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坂本龍一作曲「ラストエンペラー」を完全分析!(その12)

その11からの続きです。今回は Love theme の分析。

♪ ミレミラ~、レドレソ~、ミレミラ~、シドシミ~
ミレミラ~、レドレソ~、ファ♯ミファシ~、ド♯シド♯ファ♯~ ♪

冒頭のフレーズ「♪ ミレミラ~」から見ていきましょう。これは主旋律の背骨であった「♪ ラ ↗ ミ」(5度音程)を上下反転させて「♪ ミ ↗ ラ」(4度音程)にして、そこに「」を加えて

♪ ミ ↘ レ ↗ ミ ↗ ラ~


4度音程上昇(4度だからどこか内省的)と5度音程上昇(5度は強い意思を感じさせる)をミックスしたものです。

ただ5度音程上昇といっても「レ ↗ ミ ↗ ラ~」つまり「レ ↗ ラ」(5度上昇)に「」が挿まった形になっているぶん、どこか抑制された意思表示です。そもそもその前に「ミ ↘ レ 」と下に垂れ下がっているので、上昇力が少々パワー不足でもあります。

この後に

♪ レ ↘ ド ↗ レ ↗ ソ~

これもやはり、どこか内省的で、かつ上昇力に少々欠ける旋律フレーズです。

♪ ミ ↘ レ ↗ ミ ↗ ラ~

が再度現われ、そして

♪ シ ↗ ド ↘ シ ↘ ミ~


主旋律での絶叫「♪ シ ↗ ド ↘ シ ↘ ミ」がここで再登場しています。この「」は男らしさの象徴的な音ですが、ここでの「ド」は「ド」ではなく、

トランスポーズ!


♪ ミ ↗ ファ ↘ ミ ↘ ラ~

ファ」の音です。「ド」ではなく。駆け上がったものの男になれない溥儀は、「」の引力によって滑り落ちていきます。「ミ ↘ ラ~」。

もとのドレミに戻します。続く旋律は、先のものと同じ

♪ ミレミラ~、レドレソ~

しかし続く

ファ♯ミファシ~、ド♯シド♯ファ♯~ ♪


これは2度上に転調していますね。トランスポーズ・ボタンを押して「♯」のないドレミ表記にすると

ミレミラ~、シラシミ~ ♪


後半の「シラシミ~ ♪」はおそらく先の「シドシミ~ ♪」の変奏です。上下をひっくり返したような変奏。較べてみてください。

シ ↗ ド ↘ シ ↘ ミ~
シ ↘ ラ ↗ シ ↗ ミ~

下のフレーズのほうが、同じ「ミ」でも1オクターヴ高い「ミ」に上昇していくぶん、強い意思を感じます。

ここまでの旋律フレーズが、再度奏でられます。オーケストラがフルパワーって感じでリフレイン。


この旋律は映画のなかでは確か3回奏でられています。[後記:本当は5回でした] 1回目は、乳母が紫禁城から強制退去させられ、少年・溥儀が絶叫しながらそれを追いかけるところ。

2回目は、皇后が帝宮から追放されるところ。


3回目は、皇后がアヘン中毒でぼろぼろになりながらも、帝宮に戻ってくるところ。結局また溥儀は彼女と別離するのですが。


余談ですが3回目でのこの旋律の付け方がなんだか変です。2回目用に録音したものを使いまわしているのだと思います。坂本の先輩にあたる日本の著名作曲家が「彼にしては音の付け方が緩い」とこの映画を評していましたが、おそらくこの場面のことです。想像するに監督が音響編集の段階で、皇后との再別離を強調するために曲が欲しいと考えて、2回目のものを使いまわしたのでしょう。

その13に続く!


[追記] 紫禁城より溥儀&その家族 with 家臣たちが追放されるシーンでも  Love theme が流れています。紫禁城という「母」との離別。

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