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坂本龍一作曲「ラストエンペラー」を完全分析!(その15)

その14からの続きです。曲の締めくくりを分析していきましょう。


♪ ラドドラドレミソレーミソラソドシラソミレレミソドラー、ドーラー、レーソ~~~~~ ♪

五音音階(pentatonic scale)をベースにしているのは今更の話なのでここではしません。注目すべき点はむしろ「ド ↗ レ ↗ ミ」の音です。これまでこの曲で「ドレミ」上昇ってあったのかな? たぶんないと思います。それも「ド ↗ レ ↗ ミ ↗ ソ」と歌い上げる。

これは長調和音(major chord)それも「ド」を基音にした長調和音です。マッチョというか、パワーに満ちた和音です。かよわい溥儀のテーマ曲に、どうして終わりになってこれが鳴り響くのか、わかりますか。

偉大なる清王朝の、圧倒的なパワーを謳っているのですよ!



続くフレーズでも「ラ・ド・レ・ミ・ソ」の五音音階をなぞりつつ「ソ」を二回鳴らして印象付け

ソ ↘ レ ↗ ミ ↗ ソ

主旋律の分析の際には触れなかったのですが、溥儀のテーマにおける「」は、これ以上はいけない天井の象徴です。お城の屋根の上といってもいいかな。屋根までは溥儀は這い上がれるけれど、そこから空には飛びたてない。

この後のフレーズが

ラ ↘ ソ ↗ ド


この「ラ」は元の「ラ」より1オクターヴ上の「ラ」
です。いったん「ソ」に下がって、その反動で「ド」まで跳ね上がる。

しかし元の「ラ」に引き戻されていく。

ド ↘ シ ↘ ラ ↘ ソ ↘ ミ ↘ レレ ↗ ミ ↗ ソ ↘ ド ↘ ラ

よく見ると「」に腕を伸ばしてこれ以上滑り落ちないよう抗っています。「レレ」は抗いですね溥儀の。いったん「」に這い上って「」まで階段(pentatonic scale)を上がるけれど「ド」に突き落とされて「ラ」に引き戻されるの。

「ド・レ・ミ・ソ」に象徴される旧・大王朝のパワーと、ひ弱な皇帝の対比というところでしょうか。



この曲を締めくくる、終わりの終わり部分を聴きかえしてみましょう。


♪ ラ~ド、ラ~レ、ソ~~~~~


このフレーズについては音程関係を見れば理解できます。「ラ・ド」は短調音程(minor 3rd

「ラ・レ」は四度音程(4th degree interval)。

「ソ・レ」は五度音程(5th)。

この曲の和音についてここまで触れないできました。それらの分析はこの後じっくり進めていく予定なので触れないできました。その予告編も兼ねて面白いことを教えてあげます、この曲では「ソ・シ・レ」の和音は徹底して避けられています。この和音はドミナント和音といって、これが鳴ると「ド・ミ・ソ」の和音に進むことが通例になっています。すなわちかなり男っぽいのです。女々しい溥儀くんにはあまり似合わないということで、作曲者は使うのを控えたのだと思います。

面白いのは、曲の最後の最後になって、この和音(のルートとトップの音)を鳴らしていることです。皇帝の威厳を見せつけるためでしょうか。

もっと面白いのは、この和音のうち「シ」は鳴らないことです。試しに「ソ・シ・レ」で弾いてみてください。

この後さらに曲が続いていく感じがします。ドミナント和音の宿命ですね。そこで「シ」を抜いて、

あら不思議、力強いけれど、ここからさらに進んでいくニュアンスは消えてています。(どうしてこうなるのか、知りたい方は検索して音楽理論の基礎解説にあたってみてください) 短三度つまり短調音程 → 四度音程(内省的!)→ ドミナント五度音程(「シ」はヌキ)と変化して、それなりに力強く閉幕です。人生の最後の最後までとうとう雄々しくは生きられなかった廃帝・溥儀ではあるけれど、一万年王朝の君主、天子の誇りを胸に昇天なされた…そんなイメージ。


本曲の旋律分析は以上です。ああ疲れた。

続く!







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