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コロナ太りかと思ってたら、癌だった話。③

大学病院デビュー

世情に疎い自分でも、名をよく知る病院である。
自宅近くにあるとは思ってもみなかった。

自分が持つ大学病院のイメージは、白い巨塔と医龍である。
田宮二郎や唐沢寿明や坂口憲二が眉間に皺寄せて院内を練り歩いてるイメージなのだ。
こんなとこ通うのは一般的な病院では手に負えない難病や、治療が困難な人に限られてるのでは無いかと思うんだが、違うのか。
来てしまって良いのか本当に、本気で悩む。
繰り返すが、それが自分の持つ大学病院に対するイメージなのだ。大袈裟かも知れないけど。
緊張しつつ、待合室で名前を呼ばれるのを待つ。


待つ。


……待つ。


おぉい!待たせ過ぎじゃないかい?
そりゃ大学病院だし、待たされるのは覚悟の上で来たよ?
だとしても、予約したのに3時間待ちかい。
隣の産科にはテレビがあるけど、婦人科はテレビどころか雑誌も本も置いてないぞ。
感染症対策なのか?そうなのか?
待ち時間を持て余し過ぎ、慣れない病院なので動くに動けず座り疲れて退屈して来た頃にやっと名前を呼ばれた。

診察室に入ると、まさかの若い男の先生。
うわっ、マジか。
出来ればカスカスのおじいちゃんとかが良かったのに。
嗚呼でもおじいちゃんだとそれはそれで心配だし(失礼)、女性の先生は嫌な思いと痛い思いしかした事無いし(偏見)、これで若い男性の先生も嫌だとなれば誰に診て貰うんだって話か。

マスクをしてるので目元しかわからないが、眼鏡の奥の目は財前五郎でも朝田龍太郎でも無く、心無しかのんびりのほほんとした感じ。

この一瞬の間に物凄く色々な事が頭の中をぐるぐるしていたが、当然ながら先生はそんなの気にせず「こんにちはー、婦人科の■■です」と軽ーく挨拶をされる。
「ど、どうもよろしくお願いしま……」
「早速ですがCT見ましたけど、これ、ここ!見てください」
と、こちらの挨拶にカットイン。
そこから一気に!捲し立てるように!怒涛の画像解説が始まった。


輪切りにされた自分の身体の写真が、先生が何か言う度に物凄い勢いで切り替わっていく。
そして話量と言えば良いのか、どう表現すれば良いのかわからないんだが、口から流れ出る情報量が半端無い。
「はい?はい?」と相槌を打つのが精一杯。
のんびりのほほんに不意を突かれ、メモを取り出すのも忘れてしまった。

要約すると、[骨盤の中が腫瘍で埋め尽くされている・腹水が溜まっている]って事らしい。
目の前に出された、先生が「これね!」と言った画像は、これまでの自分の状態を振り返ると、大いに納得するものだった。

腫瘍に押されて脇に追いやられた腸、子宮を取り囲むように詰まってる腫瘍。卵巣なんて、最早どこのどれだかもわからない。

嗚呼だから、食べようとしても入っていかなかったのか。先が通行止め寸前なんだもんね。
食べられたとしてもこんなに腸がへしゃげていたら、そりゃ細い便しか出ないわな。
食後に食べたものが移動していく感覚が無かったのも、お腹の中が先客で満員だったからなんだな。
通勤ラッシュ時の電車みたいだ。
もっと細かく言えば、人身事故や信号機故障で遅延した通勤ラッシュ時間帯の小田急線、みたいな。


一般的に、卵巣に腫瘍が認められた時、悪性であるかどうかは手術時に取り出した腫瘍を検査してからでないと判断が難しいそうで、手術前に癌であると判断されるのはCTなどの画像でも明らかに分かる場合=進行癌になってしまってる場合なんだとか。

腹水は腹膜内で炎症が起きてると溜まるものらしく、先生は1番気にしていた。
後日わかった事だが、この時点で診断をほぼ確定させていたのだろう。

こちらにしてみればフクスイ?何だそれ?だったので、ピンと来ないまま、日帰り入院での腹水穿刺検査、MRI、PET-CTなど聞き慣れない名前の検査スケジュールが一気に発生。

じゃあ次の公休にでも……と思っていたら「なる早で検査したいんすよね」と言われてしまい、先生の目の前で上司へ連絡を入れ、次の日に決まっていた研修をキャンセルし、後回しで問題無い検査は数日後の公休へ入れる事にした。

診察室を出た後、看護師さんから検査の説明を受ける。
入院させる事で部屋代とか稼ごうとしてるんじゃないか?とここでも納得がいかない自分、腹水の検査はどうしても入院しないと駄目なのか看護師さんに食い下がったが、あっさりと却下されてしまった。

この時点で自分はナメてたんだと思う、腹水と言うものを。
癌性腹膜炎を起こしていたから、腹水が溜まっていたのだ。

腹水とは何ぞや?

読んで字の如し、お腹に溜まる水の事だ。
胸に溜まるのは胸水。

健常時でも腹部にはある程度の水分があるそうで、粘膜などに吸収されたりまたどっかから染み出して来たりして一定量を保っている。

しかし、身体に何かしらトラブルやエラーが発生すると、水分が代謝していかなくなる。
結果、どんどん溜まる。
これが腹部なら酷くなるとお腹が蛙のように膨れてくるし、胸部なら肺が押されて呼吸に影響する。
主にお腹の中で炎症を起こしていると、腹水が出る事が多いようだ。
程度はどうあれ、何かしらトラブルが起こってるのは間違い無いだろう。

そして[らしい][だそうだ]ばかりで申し訳ないが、多用するのは自分は医者では無いから。
主治医に言われた事と自分なりに調べた事柄から「こう言う事か」と理解した事を書いている。
エビデンス云々とか突っ込むのは勘弁して貰いたい。

PET-CTとは何ぞや? 

初めて聞いた。
そもそも、CTはもう撮ってあると言うのに何が違うんだ。
説明によると、癌細胞にだけ反応する特殊な薬剤を点滴で体内に入れる事で、その部分が光って写ると言う。
しかしながらこれ、普通に検査したいです感覚でやって貰おうとすると、保険が効かない。

申請書の病名欄には[癌の疑いあり]と書かれていたので覗き込むと、「あ、これね、こう書かないと保険内で出来なくなっちゃうの。あくまで口実ね」と先生は言う。
診察の流れで必要と言う名目にしたら、保険適用されるそうだ。
そう言うものなのか。
何はともあれ、先生の配慮に感謝だ。

普通のCT検査の時に言われる、朝食抜き若しくは午後の場合朝食は◯時までに済ませる・水分は水かお茶くらいと言う事前準備の他に、糖分を出来るだけ控えるよう言われる。
何でもこの検査に使う薬剤が非常に高いそうで、取り寄せ対応。
失敗して薬を無駄にしてしまったら、また薬を取り寄せしたりして検査の日が先延ばしになってしまうのだ。

癌細胞は糖分を集めやすいとかで、軽く低血糖状態にする事で薬剤に含まれる糖分がそこへ集まってくれるんだとか。
うっかり過剰な糖分を身体へ入れてしまうとそれが分散してしまい、折角の検査が水の泡になると言う訳だ。
「甘いお菓子や飴も駄目ですからねっ」と何度も念を押された。

次の日は検査入院の予定が入っていたので、PCR検査もせねばならない。日帰りでも必要だから絶対に忘れないようこれも念を押される。

病院を出る頃には、陽がかなり傾いていた。

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