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ChatGPT に数学の教科書を書かせてみよう

私は前から大学生・院生向けの数学指南書を書き下ろしてみたいと思ってきました。

教科書や演習書ならすでにどっさりあって、そのうえ毎年新刊が出まくっていることから、今も昔もこれからも、大勢の学生たちが難儀しているのがうかがえます。そういうひとたちのために、学びのコツを伝授する本を書き残してあげたら、手堅いロングセラーになってくれるかな、と。

そういう本では『物理数学の直観的方法』というのが今のところ一番の優れものです。ただ著者さんが何か青春時代に劣等感か挫折感か抱えておいでで、その裏返しでしょうか、妙に上から目線の語り口なのがよくありません。カリスマ私塾のカリスマ塾長である、みたいな。

それから物理畑の方がお書きになったものなので、数学を本当にはきっちり習っていらっしゃらないか、習っていても数学史の素養に偏りがあるせいなのか、たとえばコンパクト性の説明や、位相空間の話になると、間違ってはいないのだけどそこまであっさり済ませてしまったら数学徒は後々かえって苦しむことになりはしませんかと思ってしまうような説明をされるのです。

読んでいて「ここは自分ならこう教えるのに」と思ってしまう箇所も少なからずあります。$${e^{ix}}$$ を船の軌跡になぞらえて説明するところとか、複素積分について画鋲の比喩で語るところとか。いずれもとても才気を感じさせるけれど、読む側に間違ったイメージを喚起してしまうのです。正しいイメージといっしょに、そうでないイメージをも喚起するため、読んでいて嫌になってしまう方も少なくないだろうなと、そんな風に感じます。

それで、もし私が数学、それも物理数学限定ではなく、線形代数や微積や確率統計、つまり大学数学の三本柱の入口から学びのコツを語るとしたら、どうやるだろうと頭の体操がてら前からひとりでよく考えていました。

コツはいろいろありますが、ひとつは数学史について大雑把でも知っておくことです。

〇〇性とか△△性とか、やたら「◇◇性」がでてくることに、次第に嫌気がさして、かつて受験数学で英才ぶりを誇った子たちが「おれって才能なかったんや」とうなだれていくのが昔からのパターンだったりします。ああいう「◇◇性」って、たかだかこの百年で体系化されたものだって少しでも知っていれば、この挫折パターンは迂回できるのに、です。

ブルバキの話は前にした気がするので、ここでは省きます。現代の大学数学のカリキュラムは、フランスの数学者集団ブルバキが作り上げた極めて合理的かつ抽象的な数学体系に沿ったものです。これはまさに〇〇性とか△△性とかの、これ以上抽象化できないというところまで抽象化された概念を骨組みにして、数学をカタログ化したものです。初学者の便宜なんて知ったことかという作りです。そういうものが大学に進むとむき出しの姿で学徒たちの前に立ちはだかるので、どなたも恐れおののき、その大半が「そっかあたし才能ないんや」と自己責任論の罠に陥って、単位さえ取れればええねんと割り切っていくのがパターンになって久しいのです。

この罠にはまらないように学徒たちを導くにはどうしたらいいのでしょう。

それはやはり、数学史について早めに大雑把にでも学んでもらうことです。数学の教科書や演習書をいろいろ目を通してきましたが、ああいう本の著者さんたちはその方面についてはあまり詳しくないのか、興味がないのか、私が読むと「その説明だと学生さん目を回しますよ」「そこでいきなり無限小の話を繰り出したりしたら、後で生徒さんを大混乱に陥らせてしまいます」と呟かざるを得ないような語りをしていてついつい苦言を呟きたくなってしまいます。

たとえば「連続性」について。大学に進むと、数学の講義で微積を一から学びなおすわけです。そしてこの「連続性」についても定義からきっちり習うのですが…

誰がこういうタームを言い出したのか、わかるかな?

それに、どうしてこんなタームを捻りださないといけなかったのか。

ざっと説明すると、微積ってもともと物理学者たちのほうがよく使っていたのですよ。とりわけ力学系の学者さん。答えがでればそれでいいと割り切って使い倒していました。ガンダムのアニメでいつもでてくる「ラグランジュ・ポイントにスペースコロニーのサイドなんとかが~」という台詞にでてくる「ラグランジュ・ポイント」つまり複数の天体からの引力が重なって盆地みたいな重力穴になっている場所があって、それを最初に算出したのが、ラグランジュという学者さんでした。マリー・アントワネットの数学家庭教師も務め、ゲーテからもその人柄を称えられたといいます。ということは18世紀末に活躍した方だとイメージはわくと思います。

彼は微積を縦横無尽に使い倒して、宇宙旅行なんて夢想もいいところの時代に、ガンダムの物語世界を用意してくださったという、日本のアニメ界にも多大な貢献をしてくださいました。ジョークです。彼の著作や論文を現代の目で見ると、ひじょうに大雑把な微積してます。答えはあっているんですけど、たとえば「$${\dfrac{dx}{dy}}$$」について、分数と同じものと割り切って使っています。結論をいえばそれで式はちゃんと成り立つのですが、無限小を無限小で「割る」とはそもそもどういうことなのか、厳密な検証をしないまま「これで答えでるしええやん」と才気にまかせてガンダム街道をまっしぐらに突き進んでいったのでしたラグランジュ教授。

数学者たちはそれに半ば呆れながら、後付けでこのあたりの検証と定義を成し遂げました。その際に「連続性」という概念が提唱され、その厳密な定義がなされたのでした。

誰がこの「連続性」というタームを言い出したのか、気になったので chatGPT 先生にうかがってみました。

ベルヌーイとオイラー? それはちょっとばかり時代が早すぎはしませんか? そう思って尋ねなおしてみたところ、


偉いです chatGPT 先生はおのれの過ちを自ら正すのだから。(ちなみに私はいつも何か理屈をこねてどこまでも自分を正当化する、いい性格の持ち主です)

1821年の著作…そうそう何か出してましたねコーヒー…ではなくてコーシー。

さらに尋ねてみました。「コーシーの業績について教えてください」


教育に貢献? ガロアの論文を紛失したという大失態もやらかしていますが。

せっかくなのでガロアの研究がその後どういういきさつで再発見されて、現代の群論に発展していったのかを訊いてみました。


彼の論文はコーシーのせいで紛失したのに、どうして後世の数学者たちの目に触れることになったのか。


「リーディングとは何者?」


「イギリス人の数学者が、どうしてフランスのガロアの論文を手にする機会に恵まれたのか?」

これは私も知らないです。後で調べてみよう。

「連続性」の話に戻ります。「コーシーが1821年に刊行した書物でこの概念が提唱されたとして、それはどういう本ですか」



「数学書なのに力学も論じていた?」


ラグランジュの「細かいこたあいいんだよ」をコーシーが補足していったことになりますね。

ちなみに彼はコーシーの将来にとても期待をかけていたそうです。実際、後に「フランスのガウス」とまで呼ばれました。



ところでこの後さらに chatGPT 先生とはやり取りしたのですが、私の訊き方がおかしいのか、だんだんアサッテな回答をし出しましたこのAI。

ちなみにコーシーのこの著作についてはウィキペディアに解説があります。『解析教程』のことですね。2011年に邦訳版が出ています。それ以前にはどうやら邦訳されていないようですね。訳者のひとりによる解説がここで読めます

原著の表紙

そうそうコーシーの解析学にはなおも穴があったので、さらに後にドイツのワイエルシュトラスがその穴を埋めていきました。名高い「イプシロン・デルタ論法」のあのワイエルシュトラス先生です。ワイエルシュトラウスではありませんワイエルシュトラスです。

うーむ chatGPT と Wikipedia を組み合わせると、著述の下調べがはかどりますね。ここで紹介した情報の大半は使わずに終わりそうですが、いつかいい数学学習コツ本を書き下ろしてみたいなと思わずにいられない気がしてきています。


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