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コロナ太りかと思ってたら、癌だった話。⑤

ガン告知は突然に。

ソワソワしながら迎えた結果発表の日。

日本アカデミー賞でもレコード大賞でもありませぬ。ただの一般人の検査結果が出るだけです。

姉まで呼び付けて大ごとになっちゃったけど、そう言う時に限って大した事無かったりするんだ、うんそうだそうだ。

恒例の長時間待ちを経て姉と共に診察室へ入ると、早速画面の確認。
背後では姉が一昔前の事件記者のようにメモとペンを構えている。
またしても怒涛の写真解説が始まり、その一環で先生が言った。


「癌ですね。ステージはIIIC」


今、話の流れで軽く言ったよね?
よくある深刻な空気は微塵も無く、もう次の解説に移っている。
貯める事も前触れ的な事も無くさらりと言われてしまったため、反射的に「あら、そうなんだー」とこちらも軽く返してしまった。

実際ある程度予想もしていたし、頭の中が真っ白!何も考えられない!ワタシいつまで生きられるの?!にはならなかった。
駄洒落では無いが、ガーーン!!て感覚も無かった。

先生によると腹膜播種を起こしており腹腔内に癌細胞が散らばっているのでIII、腫瘍がかなり大きいのでCに分類されるとな。
「あ、これも癌。これも。転移もあるんですよー」
と、これもさらりと言われる。
流石に[転移]と言う言葉くらいは知っている。
これもしかして、結構大ごとなんじゃない?

背後にいた姉はいつの間にか立ち上がり、神妙な様子で画面を覗き込んでいた。
後で聞いた話だが、PET-CTでピッカピカに輝いて映し出されていた特大の癌細胞に、内心かなり驚いたらしい。
自分は自分で、癌と言う病気に対して全くの無知であった為、転移はともかく、ステージって何だろう?と間抜けな事を考えていた。

今後の治療に関する説明をされた後、「どうします?セカンドオピニオン。します?」と聞かれた。
「大きい病気だと、する人結構いるんです。我々に悪いんじゃ無いかと遠慮してモヤモヤしたまま治療するのなら、こちらは全然構わないので。昨今は当たり前になって来たし」
いきなりの展開だ。
今決めなきゃならないのか?
頭の中が高速回転している。
「今決めないと駄目すか」
「別に大丈夫だけど。ただ増えてるから1ヶ月くらい待つみたい」

セカオピもありと言えばありだが、それで治療に入るのが先延ばしになるのならその待ち時間が惜しい。
早いとこ始めて早いとこ終えて、現場に戻りたい。
告知のショックより仕事どうしようが先に来るあたり、社畜だなあと心の中で苦笑した。
「とっとと治療始めたいんで、やりません。[先生を信じる自分]を信じますので」と返していた。

先生は一瞬驚いた顔をした後「信頼して頂いたからには、こちらも全力でやります」とこれまでの軽口から一転、真面目な口調で言った。
なんだ、そんな喋り方も出来るんじゃないか。

酒と煙草と癌とオレ。

その後は治療の流れと諸々の説明があり、仕事の都合がついてから治療開始日を決める段階になると、ずっと無言だった姉が口を開いた。

「あのー、やっぱり酒と煙草は止めた方が良いんですよね?」

実は酒飲みであり喫煙者でもある私。
いよいよ止める時が来たか…と観念していたんだが、回答は
「別に良いですよ」
予想外の返しに2人でぽかんとしてしまった。
ここで先生の持論展開モードがオン。

「癌と言う病気はですね、ストレスが1番良くないんですよ。で、酒と煙草ですがそれ止めて抗癌剤の効果が上がったと言うデータは無いんです。それよりも止めようとしてストレス溜める方がこの病気には良くない。あ、でも自主的に止めようと思うのなら止めても良いですよ。無理して止めるのならやらなくて良いってだけです。意外と食事療法だの健康的な生活送ろうと張り切って実行して来た患者さんより、マイペースでのほほんと生活してる患者さんの方が良い結果出ますね、僕の経験だと。健康的な食事と生活してるからって、癌に罹らない訳でも無いんです。その逆も。罹る時は誰でも罹るのが癌。そして悲観してる患者さんよりも、やっつけてやるって心持ちの患者さんの方が生存率高いです」
これでもかなり語彙を絞った。

手術で病巣を除去し抗癌剤でアフターケア的な流れが癌治療の一般的なプロセスだが、自分の場合は腫瘍がかなり大きいのと腹腔内への転移があるので、先に短期入院で抗癌剤を何サイクルかやり、小さくしてから手術する事になった。
小さい癌細胞は、上手くいけば抗癌剤で叩けるから。

そして先生がやたら拘ってたのが、「お腹を開けるのは1度だけ」。
開腹手術は開ける回数に比例して免疫力や体力が落ちていくんだそうだ。
良性だと内視鏡で済むようだが、悪性だと選択の余地無く開腹手術になる。
内視鏡で駄目なところをサクッと取って、すぐ職場復帰しようと考えていた目論見がここで崩れてしまった。

これだけ言うからには、一発で勝負を決める為に先に抗癌剤やるんだな、そうなんだな。
ここでも「手術は1回しかやりませんから」と話の端々でちょいちょい入れてくる。
わかりましたって。
1度で取り切ってやると言う自信の現れでもあるんだろうな。
のんびりした雰囲気に反して、かなり強気な先生だとこのやり取りで初めて感じた。
よっしゃ、先生のそれに乗ってやろうじゃないか。


とは言え、何だかエラい事になって来ちゃったなぁと思いつつ、そこで物凄く大きな問題に気付く。
短期とは言え、入院してる間にゃんこ達どうしよう…?
ペットホテルに預けるか。
いやでも預けてる間に何かあった場合、すぐ連絡が取れるようにして置かなければならない。
入院してたらすっ飛んでいく訳にもいかないぞ。

結局その期間だけ姉が自宅へ泊まり込んでくれる事になり、悩みの一つはあっさり解決。
持つべきものはフットワークの軽い家族。

これで気鬱の元は仕事のみに絞られた。

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