ、こっちか。

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