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アムロくん、講義中にサッカーボールを動かさないでくれる?

わけのわからない話を理解しようとするとき、ひとは自分のよく知っていることがらになぞらえて理解に努めるものです。

どこぞの霊長類研究所のチンパンジーさんが、空をゆく飛行機を目にして、「みてみて、大きなハエ!」と(手話で)ことばにしたなんて話があります。

私が夏目教授の院生ゼミに招かれて、いろいろ語った後、質疑応答がどうもかみ合わないままだったのも、これとどこか通じる気がしています。

喩(たと)えるならば、私は宇宙船の話をしたのに…

彼らはこれを、グライダーの理屈で分かろうとしたのだなって、今は思います。

こういう頭の悪いことをされては、講義するほうにすればたまったものではありません。

こんな話をしましょう。昔の「機動戦士ガンダム」で、地球に大きな小惑星が落ちてくる話がありました。

それをガンダムが「μ(ミュー)ガンダムは伊達じゃない!」と押しとめにかかる。

やがて敵、味方かんけいなしに、全員が全力でこの小惑星を押し返しにかかる。

おかげで地球は救われる…そういうラストでした。

これ、多少でも力学を知っているひとなら、ガンダムとその仲間たちがどれほどまぬけなことをしていたのか、わかると思います。こんなことをしたら、この小惑星はさらに地球に向かって落下してしまうのですよ!

「アムロ、聞こえて? その小惑星は、後ろから押しなさい。そうすれば地球を回る楕円軌道を、だんだんもっと大きくできて、やがて地球から離れていく軌道に変わるから」

「どうしてかって? 『ケプラーの第三法則』で検索してごらんなさいな。そう、いい子ね。そうすれば小惑星は、地球から離れていくわ」

「いいアムロ? 岩石を押し上げるのとは違うの。それは地上での話。小惑星は、地球のまわりを回っているのだから、こういうイメージでその小惑星に抗ったりしたら、よけい地球に向かってくるにきまっているの」

宇宙における物体の移動は、地上とは違うものです。大気中とも異なります。「スター・ウォーズ」みたいなのは、映画のなかのおとぎ話。ああいう機動は科学的にはありえないのです。

話を戻します。夏目教授とその仲間たちは、骨の髄までひこーき野郎たちでした。ですので私がこれの話をすると、

「ああ飛んでいる!」と言いだすのです。いいですかこれは厳密には「飛んでいる」のではありません「回っている」のです。

地球のまわりだったり、太陽のまわりだったり、もっと小さな惑星のまわりだったり、とにかく「回る」のです。

これは宇宙ののりものについての、基本中の基本なのですが、あのひとたちはこれを飛行機やグライダーの体感で理解しようとしたのです。

それは「飛ぶ」だってば!


もう少し具体的に当時のことを語ります。私はキャラクターをめぐる法理論について語ったのですが、彼等はそれを著作権法の話だと思い込んだのです。「そうじゃない、著作権法の『外』の話ですっ!」とどんなに私が力説しても、彼等はいつのまにかまた著作権法の理解で私の話を分かろうとするのです。

彼らにとってはなじみ深い、狭いせまいエリアがあって、一方私の語る内容は、そのエリア「外」に広がる、ゼログラヴィティでゼロプレッシャーな宇宙空間でした。彼らはそれについていけなくて、私の言葉尻を捕えては、自分たちのなじみ深いエリアにどんどん私の発言を運んでいってしまうのです。

サッカーの試合中に、ボールをいきなり手で掴んで持っていかれたり、ゴールポストを動かされたりしたら、どんな選手だって「バカにするな!」と怒るでしょう。

夏目教授とその学生さんたちは、そういう行為を私に仕掛け続けたのです。いくらそれをたしなめても、どうしていけないのか彼等にはとうとうわからなかったのでした。

講義がお開きになったのは夕6時。その後、学生さんたちといっしょに会食に行こうと言われました。彼はいつもそうです、何か済んだら皆で居酒屋か食堂に繰り出してワイワイするのが大好き。しかし私はというと、そういうのは苦手です。それで「今日はこれから取材仕事があるので」とお誘いを辞退しました。「へっ!?」と驚かれてしまいました。そういうのを内心嫌がる人間がこの世には存在するなんて、彼にはそもそも想像すらできないようでした。

同席しないことは、講義前からもう決めていたことです。質疑応答があまり愉快ではなかったことへの腹いせではありません。ありませんが、そういう気持ちがなくはなかったと、今は言い残しておきます。

まだまだ言いたいことがもっとあったりするので、お楽しみに。

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