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坂本龍一の遺作を分析しよう

[Abstract: The author's forthcoming analysis article, to be featured soon in a Japanese web magazine, delves into the school anthem of a technical college established last year in Japan, widely regarded as Ryuichi's swan song. The aim is to make the topic accessible to readers unfamiliar with music theory. Simultaneously, a more theoretical piece on the same subject, aimed at those with some musical knowledge, is available on the author's blog. Feedback from Japan acknowledges both the song's beauty and its challenges for singing and memorization. The author speculates that Ryuichi's declining vocal ability may have influenced the song's challenging nature. Notably, the composition technique involves the coexistence of two keys: vocals in C major and accompaniment in A major, creating a harmonious interplay between them. Despite its complexity, the song maintains coherence, thanks to Ryuichi's distinctive approach, which this article explores in detail. Enjoy reading!]


歌いにくいと評判の校歌。

イメージソングとかシンボルテーマソングとか、適当にそれっぽい肩書きを付けて広報すればよかったと思う。


オハイオの私の姫様に聴いていただいたところ「途中からいきなり英語になってびっくり。Highly advanced Engrish!」と言われてしまいました。

英語母語者にはどうやら珍曲に聞こえているようです。

私はというと、ああもう指先だけで歌を作ってるなプロフェッサーって思いました。

呼吸マスクを付けながらでは、シンセ鍵盤を弾くことはできても、とても歌えなかったのがうかがえます。

歌いにくい、すなわち覚えにくい旋律です。


そのあたりの分析は、近日中に某ウェブ論壇誌のほうで語るので、そちらに当たっていただくとして…

譜面を見ると、なかなか興味深いです。


ちゃちゃっと見ていきましょうか。イントロの四小節目、コードネームがおかしいです。動画作成者のエラーですね、正しくは Dm/C です。


このイントロですでにマジックが始まっています。この校歌は、① 旋律(歌)はC長調で、② 伴奏はF長調 でできています。そしてイントロですでに②と➀が交互に顔見せしているのです。

(これの詳細な分析と解説は後日やります)


赤でマークしたところ、♮(ナチュラル)入ってますね。C長調です。


そこにさらに「F」の音(水色でマーク)が伴奏で重なります。


赤が「B」で水色が「F」… おお、増四度音程ではないですか

ここ、和声的にはぐっとくるのですが、旋律じたいにはそんなにパワーがないのですよ。試しにここの箇所を声に出して歌ってみてください。

♪ るりいろわと~てもきれいな


歌いにくい!「いろ(色)」が小節と小節の境目でで断ち切られてしまっていて、うまく拍子を合わせにくいのです。


ここの和声進行、正しく解釈できるひとは、あまりいない気がします。(「準強進行」とか教科書的な解釈をした方は天のプロフェッサーに思いっきりコケにされるであろうと思われます)


いいですかこの二つの和声、F長調(譜面では表向きそう記されています)では鳴らないはずの和声です。

C長調つまり歌(旋律)のほうの調性準拠での和声です、この二つ。

面白いですね、旋律(歌)が和声(伴奏)のパートにいっとき領空侵犯しているのだから。


もう少し先まで見てみましょうか。

三つ目の和声「Dm11」(五音音階和音と呼んだ方がいいかな)は、C長調解釈でも、F長調解釈でも成り立つ和音です。


続く四つ目の和音「B♭△9」は、F長調の和音。そうです和声進行がいっとき歌唱(旋律パート)に引きずられるも、やがてもとのF長調に戻ってくるという進行なのです。


一つ目の和声「Eⅿ7」はC長調で、四つ目の「B♭△9」はF長調で、この二つをつなぐ「C/E → Dm11」の進行は、C長調ともF長調とも取れるような進行です。

いったいどこでキー・チェンジしたのかわからない、いつのまにかキー・チェンジしている、そういう和声進行です。


いかにも龍一教授の指先が奏でそうな和声進行です。


しかし一方で、この複調同時共存メソッドに足を取られて、歌の旋律が弱い。和声が先にありきのメロディラインなぶん、歌いにくい。

プロ歌手なら余裕で歌いきるでしょうが、校歌として合唱するには、あまり好ましい旋律とは言い難いのです。


ほかにも感心したところと、不満なところが入り混じった校歌です。機会があれば分析の続きをしてみたいです。

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